高校英語:授業が変わるJS活用の実際

                           吉田章人(日本女子大学附属高等学校教諭)

1  はじめに 英語教育の根、幹、枝、葉、そして花
本稿では、高等学校の英語教員としての立場から、ジャパンスタンダード(以下JS)を日々の授業づくりにどのように活用してきたかについて、述べることにする。高等学校に限らず、現場の教員は、生徒に学力という花を咲かせるために、授業をしている。その一方で、その花を咲かせるための、根、幹、枝、あるいは葉と言った大切な要素について、思いを巡らすことにどれだけの時間を割いているだろうか。

私たちが英語教育を行う場合、第一に「何のためにそれを行うか」という目的をはっきりとさせなければならない。そして、その目的が定まればその目的を達成するための教材が作成されたり、選択されたりする。そして、明確な目的のもと、適切な教材を用いて、授業が行われる。その授業では、教材を料理するための様々な指導技術を駆使して、様々な活動が行われる。そして最後にそれらの活動の成果を評価するために、テストが作成されたり、成績がつけられたりする。更にその評価の結果を受けて、それまでの目的、教材、授業が当該生徒にとって本当に適切であったかどうかを見極め、必要があればそれらの修正を図り、より良い教育活動へつなげてゆくことになる。

こうした目的、教材、授業、評価という4つの要素は、日々教育活動を行っている教員であれば誰でも意識して行っていることであるが、こうしたことが個々のレベルを超えて、各教員間で話し合いがなされ、日々共通認識を持つための努力が行われているかというと、現実は日々の雑務に忙殺され、そのような時間を持てないというのが一般的ではないだろうか。また、こうした話題を教員同士で話すことが、個々の教員の心情に合わず、タブー視されている職場すらあると聞く。個々の英語教員が、それぞれに違った理想を持ち、それが反映された授業が行われることは、それはそれで素晴らしいことではあるが、それらの教員たちが1つのチームとしてまとまって、同じ目標に向かって授業を行うことができれば、さらに素晴らしい英語教育が生まれるのではないだろうか。

日本の学校における共通した目標とは、学習指導要領上にその概要が記載されている。
<表1-1 学習指導要領 外国語科 目標>

中学校外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う。
高等学校外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動及び、これらを結び付けた統合的な言語活動を通して,情報や考えなどを的確に理解したり適切に表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
出典)文部科学省『中学校学習指導要領』『高等学校学習指導要領』より抜粋

さらに、現行の学習指導要領では、英語の運用能力とは次の4技能5領域であるとされている。

 

1. 聞くこと
2. 読むこと
3.1 話すこと(やり取り)
3.2 話すこと(発表)
4. 書くこと

これはJSの元になっているCEFRで示された英語運用能力であり、それが学習指導要領へ反映されたものと考えられる。JSのディスクリプタもまたCEFRを参照して作成されたものであるため、現行の学習指導要領においては、むしろJSを現場に活かすことは、以前の学習指導要領下においてよりも、より効果的に活用することが可能になる。

その一方で、現場ではこの学習指導要領の4技能5領域、または外国語科の目標を意識することはあるかと言えば、決してそうではない。「花は根を忘れる」のたとえの通り、日々の忙しさにかまけ、その根底にある目標や意義について思いを巡らすことが少ない。ところが根を忘れると、日々の授業が試験範囲を終えることだけが唯一の目標となり、その場しのぎの長期計画のないものになってしまう。そうかと言って、目標があればそれで良いのかというとそうではない。学習指導要領に記されている外国語科の目標は、抽象度が高く、それを授業の目標にそのまま当てはまることは難しい。授業に役立つ、授業をより良く変える目標とはどのように設定したらよいのであろうか。

日本で2022年に入場者数が累計8億人を突破したある有名なテーマパークの創始者は、お客様に夢と感動をプレゼントするために、一番最初に力を入れたことは、「掃除」だったそうだ。そこで日々の清掃作業を徹底させるために、「掃除の目標」を立てたであるが、それは「赤ちゃんが園内をハイハイしても大丈夫なくらい綺麗にする」というものだった。このくらい映像がはっきりと目に浮かぶような目標を英語の授業でも立てることができれば、その根っこを十分意識しながら、日々の指導にあたることができるのではないだろうか。

このように目標を「〜できる」という形で記述したものを能力記述文(以下ディスクリプタ)、そしてそれをリスト化したものをCAN-DOリストと呼ぶ。次項よりCRFRを元に日本の英語教育の中で効果的に活用できるように作成されたJSを活かした目標・教材・授業・評価の仕方について述べてみたい。

2. 高校英語科目:「論理・表現Ⅱ」におけるJS活用の事例 〜目標設定編〜
2.1 大目標の設定
現行の高等学校外国語科学習指導要領で初めて登場した新科目「論理表現Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」は、先に示した4技能5領域の中の主に、「話すこと[やり取り]」、「話すこと[発表]」、「書くこと」の3つの能力を生徒に身につけさせることと記載されている。
そこで筆者がこの科目を担当する際に、JSの能力記述文を参考として以下のような目標を設定した。

<表2-1 論理・表現Ⅱで設定した目標>

話すこと(発表)自分が興味のある事柄を説明し、その特徴や素晴らしさを話したり、書いたりして、相手に伝えることができる。
書くこと
話すこと(やり取り)身近で具体的、または抽象的な話題について、自分の意見を述べ、相手の意見を聞き、その共通点、相違点を理解することができる。

参考にしたJS能力記述文は以下の通りである。
【B1.1話す/総論】
時には言いたいことが言えないこともあるが、個人的な関心事や経験、身近で具体的な話題であれば、比較的詳しく話せる。
【B1.1話す/各論】

内容により緊張を伴う場面でも、自分の感情や感想、夢や希望など個人的なことは伝えられるが、抽象的なことを述べるには困難がある。
【B2.1書く/総論】

自分の知識・関心のある身近な話題について、経験した内容や、事実や想像上の出来事、自分の考え意見、伝えるべき情報などを、わかりやすく詳細に書くことができる。

「話すこと」と「書くこと」の参照したレベルが違うのは、本校の生徒の現状を鑑みて、「話す」能力よりも「書く」の能力の方が比較的熟達していると判断し、あえて高い目標を設定した。こうした授業の大目標を設定する際には、JSが大きな力となるが、大目標は英語運用能力を身につけさせることだけではなく、教師が理想とする教育の考え方が反映されるようなものにして行きたい。例えば、筆者であれば、英語教育の目標では以下の2つのことを大切にしている。1つは、好きな分野は人それぞれ違うが、生徒一人一人が自分の好きなこと、素晴らしいと思っていることを、相手に伝えられる人になってほしいと願っている。それは日本語で伝えることができるだけでも素敵なことであるけれど、もしそれを英語ですることができれば、世界中の人にそれを伝えることができる。この思いが、「話すこと(発表)」と「書くこと」の中に込められている。またもう1つは、英語でコミュニケーションを図ることを通じて生徒たちに、お互いの違いを個性として認めることができる人間になってほしいということである。言うまでもなく、英語でコミュニケーションを取ることができるようになると、様々なバックグラウンドを持った人々と出会うことになる。こうした人々との違いを楽しめるような人間になってほしいという願いを、「話すこと(やり取り)」の目標の中に込めた。

2.2 中目標・小目標の設定
大目標が設定されたところで、JS の主に各論ディスクリプタを参照しながら、中目標、小目標を立てる。筆者の勤務する高校は、2期制で年間4回の定期試験があるため、これを節目として、4つの中目標を設定した。表2-2の目標は、前期中間テストまでの「話すこと(発表)」、及び「書くこと」の目標である。前期中間テスト後にスピーチを行うことを前提として、その原稿を作成することを目標としている。この中目標は、以下のJSディスクリプタを参照にした。

【B1.2書くこと/各論】
自分の得意分野の事柄について、2〜3パラグラフ(2~300語)程度で構成された文(簡単なエッセイ、スピーチ原稿、レポート、説明、講義ノート、ほんや記事の要約、議論や発表のまとめなど)が書ける。

表2-2 中目標と小目標のイメージ

中目標を設定した上で、テストまでの授業時間数を数え、その1回、1回の授業の細分化された目標を設定する。
こうすることで出来上がったのが、以下に示す全12回の前期中間テストまでのカリキュラムである。いかに高邁な理想を掲げても、現実に与えられた授業回数には限りがある。そこで、まず授業時間を数え、12時間であればその時間内に達成可能な中目標、そして小目標を考えていくことで、現実的な目標が設定される。目標が現実的であればあるほど、そこから実際の授業における指導に結びつけやすくなる。ここまでやって初めて、目標が単なるお題目に終わらず、授業を変える目標にまで高めてゆくことになるのである。そのために、JSのディスクリプタが、大きな役割を果たすことができる。

表2-3:JSから作成した科目「論理・表現Ⅱ」のカリキュラム

内容教材扱う技能
自己紹介文を書くことができる教科書 pp.5-7W
意見を述べることができる (1)自主教材L & R
意見を述べることができる (2)——–S & W
お勧めの場所を説明する文を書くことができる教科書p.9-11W
意見に対する理由を無生物主語で述べることができる(1)p62L & R
意見に対する理由を無生物主語で述べることができる(2)教科書+自主教材W
意見に対する理由を無生物主語で述べることができる(3)自主教材S & W
思い出の品にまつわる物語を書くことができる教科書p.27-30W
思い出の品にまつわる物語を話すことができる教科書p.12,16S
「時制」を用いて効果的に物語文を書くことができる自主教材W
「話法」を用いて効果的に物語文を書くことができる教科書p12, 16W
スピーチ原稿の作成:英語で自分の意見を理由と共に述べ、さらに具体例でサポートした説得力あるスピーチ原稿が書くことができる自主教材L & R

3. JSを活用した教材・指導法の開発
こうして大目標から、中目標、小目標が設定されると、その小目標を達成するための、授業内で実施する具体的な活動を考える段階に入る。表3-1にまとめた通り、授業内で行う活動とは、たとえそれが英会話であったとしても、普段日本語でコミュニケーションを取っている者同士で、英語で話すこととなり、実際のコミュニケーション活動とは似て非なるものである。しかしだからと言って、教室内活動に意味がないというのは短絡的な判断で、生徒同士の英会話では確かに新しい単語や表現を習得することは少ないが、英語を話すことに慣れるという意味ではとても効果的である。

そこで実際のコミュニケーションの場面を想定した上で、ベストな教室内活動を選んだり、教師自ら作り出す必要がある。そして実際のコミュニケーションの場面を想定するために大きな効果を発揮するのが、JSのディスクリプタなのである。JSのディスクリプタを注意深く読んでゆくと、「ニュースを聞く」「スピーチをする」「雑誌を読む」「手紙を書く」など、実際のコミュニケーションの場面を想定することが容易になる。それらを身につけるためにはどうすれば良いかという観点から、授業内活動やそれを実施するのに必要となる教材の開発へと着手することができる。

図3-1:実際のコミュニケーションと教室内活動の共通点と相違点

教室内活動とは、表3-1の通り大きく分けて2つの種類に分けられる。1つは「教室内言語活動」と呼ばれるもので、実際のコミュニケーションの場面と同じように、実践形式に近い形で、いわばオープンスキルを扱う活動である。その一方で、教室内学習活動とは、ディクテーション、音読、コピーイングなど、実際のコミュニケーションの場面で行うことはあまりないけれども、コミュニケーション活動ができるようになるための下地を作る活動で、主にクローズドスキルを扱う。この2つの活動の違いを他の分野で言えば、スポーツにおける練習試合や実践形式の練習が、教室内言語活動にあたり、筋力トレーニングや基礎訓練が教室内学習活動に相当すると言える。

スポーツの世界でも、試合で勝ちたければ練習試合だけをしていても力はつかない。そうかと言って、基礎訓練だけをしていても試合の勘が磨かれることはない。やはり両者をバランスよく配合することが必要である。英語教育においても、JSをはじめとしたディスクリプタで、実際のコミュニケーションの場面を思い浮かべながら、効果的な教室内での言語活動、学習活動を設定するこことが大切である。ここで、筆者が実際にJSを用いて作成した教材を紹介しながら、その指導法についても言及したい。

3.1 授業内学習活動を想定した教材作成の例

参照ディスクリプタ:
【B1.2書く/各論】
複雑な内容でなければ、主文(main idea)に支持文(supporting sentence)を加え、読み手を意識してパラグラフ構成をしっかりと書ける。

以下の教材は、上記のディスクリプタを参照として、パラグラフライティングにおけるTopic Sentence(主題文)を様々なバリエーションで書けるようになることを目標として作成した教材であるが、こうした活動は普段のライティングでは行わない基礎訓練に相当することから、授業内学習活動であると言える。

○意見を切り出した後に、考えを述べる際には以下の2つの表現をよく使います。
Useful Expressions
Pattern A:意見を切り出す表現 + S + should +動詞の原形.

例)I think that P.E. classes are important for university students.
⇒ I think that university students should take P.E. classes.

1. From my point of view, volunteer work is good for high school students.
⇒ From my point of view, high school students ( ) do volunteer work.

2. In my opinion, English is necessary for children in kindergartens.
⇒ In my opinion, children in kindergartens ( ) ( ) English.

3. I believe that reading newspapers is good for students.
⇒ I believe that students ______________________________

4. I don’t think that computers are necessary for everyone.
_______________________________________
☆ Enrich Your Expressions☆
should+動詞の原形(〜するべきだ)を、受動態:should be +過去分詞(〜されるべきだ)にした方が自然な場合があります.
例)I think that teachers should allow their students to use smartphones in class.
⇒ I think that students should be allowed to use smartphones in class.

1. I believe that kindergartens should teach English to their children.
⇒ I believe that English ( ) ( ) ( ) to children in kindergartens.

2. From my point of view, Japan should ban the death penalty.
⇒ From my point of view, the death penalty _____ in Japan.

○3.1 授業内言語活動を想定した教材作成の例

参照ディスクリプタ:
【B1.1話す/各論】
内容によってはたどたどしいところがあるが、事実関係を調べたり、理由を説明したりすることができ、聞き手に理解される発話を維持できる。

上記のディスクリプタを参照し、生徒にとって身近な話題でありながら、理由を説明する必要があるような話題をトピックとしたディスカッションの教材を作成した。

Discussion & Writing

State Your Opinion _に言葉を入れ、自分の意見を完成させましょう.
1. In my opinion, (school subject) is more interesting than (school subject).
Your Partner’s Opinion: ⬜︎ Agree / ⬜︎ Disagree

2. It is my opinion that playing (sport) is more fun than playing (sport).
Your Partner’s Opinion: ⬜︎ Agree / ⬜︎ Disagree

3. I believe that (food) tastes better than (food).
Your Partner’s Opinion: ⬜︎ Agree / ⬜︎ Disagree

Useful Expressions 1 相手の意見に反応する時には、次の表現がよく使われます.
☑︎ 賛成する場合: I agree with the idea. / I am for the idea. / That’s a good idea.
☑︎ 反対する場合: I disagree with the idea. / I am against the idea.

Practice in Pairs 例を参考にペアで意見を交換し、上の⬜︎に✔︎を入れましょう.
Ex.
A: In my opinion, English is more interesting than P.E. What do you think of this idea?
B1: Well… I am for the idea. I also prefer English to P.E.
B2: I am against the idea. P.E. is more exciting for me.

Let’s Discuss!
⬜︎ Step1: 左の1~3の英文をもとに、最上級の文を作りましょう.

1. In my opinion, _____ is the most interesting subject.
2. It is my opinion that playing _____ is the most fun.
3. I believe that _____ is the most delicious food in the world.

⬜︎ Step 2: 3人のグループで以下のような話し合いをしましょう.
Ex.1 価値観を伝え合う
A : In my opinion, English is the most interesting subject. How about you, B?
B : To me, P.E is the best.
A : What’s your opinion, C?
C : I’m certain that Math is the most interesting.

Ex.2 理由を尋ねて、議論を深める
A : I like English the best because it is very useful.
Why do you like P.E so much, B?
B : Well… I like it because it makes me healthy.
A : Why do you like math, C?
C : Because the answers always result in a single number.

4. おわりに 小・中・高・大の一貫した英語教育の構築を目指して
以上、JSを活用することによって、目標設定、教材、及び指導法の開発をする実践事例を述べた。今回の実践事例は、筆者が担当した「論理・表現Ⅱ」を具体例として挙げた。私自身、JSを活用することで、毎年度、4〜5人という比較的大人数の教員が担当する科目であっても1つの目標に向かって、お互いの個性を尊重しつつ共通理解を持ちながら、進んでゆくことができることを実感することができた。

今後のJSの可能性としては、そうした教員間の共通理解を科目内だけではなく、科目間、学校間、または世界との間に広げてゆくことである。図4-1のように、縦のラインを小・中・高・大と教育指標を一貫化するのはもちろんのこと、横のラインで世界的な英語教育指標であるCEFRとの互換性を持たせることにより、学校で学んだ英語のレベルが世界で通用するレベルに基づいていることを生徒・学生が理解することができる。こうした構想で指標を構築することにより、ジャパンスタンダードを元にした各学校の英語教育スタンダードが構築できるものと確信している。

図4-1 JSが目指す一貫性と互換性

主な参考文献
1) Council of Europe.(訳・編吉島茂・大橋理枝)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』朝日出版社、2004年)
2) 吉田章人他『本学園の高等学校・大学における英語教育の一貫したカリキュラム・シラバスの開発 — 日本女子大学 英語教育スタンダードの構築を目指して —

                                                   (よしだあきと)