鈴木千貴(横浜市立金沢高等学校)
はじめに
今回、掲載する内容は、前任校の横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校・附属中学校の理数科での実践内容になります。私は、前任校(YSFと述べさせてもらいます。)では、高校生を教えておりました。本題に入る前に、YSFの特徴について紹介したいと思います。
YSFが目指す教育
YSFは、日本全国の高校の中で、数少ない理数科のみの高校で開校16年目になります。1学年6クラスで構成されており、英語・国語・数学・理科等の科目では少人数での授業を行っています。また、大部分の生徒は国公立大学の理系を第1志望にしておりますが、文系志望の生徒や私立大学に行く生徒もいます。
(1)教育理念
学問を広く深く学ぼうとする精神と態度を培いながら、生徒一人ひとりが持つ潜在的な独創性を引き出し、日本の将来を支える論理的な思考力と鋭敏な感性をはぐくみ、先端的な科学の知識・智恵・技術・技能を活用して、世界で幅広く活躍する人間を育成します。
(2)教育目標
1.広い視野、高い視点、多面的な見方を身につけさせ、ものごとに対する柔軟な思考力・解析力を培い、論理的頭脳を養います。
2.旺盛な探求力、豊かな創造力、世界に通じるコミュニケーション能力、自立力を培うことによって、よりよく生きる知恵を養います。
3.社会における己の使命を自覚し、積極的に社会に貢献しようとする志を養います。
4.人格を陶冶し、有為な社会の形成者としての品格を養います。
5.幅広い知識と教養を身につけ、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな心身を養います。
(3)教育方針
「驚きと感動による知の探究」「将来の進路」を決めていくにあたって、教員側の役割として、先端科学技術の知識・智恵を活用して、世界で幅広く活躍する人物の育成を行います。生徒に身につけてほしい4つの力として、探求力・創造力・コミュニケーション能力・自立力を求めています。そして将来の進路を考えて方向性を決めていくための日々の学校生活(先端科学技術4分野の学習・先端科学の研究者の講義や演習への参加・国際交流・海外研修・校外研修)を通して「驚きと感動」を体験します。さらに、「知の探究」として理数教育の充実・少人数指導・進路に応じた選択科目の設定・英語教育の充実を図っています。
高校1年次・2年次で私が担当した科目について
YSFの英語のカリキュラムは次の通りです。英語は、少人数授業で展開しております。(科目によって多少の人数のばらつきがありますが、およそ1クラス20人~27人位です。)
1年次
・英語コミュニケーションⅠ
2クラス3展開で授業を行い、習熟度別クラス編成を取り入れています。4単位の科目です。週に100分授業が1回。50分授業が2回あります。
・OCPDⅠ
1・2年次のOCPDはCALL教室とプレゼンテーションスタジオを使い、YSFに常駐していますAETとともに実践的な英語力を育てるYSF独自の授業です。OCPDは、Oral Communication for Presentation and Debateの略称です。100分授業を前半・後半の50分ずつに分けて、例えば、前半50分は、Call教室で、副教材を主に使って行いListening, Speaking, Writing を中心に、生徒は、Pair-workやGroup-workを通して様々な学習活動に取り組みます。後半の50分は、AETとのTTという形式で、Output中心の授業を展開しています。英語コミュニケーションⅠの授業では、検定教科書を用いて4技能5領域の統合的な授業を行っております。語彙や文法の学習もこの科目の授業で行います。この授業も、Pair-work、Group-workの形式で授業を行うことを中心としています。
2年次
・OCPDⅡ
OCPDIIの上位科目のような位置づけになります。OCPDⅠよりは、やや難易度の高い内容(研修旅行で英語で発表したり、3学期のまとめとしてのpresentationをするという学習目標を意識した内容)を取り扱う授業を行います。(詳細は後述します。なお、高校2・3年次の他の科目につきましては、紙面の都合上、割愛させていただきました。)
また、YSFのカリキュラム上の特徴として、Science Literacy (SL)Ⅰ・Ⅱが必修科目として設定されています。これは、課題研究型の授業で、1年次では、プロジェクトベースの実習を通して、研究の基礎となる知識や技能を身につけます。2年次では、6分野15のコースに分かれて、個人で設定したテーマについて1年間研究を深めます。英語の授業では、SLⅠ・Ⅱの授業でプレゼンテーションやスピーチをするのに必要なスキルの向上を主な目的として、OCPDⅠや英語コミュニケーションⅠの授業においてspeech, discussion, debate, presentation等のOutput活動を行います。(詳細は後述します。)
YSFが独自に行う「横浜IDEALS」について
YSFが実践している「横浜IDEALSプログラム:InterDisciplinary Empowerment Approach for Leading Scientists(先端サイエンティストのための教科の枠を越えた育成法)」の開発と普及に関して述べておきたいと思います。
正解が一つしかない問題に1人で答えるのではなく、未知の状況において問題の本質を把握し、それぞれが持っている知識を智恵に連動させ、チームで協働して最適解を検証・発信する力を育成するという観点からYSFでは、横浜IDEALSで育成する資質・能力を下記の6つに定め、研究開発を進めています。
【横浜IDEALSで育成する資質・能力】
1課題発見力
2課題探究力
3課題解決力
4情報収集力
5ディスカッション力
6プレゼンテーション力
上記の6つの資質・能力をどのように日常の授業の中で高めていくかという点につきまして、私が担当した3つの科目(英語コミュニケーションⅠ・OCPDⅠ・OCPDⅡ)での授業実践の中で触れたいと思います。
英語コミュニケーションの授業
活動内容としては、4技能5領域統合型の授業において、思考力・判断力・表現力を高めるために与えられたTaskやTopicについて、Productionの活動を継続的に行いました。また、英文を読んで、読んだ内容に関する要約+自分の意見を英語で述べたり(Retelling)調べたことを発表するためにWritingからSpeakingへと展開する統合的な言語活動を行いました。
・英語コミュニケーションⅠの目的
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、簡単な情報や考えなどを理解したり、表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を次の通り育成することを目指します。
(1) 外国語の音声や語彙、表現、文法、言語の働きなどを理解するとともに、これらの知識を聞くこと、読むこと、話すこと、書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身につけるようにします。
(2) コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、日常的な話題や社会的な話題について、外国語で簡単な情報や考えなどを理解したり、これらを活用して表現したり伝え合ったりすることができる力を養います。
(3) 外国語の背景にある文化に対する理解を深め、聞き手、読み手、話し手、書き手に配慮しながら主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養います。
・英語コミュニケーションⅠの授業方法
50分授業と100分授業で教科書ELEMENT(啓林館)を使用しました。単元ごとに軽重をつけて指導を行いました。つまり、じっくりコースの単元が約6~7時間、あっさりコースの単元は約4~5時間を単元ごとの授業時数として、じっくりコースの単元の最後にパフォーマンステストを行いました。たとえば、1学期はLESSON 1の英文のタイトルは、Scidmore’s Cherry Treesだったので、本文の内容理解➔音読➔Retellingを行ったあと、Writingとして、email reply ( AETにおすすめのお花見の場所を紹介する内容(タイトルはWhere is the great place to watch the cherry blossoms? )です。実際、YSFに常駐しているAET宛のメールを作成するWritingの活動でした。指導のポイントは約60~80語程度のWritingにおいて、「おすすめの花見の場所」「その場所を選んだ理由」「花見の場所に関する追加の情報」の3つをいれて、Introduction, Body, Conclusionという流れで論理的に内容を書いていくことでした。やはり、特に理系の分野では論理的に物事を考えて発信していくことが大切ですし、生徒は、まだ論理的な思考力を使ってWritingやSpeakingをすることに苦手意識を持っていますので、生徒にとって身近な話題(LESSON 1では「花見」)をもとに論理的に英語を書くことに少しずつ慣れさせることが重要と考えました。また、discourse markerなどを用いて英語を書く指導も行いました。
たとえば、1学期はLESSON 1の英文のタイトルは、Scidmore’s Cherry Treesだったので、本文の内容理解➔音読➔Retellingを行ったあと、Writingとして、email reply ( AETにおすすめのお花見の場所を紹介する内容(タイトルはWhere is the great place to watch the cherry blossoms? )です。実際、YSFに常駐しているAET宛のメールを作成するWritingの活動でした。指導のポイントは約60~80語程度のWritingにおいて、「おすすめの花見の場所」「その場所を選んだ理由」「花見の場所に関する追加の情報」の3つをいれて、Introduction, Body, Conclusionという流れで論理的に内容を書いていくことでした。やはり、特に理系の分野では論理的に物事を考えて発信していくことが大切ですし、生徒は、まだ論理的な思考力を使ってWritingやSpeakingをすることに苦手意識を持っていますので、生徒にとって身近な話題(LESSON 1では「花見」)をもとに論理的に英語を書くことに少しずつ慣れさせることが重要と考えました。また、discourse markerなどを用いて英語を書く指導も行いました。
次に、LESSON 3では学習活動の最後のゴールとして、Retellingを行いました。LESSON 3のTopicは環境問題でした。特に理数科の生徒は、この分野に興味・関心を持っているようでした。この単元はScene 1 ~4までありますが、実際のRetelling TestはScene 1 ~ 3のどれか1つを生徒自ら選んでRetelling Testを受けました。参考までに、LESSON 3 のScene1 ~3のModel Retellingを掲載します。
Title: Bye Bye Plastic
Scene 1
Melati and Isabel were children from Bali. They learned about significant people like Gandhi at school. They thought that although they were children, they could make a difference. At that time, the people of Bali were suffering from plastic garbage. They produced plastic garbage that could fill a 14-story building.
Scene 2
Melati and Isabel began their campaign to ban single-use plastic bags. Their first efforts were to give out non-plastic bags to local stores. In order to attract attention from the government, they decided to collect one million signatures at the airport. Because of this, they were asked to talk about their campaign on TV and at the United Nations.
Scene 3
Although their campaign had been successful, no answer came from the government of Bali. So Melati and Isabel decided to go on a hunger strike so that they could get their attention. Finally, the governor of Bali met them and thanked for their campaign. In 2016, a 2-cent charge on single-use plastic bags started, but it ended quickly because the amount was too low to be effective.
評価はABCの3段階で、Bの条件は、45秒前後で与えられたキーワードをすべて使うこと。そして、リテリングした内容のあとに自分の意見を言うことでした。なお、キーワードの中には、理系の分野でよく使う語彙を入れておきました(たとえば、plastic garbage )。またAの条件として「約60秒以上話して自然なリズムでなるべく自分の言葉を使ってリテリングしている」です。ただし、自分の意見を言う時は、fluencyは評価の対象にしませんでした。リテリングテストの時、生徒のパフォーマンスをボイスレコーダーで録音して、その後のフィードバックとして活用しました。
次に、LESSON 7 においては、Technology and Discoveries がトピックだったので、理科の実験でよく使う専門用語の学習をさせました。具体的には、beaker, molecule, microscope, laboratory tube, forceps, telescope, flask, toxic materialなどです。さらに本文中には、serendipityに関する語彙も出ていましたので、本文の内容理解の時に背景的な知識として生徒に学習させました。
上記で述べましたように、YSFで使用していました高校1年の検定教科書には、理系に関する分野の単元が2つしかありませんでしたが、特に、Speaking, Writingの活動の際は、preparedで準備をしていく段階で、論理的な思考力を高める指導をすることで、今後、理系の化学や生物等の分野のスピーチやプレゼンテーションにおける発信力、表現力の基礎を固めて、さらに理系の専門分野でのプレゼンテーション力を向上させることに繋げていくことがとても重要であると考えました。また、語彙レベルでいうと、教科書等で学習した、理系分野での語彙を物理・生物・科学等のプレゼンやスピーチで自分の言葉・知識として、活用できるようになることを期待しています。
OCPDⅠの授業について
OCPDⅠは、Oral Communication for Presentation & Debate Ⅰの略称です。100分授業を2つに分けて、たとえば、前半50分は、CALL教室でJET単独の授業、後半50分はプレゼンテーションスタジオでAET単独の授業になります。1クラス20人の少人数で授業が行われます。
・Course Description
OCPD Ⅰis an integrated language skills course that helps students improve their English speaking, listening, reading and writing skills through individual and group activities. Students will improve their overall 4 skills in English by practicing a wide variety of activities such as presentations and communicative activities.
・Course Objectives
Develop a broad range of tools to use English to meet the following goals.
(1) To improve the 4 skills in English in a well-balanced manner
(2) To do presentations in English confidently using effective presentation skills (especially for your presentation on the study tour )
・Evaluation
Students will be evaluated on the following; Weekly Test Score / Exam score / Presentation / Essay / Assignment / Attitude, etc.
・AETによるPD section の授業について
昨年度実践した例を2つ掲載しておきます。
(例1) Persuasive speech: Try to make your listeners agree with you. Give them good reasons. Choose a topic:
1. Should high school students have to take P.E. class?
2. Should the driving age in Japan be lowered to 16 or should it continue to be 18?
3. Should all high school students in Japan have to work part-time jobs?
4. Should high school students have to do club activities?
Use the structure we talked about below: (use at least 2 reasons)
この活動の注意点:
生徒がpersuasive speechをするために書いたメモを見て個々の生徒の意見・理由、具体例または説明を教師が把握して生徒へのフィードバックに活用しました。
Grade: ( 30 points )
Content / Structure 10points, Gesture (clear) 5points, Inflection 5points, Eye-contact 5points, Delivery ( volume, pronunciation, posture, etc.) 5points
Time: 0:55~1:45
(例2) How to Explain a Chart
Use I.E.E.T. ( Introduce, Explain, Emphasize, and Transition ) to explain charts.
Step 1: Introduce
What kind of chart is it? What does it show?
Step 2: Explain
What is on the chart? What do the different parts mean? You don’t have to show EVERYTHING.
Step 3: Emphasize
What is IMPORTANT or INTERESTING? (1-3 things)
Step 4: Transition
Smoothly move to the next part of the speech.
Make a statement or ask a question to your listeners.
If you have another picture / slide, answer it there.
上記のSTEP1~4までの各段階で英文の書き出し部分や使える表現の生徒用のワークシートに掲載しました。(今回は紙面の都合上、割愛させていただきました。)生徒は、上記のワークシートを用いて、英語でのプレゼンテーションをするための練習をします。このタスクの大きな目的は、探求力、課題解決力、プレゼンテーション力の向上です。この活動の後にAETが用意したいくつかのグラフ(円グラフ・棒グラフ・折れ線グラフ)から生徒各自、1つを選んでPreparedな活動の最後のまとめとしてプレゼンテーションテストを行いました。プレゼンのトピックは次の通りです。
1 What streaming services do you watch?
2 What % of users is on Desktop vs Mobile vs Tablet?
3 What is Your Favorite Star Wars Movie?
4 CONTINENTS STUDENTS HAVE VISITED
5 Visitors to Tokyo Tower
6 What day do you watch You Tube the longest?
Evaluation: Eye-contact, Physical Delivery, ( Posture + Gestures ), Vocal Delivery (Volume + Inflection)
Common Issues: Looking at screen too much, Feet or body not facing audience, Not pointing DIRECTLY to chart, No greeting / goodbye.
上記のようなproduction activity を行うことで、教員側の気づきとして次のようなことを述べてみました。
・生徒にとって身近な話題から少しずつ理系(生物・化学・物理など)の話題に移していくことで生徒の意欲・関心・探求心・課題解決への取り組みが高まってきました。
・プレゼンやスピーチが苦手な生徒でもスモールステップで支援をしながら指導をすることで、生徒の英語での発信力・プレゼン力の向上がみられました。
・今後の課題としては、preparedなactivityだけでなく、即興的なspeaking力を高めていくことで、 より本当の意味での生徒の英語力のアップを図る必要があると思いました。
最後に、OCPDⅠの年間の学習目標を掲載しておきます。
1目的・場面・状況に応じて、日常的・社会的な話題について、聞いたり読んだりして、話し手の意図や概要、要点、詳細を捉える。
2日常的・社会的なトピックについて、論理展開に留意し、様々な語彙や文法を活用して、聞き手を意識しながら、英語でやり取りしたり、プレゼンテーションをしたりする。(私の実践から言えば、様々な語彙の中には、理系の分野でよく使われる語彙や表現も含めました。)
(すずきちたか)