[ELEC英語教育賞]
2023年度ELEC理事長賞受賞校取組
南種子町立南種子中学校

小学校外国語科における「ジリツした学習者」の育成を目指した学習者主体の授業実践
~ICTを利活用した「個別最適な学び」,「協働的な学び」の一体的な充実を目指して~

2023年度 ELEC英語教育賞 ELEC理事長賞を受賞した南種子町立南種子中学校の取組を紹介します。

1.取組前の問題状況

 文部科学省から『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)』が出され,「個別最適な学び」,「協働的な学び」の観点から,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を日頃から進めている。
 また,鹿児島県教育委員会から出された『「主体的・対話的で深い学び」の視点からの一層の授業改善に向けて』には,学習者主体となる授業づくりについての指針が出され,「ジリツした学習者」の育成についての提言がなされた。
南種子町内の小学校8校のうち1校は単式学級,7校は複式学級であり,極小規模校も多い。複式学級は人数が少ないため,一人一人にきめ細かな指導ができる利点はあるが,コミュニケーション活動の活性化が課題である。単式学級がある学校では,35人学級であり,コミュニケーション活動は活発にできるが,一人一人に合った指導が難しい現状がある。そのため,「個別最適な学び」と「協働的な学び」となるような授業改善を行うとともに,児童が学習した内容をこれからの将来や生活に生かしたり,他教科との学習や同じ町内にある他校の児童とのつながりを感じたりさせることが必要である。

2.改善目標  

  1.  個別指導の在り方の模索【個別最適な学び】
  2.  コミュニケーション活動の活性化【協働的な学び】
  3.  学習した内容のつながり【教科等横断的な指導】

3.目標達成に向けた具体的な活動内容

個別指導の在り方の模索【個別最適な学び】

ア  単元の導入で見通しをもたせる指導
 単元の第1時で単元構成や学習する内容のスライドを使って順に説明し,単元の概要を把握させることにで,自分たちがこれから行う学習活動に見通しを持たせた。また,どのような学習を行うのかという実際の活動を具体的に提示することで,単元の概要をより明確に把握させ,単元末の活動に至るまでに自分たちはどのような知識・技能を身につけなければならないかを考えさせ,活動に前向きに取り組めるように指導した。

イ  自らの学びの調整を行う単元を通した指導
 児童が学びの主役になるよう,単元全体を通して児童一人一人が自分たちの学習進度に応じた授業を展開できる自由進度学習を取り入れた。児童は,ワークシートに1単位時間の自分がやるべき課題を明確化し,活動を開始する。目標を考える際に,注意事項や求められる力についての指導も行っている。また,「学習状況把握シート」を用意し,教師が児童とともに進み具合を確認しながら学習できるようにした。教師は,学びの伴走者として適宜助言や指導を行っている。ワークシートにはQRコードが掲載されており,より学習を深めていくための動画やお手本などを閲覧できるように工夫を行った。
 

ウ  ICT機器を利活用した発展的な課題
 前述したように,単元末の活動で自分たちが行きたい国について発表を行うが,その次の発展的な課題としてタブレット端末を活用した非同期のコミュニケーション活動を取り入れることにした。対面でのコミュニケーションでは,相手の表情や動きを間近に見ることができ,円滑に意思疎通を行うことができるが,オンライン及び非同期になると聞き手に伝えたい内容や意図を,より汲み取りやすく意識した表現活動や意思疎通を図らなければならない。そこで,単元末の発表とは異なり,場面に合わせたコミュニケーションで必要なスキル(ジェスチャーや説明を付け加える英語など)を使う場面を意図的に作り出すなど,より実践的な指導を行った。
 

コミュニケーション活動の活性化別指導の在り方の模索【協働的な学び】

ア  対話(インフォメーションギャップ)を利用した活動
 児童同士で新出表現を使ったコミュニケーション活動を行わせる際は,タブレット端末ロイロノートを活用した。データを配布し,児童はそれに記載されている情報をもとに,活動を行うことにし,取得した情報は,一人一人異なるように作成した。相手と対話をしなければ,情報が得られないように工夫している。そうすることで,必然的に新出表現を使用し,相手とコミュニケーション活動を行う場面を作り,情報収集を通してより対話的な活動になるのではないかと考えた。データは視覚的に分かりやすいよう工夫しており,資料を提示しながら新出表現を使い,コミュニケーション活動を行うことで,より高度な会話表現に取り組ませることができた。

イ  聞き手に効果的に伝えるための工夫

英語でコミュニケーションを円滑に行うために必要なものとして,つなぎ言葉や相槌がある。相手に自分の反応を伝えるリアクションワードを作成し,本単元では一貫して指導を行った。児童に分かりやすいよう,その時間でたくさん使ってほしい表現をいくつかに絞り,それらを黒板に掲示してコミュニケーション活動をする前に指導した。児童が活動を行っている際は,児童の様子を細かく観察し,児童や学級全体によくできている点を伝えた。また,改善が必要な点は教師が途中で形成的評価を行い,指導助言を行った。そうすることで,その後のコミュニケーション活動がより充実したものになった。

ウ  小学校間の連携
 南種子町では8つの小学校があり,外国語専科として町内全ての学校で指導している。その指導形態とICT機器を利活用し,町内の児童が外国語の授業を通して交流が図られるように授業展開を行っている。具体的には,自分の紹介したい国についてタブレット端末で発表動画を撮影し,それを教師が管理しているサイトに投稿することで,QRコードを作成することができる。それらを他の児童が読み取ることで,その発表を見ることができるようなシステム作りを行った。

 また,その発表を見て,内容の聞き取りをさせるだけでなく,その内容に対して自分の言葉を付け加えて,動画で返信をし,やり取りを行う学習を展開した。返信内容については,発表を聞いてどのように思ったかを考えさせて,適切なリアクションができるように指導し,返信用の撮影を行い,他校の児童の発表の良い点を書かせたり,発表させたりした。

 さらに,他校の動画を見る児童のグループ編成は,南種子町教育委員会が学期に1回主催する交流学習(町内小学校が集い,同学年が一緒に学習する会)で,同じグループになった児童同士が交流できるようにワークシートを工夫している。そうすることで,他校の児童との交流が生まれ,より強い絆に発展し,来年度の中学校入学時にお互いが面識のある状態で中学校生活が始まるため,中1ギャップの解消に資すると考えている。また,極小規模校でのコミュニケーション活動を活性化させる手立てとして有効であった。

学習した内容のつながり【教科等横断的な指導】

ア  教科横断的な視点での学び(社会科)
  本単元では,教科書の内容に,海外の世界遺産やその数について学習する内容がある。
そこで,海外だけでなく,我が国の世界遺産や海外の世界遺産との違いについて指導を行った。タブレット端末を活用し,我が国の世界遺産がどのようなものが挙げられるか,自分たちで調べた国の有名な食べ物,習慣や文化について調べてグループで話し合いをさせた。
また,自由進度学習で進捗の早い児童については,教科書の単元に関連した内容を選ばせ,深く理解させるための教材を準備し,自分の興味関心のある分野について調べ,まとめさせ,学習の個別化を図った。主に社会科や日常生活と関連付けた内容を調べまとめられる課題を設定した
イで紹介したワークシートの続き)。

4.得られた成果とその評価 (○成果 ●課題) 

  • ○ 年度当初と学期末に「英語の授業が好きですか」という項目に対して4件法でアンケートによる調査を行った(120人の児童対象。4が「英語の授業が好き」である。1が「英語の授業が好きではない」)。結果は,年度当初は平均3.02(最頻値3)であったのに対し,学期末では3.55(最頻値4)で上昇している。また,「外国語の授業が楽しみ」,「他の学校の友達の発表を聞いて返信するのが楽しみ」というコメントがあり,主体的に学ぼうという姿が見られた。
  • ○ 英検ESGでは,町全体の問題通過率が85%と高い数値であるとともに,評価として3段階中,最も高い評価にある生徒が83%を占める結果となった(6年生)。
  • ○ ペアで練習する際に,カードにイラストや実際の写真が記載されており,実践的な場面が生まれ,積極的にコミュニケーション活動に取り組む児童の姿が見受けられた。
  • ○ 他校の児童に発表を聞かせるという相手意識をもたせることで,児童は発表がどのようにすればよりよくなるか,自分たちで試行錯誤をしながら発表の練り上げを行い,録画することができていた。
  • ○ 年度当初と学期末に「英語の授業が好きですか」という項目に対して4件法でアンケートによる調査を行った(120人の児童対象。4が「英語の授業が好き」である。1が「英語の授業が好きではない」)。結果は,年度当初は平均3.02(最頻値3)であったのに対し,学期末では3.55(最頻値4)で上昇している。また,「外国語の授業が楽しみ」,「他の学校の友達の発表を聞いて返信するのが楽しみ」というコメントがあり,主体的に学ぼうという姿が見られた。
  • ○ 英検ESGでは,町全体の問題通過率が85%と高い数値であるとともに,評価として3段階中,最も高い評価にある生徒が83%を占める結果となった(6年生)。
  • ○ ペアで練習する際に,カードにイラストや実際の写真が記載されており,実践的な場面が生まれ,積極的にコミュニケーション活動に取り組む児童の姿が見受けられた。
  • ○ 他校の児童に発表を聞かせるという相手意識をもたせることで,児童は発表がどのようにすればよりよくなるか,自分たちで試行錯誤をしながら発表の練り上げを行い,録画することができていた。
  • ● 会話練習の際に,フレーズへの慣れ親しみが足りず,コミュニケーション活動がうまく行えないため,日本語を使ってしまう児童が数人いたため,適宜指導を行った。
  • ● 町内すべての小学校で授業計画をそろえる必要がある。また,指導者が同じであるからこそできるシステムである。 

(2023年度ELEC英語教育賞 南種子中学校の申請書を編集して掲載しました)