ELEC英語教育賞
2023年度受賞校取組
柏の葉中学校
中学校の英語学習指導におけるリテリングの指導
~プランニングからリプロダクションにとどまらない再話を目指す~
1.取組前の課題
2021年度に柏市で採択された開隆堂SUNSHINE ENGLISH COURSEでは、各課にRetellという活動が設定されている。佐々木は、リテリングは本文の言語形式を自分の言葉に言い換えたものとし、本文の言語形式とほぼ同じ発話はリプロダクションとして区別して(佐々木啓成.リテリングを活用した英語指導.大修館書店,2020,p7)論じている。しかし、この2年の取組みを振り返ると、生徒の発話がテキストの暗唱に近いリプロダクションにとどまっていると感じ、リテリング指導に課題を抱えていた。英文読解後の活動として、テキストの概要や要点を自分の言葉でまとめ、テキスト内容について自分の考えを加えて聞き手に伝える活動に改善したいという思いがある。
また、本校は各学年に1名ずつ英語科教員が配置されているため、指導方法を共有する時間が十分ではない。リテリングについて共通認識を持ち、どのような手立てが有効なのか考え、共有する機会が必要だと思った。
2.改善目標
Teacher’s Talkや音読での十分な内容理解を行った後に、生徒自身がテキストの内容を整理し、自分の言葉で伝えるリテリングを行うことができる手立てを明らかにする。
3.目標達成に向けた具体的な活動内容
- 本校生徒にリテリングについての意識調査と実態把握
- 各学年での検証授業
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(1) Teacher’s Talkの充実
(2) テキストの内在化後にJamboardを使ったPre-task planning
(3) Formsを使った授業の振り返りと活用
4.得られた成果とその評価
(1)本校生徒にリテリングについての意識調査と実態把握
本校の実態を把握するために、7月に中学2年生36名に対して行った調査(足利奈央子et al. 中学校英語授業における効果的なリテリング指導について-インプットとアウトプット活動の往還と自己調整学習による質の高いパフォーマンスを目指して. 上越教育大学教職大学院研究紀要, 2023, 10, 205-216. )で用いられたリテリングに関する5件法での14項目の意識調査と「リテリングで困っていることや難しいと感じていること」と「英語学習に役立つと感じるところや楽しいと感じること」の2点について回答を得た。(1年生は、リテリングの検証授業を行った10月に実施した。)結果を見ると、先行研究に比べて、本校の生徒はリテリング時に正しい英文を使えているかどうかを気にせず、別の表現で言い換えたり、通じればよいと考えて伝える内容を重視したりする傾向が強いことが分かった。一方で、即興的な活動に対しての抵抗感はより強く抱いている傾向が見えたが、学年が上がるにつれて原稿がなくても、絵やキーワードだけでリテリングができる割合が増えた。また、リテリングの経験を積むほど、色々な人に発表したり、発表を聞いたりする中でパフォーマンスが向上すると感じている。
リテリング活動の「困難さと疑問」と「有用性や楽しさ」についての自由回答は、木下(木下康仁.定本 M-GTA 実践の理論化を目指す質的研究方法論. 医学書院, 2020,pp62-226)が提唱する修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)の分析方法を使い、言語データを概念化しカテゴリーを生成して、結果図にまとめた。ここでは、3年生のみ掲載した。
3年生では、2年生よりもテキストがより長くなり内容も増えるために情報の取捨選択や発話内容の再構築に難しさを感じている。また、テキストが長くなるために内在化が十分に行われない生徒が増え、情報の取捨選択が難しい場合にテキストの暗記になってしまうことを課題点に挙げる生徒がおり、筆者が昨年度感じた課題とつながる。一方で、3年生では「楽しさ」を挙げる生徒も多く、テキスト情報を取捨選択してまとめ、自分で既習語彙や文法を使いながら英文を考えて表現することに達成感を感じている(図1)。さらに、各々がテキスト内容をまとめ、自分の考えを含んだ発話はテキストの暗記とは違い、バリエーションが見られるためにペア活動での学び合いがより楽しいものとなっている。リテリング活動は、スピーキングだけでなく、テキスト読解や語彙・文法の習得、即興の英作文、プレゼンテーションの足がかりとなっているため、総合的な英語力の向上に寄与していると感じている。また、2、3年生ともにリテリング活動が自身の英語力の成長と課題を自己評価する機会となっているとの回答があった。
本調査からは何を話すかや感想などを整理して、自分の言葉でリテリングをするための準備が必要であることが確認された。そのため、Pre-task planningに注目し、以下の3つのプランニングの条件によって目標とするリテリングに近づくかどうか検証することとした。
① Task(ここではリテリング)を繰り返し行うこと(rehearsal) ② 教師が提示した絵とキーワードを使って5分プランニングをしてからリテリングを行う(guided strategic planning) ③ 教師が提示した絵に自分でキーワードを入力し、5分間プランニングをしてからリテリングを行う(unguided strategic planning) |
(2)各学年での検証授業
各学年で教科書本文の読解時に①十分なTeacher’s Talkを行い、生徒が十分なイメージを持ってテキストを読むこと ②テキストの内容理解を十分にしたのちにプランニングの時間をとること(1.2年生はJamboard、3年生はワークシートを使用) ③Google Formsでの授業の振り返りを行った。Jamboardは図の移動が容易であり、テキスト入力を使ってキーワードを書き込むことができる。また、柏市のITアドバイザーと連携して、生徒がワークシートを見ながら、スクリーンキャプチャとカメラの録画機能を使用してリテリングを録画する仕組みを作った(別紙)。Front Cameraを使い、生徒の顔、キーワードを入力したワークシート、音声データを含む動画データを提出する方法を生徒が理解することでリテリングの評価につなげることができた。
- 2、3年生
ア 単元 Program 6 The Way to School
Program 7 Research on Australia (SUNSHINE ENGLISH COURSE 1)
イ 目的 熟達度の低い生徒にもpre-task planningの効果があるか検証する
2、3学年ともに各プログラムのThink1では音読後にペアで与えられた絵とキーワードで繰り返しリテリングを行い(rehearsal)、Think2では各自で絵と与えられたキーワードで準備(guided strategic planning)をしてからリテリングを行い、Think3では各自でテキストからキ
ーワードを抜き出し、与えられた絵とともに準備(unguided strategic planning)したのちにリテリングを行った(表1)。各授業で、8項目(表2)について5段階の振り返りを行った。その結果、strategic planningは相手に分かりやすく伝えるために話す順序を工夫してリテリングを行うことと、⑦テキストの内容に自分の考えを付け加えることに役に立ったと感じている生徒が多いことが分かった。また、④と⑧の項目は2、3年生ともに全体的によくできたと感じており、
リテリングを通して、テキストの内容を整理し、要点や概要をつかむことができることを示している(表3)。また、「要点や概要をとらえ、教科書と違う表現でリテリングするために音読後に必要なプランニングはどれだと思うか」の調査では、2、3年生ともにrehearsalとの回答が最も多かった。2年生では、次にguidedが多かったが、3年生ではguidedとunguidedが同数となったため、熟達度が高くなることで、自分でキーワードを選びながらテキストの内容をまとめ、自分の言葉で再話ができるようになる可能性がある。
- 1年生
ア 単元 Program 5 Work Experience (SUNSHINE ENGLISH COURSE 2)
Program 5 The Story of Chocolate (SUNSHINE ENGLISH COURSE 3)
イ 目的 rehearsalとstrategic planning(guidedとunguided)の有用性の検証
1年生では、熟達度に関わらず、プランニングの効果があるか検証するため、語彙サイズテスト(JACET Vocabulary Acquisition Research Group.)と実用英語技能検定の過去問題5級~3級から問題を抜粋した読解力テスト(平均値53.47、中央値50)を実施した。Pre-testを除く5回の検証授業で2、3年生に実施した8項目について振り返りを行った(表2)。結果より、テキストの表現をそのまま暗唱するのではなく、言葉を言い換えたり、テキスト内容を整理したりして伝えられたと実感している。また、流暢に話すことができるようになったと感じた生徒の割合も増えた。音読後に必要なプランニングについては、2、3年生同様にrehearsalと答えた生徒が最も多く、次にunguidedが続いた。
次の英文は、Aさん(語彙サイズ3771語/読解テスト100点)とBさん(語彙サイズ723語/読解テスト35点)の生徒のプレテスト・Program6・Program7・ポストテストでのリテリングを記したものである。Aさんは、リテリングの最初に場面説明が含まれる。また、言い換えや感想も多く含まれていた。また、”So”や”also” but”などを用いて文と文の結束性を高めている。 Bさんは、文の誤りは多いもののstrategic planningの時間を設けたProgram6、Program7では、感想を付け加えることができていた。また、プレテストとポストテストの比較では、多くの情報を再生できるようになった。テキストジャンルや内容にもよるが、strategic planningにより、テキストに深くかかわることで自分の感想を付け加えられる傾向が見られた。
(2023年度ELEC英語教育賞 柏の葉中学校の申請書を編集して掲載しました)