教員研修のススメ: 対面研修のすすめ

西村秀之(玉川大学准教授)

戻ると良いな・・いや、取り戻さねば

ここ10年を振り返ると学校教育の世界は激動の時代ではなかったでしょうか。一斉の臨時休校であったり、児童生徒1人1台端末の導入であったり、教員不足であったり、働き方改革であったり、学校現場に17年ほどお世話になりましたが、それほどのことは起こりませんでした。しかもそれが短期間に次々にといった具合です。ここ1〜2年落ち着き?や以前の生活を取り戻してきた様子はありますが、戻らないところもあるようです。

特に強く感じるのが教員研修です。新型コロナウイルス感染症を機に、学校のあらゆることのオンライン化が進みました。教員研修もその一つでした。当時いくつかオンラインでの研修を担当したことはありますが、通信や容量等の影響でしょうか、受講者の先生方はカメラオフでのご参加、真っ黒な画面に向かって話す研修は中々に一方通行となり、対面で同じテーマを扱った時との研修内容の質は全く違うものだな、と常に感じていました。

戻りつつあることもある学校の生活において、教員研修は中々元に戻らない現状をとても憂いています。確かに研修自体はオンラインで行うことができます。しかし、研修の内容にもよりますが、対面で行うのとではその質が異なり、特に授業改善を伴うものであれば尚更だと思います。これももしかしたら働き方改革の一環なのかもしれません。しかし、働き方改革は、「…教師のこれまでの働き方を見直し、自らの授業を磨くとともに…」(文部科学省,2019)と言われているように、一つは、先生方の授業の力を高めるために言われているところです。授業の力を高める方法は色々ありますが、その一つは研修が大きな鍵を握っていると思います。しかしその研修自体の数も減り、未だオンラインで行われているものも少なくありません。

また、残念ながら対面の研修の機会が戻ってきても実際に参加する先生方は戻ってこないという現状もあります。これは研修を行う側が更に先生方のニーズに応えられるよう工夫をしていくなどの必要がありますが、教員研修はオンラインで全てが済ませられるものではなく、研修会場への移動の時間は割かれますが、実際に対面で参加して、体験して、意見を交わして、という中で行われることでこそ得られるものがあるのではないかと思います。

今一度働き方改革で言われているように、どのように授業の力をつけていくのか、ということを考えられたらと思います。授業の力をつける上で教員研修、特に授業改善がテーマであれば、対面での教員研修がとても有効だと感じます。改めて教員研修の存在意義、見つめ直していく時ではと思います。これこそ新型コロナウイルス感染症後に、学校が取り戻さなければいけなかったことの一つではないかと強く感じます。

対面研修の良さ

それでも徐々に対面による教員研修の数は増えていきています。実際に対面での研修が再開した時には、「お帰りなさい!」という気持ちでした。何を隠そう授業が好きです。教えることが好きということではなく「わからない」といった表情をしている生徒や学生と共に考え、「わかった」などといった晴々した表情になる瞬間を見ることが好きです。今、大学でも授業が大きな支えの一つとなっています。

教員研修も同様です。先生方なので、「わからない」ということは少ないかもしれません。でも私自身もそうでしたが、普段の授業を教員の感覚で行なっていることが多く、一つには、研修の場は先生方が普段行なっていることを意識化、言語化していくことで、ご自身のご実践を明確にしてもらうことが晴々した表情につながるかな、と思い行なっています。

「今日ご参加の先生方はどうかな」、と(恐らく)見せている表情は笑顔でも内心はドキドキしながら表情を見ています。「ペアワークよく取り組んでくださっている」「わからなさそうな表情しているな」など、話を進めながらも受講してくださっている先生方の表情を見ながら、伝え方や例示、ペアワークの時間などその場その場で変えながら、一人でも多くの先生が晴々した表情でいらしていただいた意味を感じ、研修を終えて欲しい、と願いながら進めています。

授業や教員研修も目の前の児童生徒や、先生方との対話だと思っています。研修となると一方的に、というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません(もちろん情報や知識を伝達するという趣旨の研修もあります)。担当する多くの研修はワークショップ形式にしてもらっているので活動が盛り込まれてはいますが、進める側としては、ほぼ初対面の先生方の困り感はどこにある、どのあたりに興味がある、どのようなことを知りたいと感じている、など先生方の表情や発言、ペアワークの様子などから汲み取り、予定しているものを変更したり、進め方を変えたり、いわばインタラクションしながら進めるよう強く意識しています。ですので、同じテーマの研修であってもその終着点は研修ごとに異なることも珍しくありません。

教員研修、特に対面でのワークショップ形式の研修は、研修を行う側がある程度の枠組みは提供するものの、その内容は研修を受けてくださっている受講者と作り出していくものではないか、その空間にいる人たちだけにしか作れないものではないかと考えます。それは対面研修ならではの醍醐味です。そのような研修を通じ、始めは怪訝そうな表情をされていた先生が研修終わりには晴々した表情を見せてくれた時、「そうだよな。」「そうそう、自分もやっていた」「自分の実践はこういうことだったのか」と良い学びや気づきに繋がってくれたかな、と何よりもホッとする瞬間です。

イメージ、具体を体感する

今こそ教員研修が、特に対面による教員研修が大切ではないかと思います。だからこそ教員研修の数が減っていること、対面の研修が減っていること、先生方が対面の研修に足が向かなくなっていることを危惧しています。

今は採用形態も変わってきているので、一概には言えないところはありますが、経験年数が10年前後までの教員の数がこの10年では変わってきています。平成28年度の公立中学校の教員の年齢構成は35歳未満までが24.8%であったのが、令和4年度には、32.2%となっています。同様に高等学校では17.6%であったのが、22.4%となっています。今、学校現場では経験年数の浅い先生方の締める割合が徐々に増えてきている傾向にあります(文部科学省,2024)。

経験年数の浅い先生方の指導力が、ということではありませんが、学校における“研修”が成り立たなくなってくる可能性があると感じます。

教員になりたての頃は右も左もわからず、辞令を受けたその数日後からは教科の指導はもちろん、学級担任の業務、部活動の顧問としての業務、校務分掌等々、次から次へと矢継ぎ早に仕事が降ってきます。教科指導については、大学の教授法等で触れてはいたものの、遠い過去の話で記憶をたどりながら教科書を捲りめくりどのように授業を行おうか、としていた記憶があります。そのような折に、校内の先輩の教員にアドバイスを受ける、などを極々当たり前にさせてもらっていました。また、授業を進めていく中で色々行き詰まることもありました。そのような時には、相談させてもらったり、授業を見に行かせてもらったり、していました。いわばそれは校内における“研修”のようなものでした。特に、授業を実際に見させてもらうということは、より自分の授業の具体を考えられとても貴重な時間でした。

しかし、経験年数の浅い先生方が増えるということは、そのような校内におけるアドバイスを受けたり、授業を見させてもらったりなども中々難しくなるのではないか、と経験と照らし合わせると感じます。まだまだ経験年数の浅い時期にこそ、こうした研修の機会があることが大切だと思いますが、実際にはその逆の状況になりつつあるのが現状です。

先日、ある勉強会で授業における先生と生徒のインラタクションについての話題になりました。多くの授業を見させてもらうのですが(見させてもらった授業がたまたまそうであったかもしれませんが)、先生と生徒の英語でのインタラクションを見ることが多くありません。そこは特に中学校では(小学校でもですが)生徒の英語の力を伸ばすには大切なことではないかと考えています。そのことをお話したら、「特に若い先生方は生徒と英語でやり取りすることが(どのような展開になるかなど予想がつかないため、など)怖いようですよ」ということを聞きました。それはとても衝撃的なことではありましたが、「経験したことがないことをやりましょう、と言われたところで不安でしかないよな。不安なら敢えて行おうとはしないよな」と思いました。でも授業ではとても大切なこと…そのギャップを埋めるものこそ、教員研修なのではないでしょうか。

校内でそれが機能するのであれば一番良いのですが、状況的にそれも厳しい現状が垣間見られます。対面でかつワークショップ形式に取り組める研修が、授業力を高める、授業改善を考えるのであるならば、今こそこれまで以上に必要なのではないかと強く感じます。

これまで多くの教員研修を行わせていただきました。その中で一つ感じていることは、授業改善に繋げていくのであれば実際に(映像でも良いので)授業を見ること、実際にマイクロティーチングを行うこと、が有効だということです。授業改善の考え方をいくらお伝えしたところで、実際に授業に立ってみると「あれ?」となることも多いと思います。百聞は一件にしかず、と言われているように、実際に見る、体験する、ということは授業を改善していくにはとても大切なことです。実際に見てみるからこそ、自分の授業のシミュレーションができたり、実施に行ってみるからこそ、「思っていたことと違う」などの視点が見えてきたりするのではないでしょうか。実際にマイクロティーチングを含んだ研修を行なってみると、「話で聞いてイメージしてみたことと、実際に行なってみるとではその捉えが違った」という声も多く聞きます。また、実際にマイクロティーチングを行なってみると、字面では理解していたけれども、その合間に戸惑われてしまうこともあったりします。でも1回行ってみるとそこは先生方、2回目以降は難なく進めていく様子も見られます。それも経験したからこそのことだと思います。対面研修はそれができる絶好の場ではないかと考えます。

教員研修のすすめです。かつて先輩の先生に言われました。「子どもは1日の大半を学校で過ごし、その大半が授業。その授業がつまらなかったら、そりゃ子どもは寝るだろうし、学校にも来たいと思わないよな」と。極々当たり前のことですが、今一度その原点に戻り、改めて皆で授業改善、授業力をあげることを研修で一緒に考えていきつつ、実際に力を高めていけたらと強く思います。

対面研修は行き帰りを含めると時間のロスはあるかもしれませんが、それだけの価値はあるものだと思います。また、その行き帰りの時間が、というところこそ働き方改革で時間を生み出し、本来皆で高めるべきところとへと目を向けていかれるようになることを願っています。

<参考文献>

文部科学省(2019).「学校における働き方改革について」.文部科学省.

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/index.htm, (参照2025.1.5)

文部科学省(2024).「学校教員統計調査 -令和4年度(確定値)結果の概要-」文部科学省.

https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/kekka/k_detail/1395309_00005.htm, (参照2025.1.5)

(にしむら ひでゆき)