反転授業を効果的に機能させる4箇条 

布村奈緒子(ドルトン東京学園中等部・高等部副校長)

反転授業とは 

反転授業(Flipped Classroom)は、学習者が授業前に自分で学ぶことを前提とし、授業中にその知識を応用する学習方法である。BergmannとSams(2012)は、反転授業を「従来教室で行われていたことを家庭で行い、従来家庭で行われていた宿題を教室で行う」と定義している。また、「反転授業のためのインストラクションのデザイン」でストレイヤーは「授業時間は協働での省察と課題に充てられる」と述べている(ライゲルース, 鈴木(2020))。すなわち反転授業とは、一方的に知識を伝達し、理解をさせる従来教室で行われていたことを事前に行うことで、従来家庭で行われていた応用や演習を授業内で行ったり、従来授業で行われていなかった議論や討論等の活動を授業で行ったりすることができる学習のことを意味するのである。昨今ではテクノロジーの発達と共に、事前学習にビデオ教材やオンライン教材を含むことが多くなり、特に英語教育においては授業を対話の時間に充てることができる(Carhill-Poza, A. (2019)ことから注目されており, ESL環境下では特に2014年以降人気を博している(Turan, Z., & Akdag-Cimen, B. (2019))。 

従来型の予習「単語調べ・和訳」と反転授業の「予習」 

「反転授業」という言葉が知られるようになる前から日本の教育現場では長らく「予習・復習」という言葉は使われており、全国の小中学生が対象で平成19年から実施されている全国学力・学習状況調査においても「予習・復習を行っているか」という質問がされている。学習において「予習・復習」を行うことが大切であると認識されているのだが、この一般的に言われている「予習・復習」の予習と反転授業の「予習」は同義なのか。 

ベネッセ教育情報(2020年10月9日)は、日本の教育現場における英語授業前の予習として「単語調べ・和訳・問題演習・音読」が挙げている。これらを予習として行うのは授業で教師からの質問に答えられるようにするための準備とあり、いかに日本の中高での英語の授業が「この単語の意味は」「この文の意味は」と教師から問われる「知識の確認の場面」で止まっているかを示している。 

私はよく授業の中で「4-corners activity」と呼ばれる活動を行う。教室の4隅に異なる読解の文章を貼り付け、4人グループになった生徒たちは、自分の番号が書かれている隅の文章を読みに行き、戻ってきてからグループのメンバーに読んできた内容を伝え合う活動なのだが、この読解活動を行う時、私は「予習はなし」と伝えている。この時の「予習」とはいわゆる「単語調べ」「和訳」という「予習」を指しているのだが、その「予習」は事前に行って来ないように指示している。その理由は、授業の中で「未知語の推測力」と文章の大意をとる「スキミング」の技能を身につけさせたいためであり、「単語調べ」や「和訳」といった事前準備を行うことはそれらの技能習得の妨げとなってしまうと考えるからである。授業が「知識の確認の場面」でない場合は、一般的に言われている「予習」の必要がなくなってしまうことがあるのだ。 

では、英語の授業が「知識の確認の場面」ではなく「言語活動」が豊富に行われる場合、予習は不必要となるのか。大塚・今井・岩本(2022)は、大学の授業で「スモールトーク」を導入し、その「スモールトーク」を行うための事前準備として授業前に(1) トピックの選択 (2) 200語の語彙リストの中から使用する語彙を5語選択 (3)スモールトークリハーサルの実施、の3点を行うことを指示したところ、学生は事前にリハーサルを十分に行ってから授業に臨むようになり、スピーキング力向上が見受けられ、さらには自己効力感向上も見られたと述べている。これは、授業で「スモールトーク」という言語活動を行うからこそ、学生がそのスモールトークがスムーズに展開するように準備を行ってきたのだと考える。そして準備をしてからスモールトークに臨んだ方が準備なしで行うよりも心理的安全性が保たれうまく実施することができた体験が自己効力感向上につながったのだと考えられる。 

私も高校の英語の授業で十分にディスカッションの時間を確保するために、その準備としての「予習」を課したことがある。授業で行うディスカッションクエスチョンと4本の関連する新聞記事を事前にLMSにあげておき、生徒には指定された番号の新聞記事を1本読むことと、そのディスカッションに使えそうな語彙・表現を単語アプリで練習してディスカッションへの備えをするように指示をした。そうすると、生徒は授業で自分が読んできた新聞記事の内容をグループメンバーに伝えなければならないので事前に読んできて、ディスカッションで使えそうな表現をメモしてきた。 

令和6年の全国学力・学習状況調査では、概要や要点をとらえる活動、即興で伝え合う活動、発表、書く活動などが多く行われている学校に所属している生徒たちは、英語力や学習意欲が高い傾向が見受けられた。これは、英語学習において「概要や要点をとらえる活動、即興で伝え合う活動、発表、書く活動」といった「言語活動」中心の英語授業の展開が学校現場に必要不可欠であることを示している。「反転授業」が一方的な知識伝達を事前学習にまわし、対面での授業時間をより高度な応用や議論の時間に費やすことを可能とする授業手法であると考えると、英語学習に「反転授業」の手法を導入する場合はその授業の時間を「言語活動」に充てて、知識伝達の部分を全て事前準備としての「予習」に回すということが大切になってくるのではないかと考える。そして大塚・今井・岩本(2022)の大学における「スモールトーク」の事前準備や私のディスカッション授業の事前準備の事例こそが「反転授業」における「予習」と呼べるものであり、「単語調べ・和訳」を行う予習は「反転授業」の「予習」とは呼べないと考える。 

どうしても和訳のスキルを身につけさせなければならない時の「反転授業」 

 「言語活動」が授業に必要であることは理解しつつも、「和訳」をする力を入学試験に求める大学もあり、英語の授業の中で対応を迫られる場面がある。実際に私も高校3年生で国公立大学受験を控えている生徒たちにやむなく「和訳」をするスキルを教えなければならない事態に陥ったことがあり、その時に「反転授業」の発想を用いた経験がある。その授業では和訳の問題5問ずつある大学入試の長文問題集を扱っていたのだが、私は授業内で解説を行わず、代わりに自作の「解説動画」をLMSに投稿した。そして授業は、生徒が高次的思考力を用いてその和訳の問題の出題者の意図を分析し、話し合う展開とした。すると生徒たちは事前にある程度どういうところが話し合いのポイントになるのかを知りたくなり、解説動画を事前に見てきた。この解説動画の視聴は必須としなかったのだが、特に英語力が低い生徒は高い生徒に比べて動画視聴率が高かった。おそらく英語力が高い生徒は理解ができていたために解説を聞く必要性を感じず、一方で英語力が低い生徒は動画解説を理解できるまで自分のペースで複数回試聴したのだろう。解説動画が英語力が低い生徒への支援となり、授業では英語力が低い生徒も高い生徒も同じ土俵で議論を行うことが可能となった。 

この授業は「反転授業」の手法に加え「自己調整型学習」の要素も含まれている。授業が高次的思考力を用いた「話し合い」の場面になっていたから「予習」が「話し合い」に臨むための準備となり、事前準備の内容や時間を「自己調整」することを可能にさせ、事前学習も授業も生徒主体の学びとすることを可能とさせたのである。 

英語学習において何を「反転」させるべきか 

先述の通り、言語を習得するためには、十分な言語活動が不可欠である。しかしながら、この「言語活動」を中心とした授業展開を英語教員に紹介をすると、必ず「文法指導はどうしていますか」という質問を受ける。この質問の意図は「文法の解説を授業で行う時間をとっていますか」「文法の問題演習は行っていますか」という意味であると私は考える。この「文法指導」こそ、知識伝達部分を事前準備に充てた「反転授業」の手法が活きてくる場面であるのではないかと考える。 

井上 (2021)はインストラクショナルデザインをベースとしたフィードバックを中心とした文法指導を実践した。文法問題の実施、採点、返却までを事前課題とし、授業ではライブでの個別講評、質疑応答、意見交換等フィードバックを中心とした授業展開をおこなったのである。Alkhalaf (2023)はサウジアラビアの高校の英文法の指導で自己調整型学習(Self-Regulated Learning, SRL)を用いた反転授業とSRLを用いない反転授業を実施した。どちらのグループにも、事前に同じビデオ教材、PowerPointプレゼンテーション、2ページのWord文書のオンライン教材を提供し、SRLを用いた反転授業グループには、授業でフィードバック、クラスディスカッション、質疑応答、ふりかえりといった支援が行われた一方、SRLを用いないグループには個人タスクのみが提供された。授業後に文法力を測定した結果、SRLを用いた学習者の方が文法スキルが上がったという。 

以上の結果から、文法指導に反転授業の手法を取り入れることは文法スキルを向上させるのに有効であると考えるが、授業で教師が生徒に対して適切なフィードバックを行ったり、質疑応答の時間を設けたり、クラスメイト同士の協働的な学びを促進する学びの場を提供したりするとさらにその効果が高まることがわかった。すなわち、ビデオ等の文法教材を事前に学習者に提示をする反転授業の手法を取り入れても授業内でその事前課題に関連するフィードバック等がないと効果が限定的になると考える。反転授業の手法を文法学習に取り入れる場合には、事前の個別学習と授業内の協働的な学びが連動させることが大切になるのではないか。 

反転授業・個別最適化の学びの注意点 

個別最適化の学びの必要性を感じ、LMSを用いた反転授業の手法を用いる教師は多くいるであろう。教師は文法解説動画を作成し、LMSにあげ、生徒はその動画を試聴して問題集等の英語の学習に取り組む方法である。理解が早い生徒はどんどん先の動画視聴を行うし、理解に時間がかかる生徒は何度も動画試聴を行い、理解を深める。Modern Classroom Projectに代表されるような(1)ビデオを試聴し、講義メモをとって理解をする(2)講義で理解したことを元に練習を行う(3)教室内にある小テストをとり、実施し、教師に提出する、という3段階プロセスを各自生徒が行っていく方法である。日本では、Qubena (キュビナ)、やスタディサプリ等電子教材を用いて個別最適化の授業展開を行なった事例が多くあり、コロナ禍の自宅学習期間でも学びを止めることなく進めることができたため、注目されている。 

このような電子教材を取り入れた学びは、個別最適化の学びを促進する上で有効である一方、教師自身が単なる「進捗管理ツール」となってしまう懸念がある。「まだ提出されていないよ」「期日は○○日だよ」「○日までに△の単元までは進めなきゃだめだよ」「まだ△単元のテスト受けていないよ」このような声かけは生徒の進捗状況を把握しているだけで、本当にその生徒がどこで躓いているのか、なぜ生徒ができないのか、という生徒理解に教師の視点が向いていないため、教師の声がけが生徒の学習モチベーションが上げるワードとなっていないのである。個別最適化の学びの実現のためにICTをいくら用いても、生徒の学習動機が上がらなければ、本当は家庭で終わらせておいてもらいたかった事前学習も授業内で実施せざるを得ない状況になる。すると教室内で個々の生徒がPCに向かって個別の学習を進め、教師は「進捗管理ツール」として机間巡視をすることになる。そしてサボりたい生徒と学ばせたい教師の静かな目線バトルが始まる。教室内で英語での言語活動は行われなくなり、教室内は静かな学びの空間と化してしまう。このような授業は英語の授業として好ましくない。反転授業の方法を用い、個別最適化の学びを行うことは重要だが、本当に生徒たちの学びが起こっているのか教師はしっかり確認をする必要性があるのである。 

反転授業を機能させる4箇条 

では、英語学習において反転授業の手法を用いて個別最適化の学びを進めるには、どのようなことに気をつければいいのだろうか。 

反転授業を機能させる4箇条 

  1. 教室内では「言語活動」を行うかもしくは高次的思考力を用いた議論の場とする 
  2. 反転授業の「予習」は、教室で行う言語活動のための事前準備とする 
  3. 個人の学びと協働的な学びのバランスを意識する 
  4. 学びを自己調整できるようふりかえりの機会を適切に設ける 

反転授業を機能させる方法として上記の4か条を挙げる。上記の4か条を意識して反転授業を行えれば、英語学習がより促されると考える。まず、(1) 教室内では言語活動を行う。英語力向上には言語活動が不可欠であることから、まずは英語の授業を「言語活動」を中心とする必要がある。文法や和訳等の指導を行わないといけない場合は、分析や評価といった高次的思考力を用いた議論を行う場面としたい。そして、(2) 教室で行う言語活動のための事前準備を反転授業の予習とする。反転させる学習内容と教室内の活動が結びついていなければ、生徒は事前の学びを行う必要性を感じないため、教師は反転授業の予習と教室内での活動を結びつけるようカリキュラム設計をしなければならない。また、(3) 授業に協働して仲間と学ぶ場面があると、自らの考えを言語化する場面が生まれ、学習者の思考力を向上させる。だからこそ、授業では個人で学ぶ時間だけではなく、協働的な学びを行うペアワークやグループワークを行う時間を設ける必要があると考える。さらに、自ら学習を進めることができる力としてタイムマネジメントを行う自己調整力が大切であると昨今言われているが、そのような能力を育成するために(4) 常に学習を振り返る機会を持たせ、学習者自身が授業内外の学習に責任を持ち、継続した学習を進めるよう支援を行う必要がある。 

学習者自身が何ができて何ができていなかったのか、常にふりかえりを行いながら反転授業の「予習」として個人学習を行い、そして授業で「言語活動」を主とした他者との協働学習を行う。この個人学習と協働学習を学習者自身がふりかえりながらスパイラルに学んで行く授業の設計自体が反転授業を機能させる鍵となるのではないのかと考える。 

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(ぬのむら なおこ)