ELEC出前研修レポート
川崎市立菅生中学校
「表現力を高める指導の工夫」
ELEC出前研修
‐実際の授業を踏まえた研修や指導助言、専門家が継続的に学校を訪問‐
ELECでは2015年度より英語科教員の指導技術向上のために、求められる知識や技術を提供する「ELEC出前研修」(授業改善のための専門家派遣事業)を実施しています。英語教育の専門家(大学教授や教員研修指導経験者)が継続的に学校を訪問し、先生方の疑問・課題と実際の授業内容を踏まえた指導助言や研修を行っています。ELEC通信では、実際に出前研修を実施した学校の事例をご紹介していきます。
※当面の間、毎年申請のあった数校に対して講師謝金や旅費をELECが負担して、無料で研修を実施しています。応募等の詳細は出前研修のページをご参照ください。
2015年度ELEC出前研修を利用した、川崎市立菅生中学校の事例を報告する。研修講師は、東京家政大学教授 太田洋先生に担当していただいた。
- 生徒が考える活動をどう仕組むか。様々な活動をどう有機的に結び付けるか。
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菅生中学校は平成26年度より川崎市の研究推進校に選ばれ、英語科教員が協力して実践研究を進めていた。主題は「表現力を高める指導の工夫」。3年間で育てたい生徒像を「他を認め自己を発信することができる生徒」とし、具体的な目標を「中学卒業期までに学習した学習内容や中学校生活の思い出を小グループで卒業ビデオに収め,クラスで発表し,作品について意見を交換すること。」と定めている。
平成26年度は「発表活動」「書く活動」「協同学習」を軸として、帯活動・書く活動・発表活動を含む様々な活動を取り入れたが、生徒が考える活動をどう仕組むか、また各活動をどう有機的に結び付けるかが課題となった。そこで、平成27年度は、「生徒の興味関心にあった題材を取り上げて、CLIL的な言語活動を設定する」、また各活動を有機的に結びつけた指導を目指して「第二言語習得理論に則って授業を積み上げる」をテーマに研究を進めた。理論と実践を結びつけて効果的な指導を行うことを目指し、専門家の指導助言を求めてELEC出前研修を活用することとなった。
- 菅生中学校の授業
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上記の研究テーマを達成するために、授業では以下の取り組みを実践している。
- 帯活動を積み上げて育てる(1 minute chat、small talk 等)
- 教科書の題材を深めるオーセンティックな教材、生徒の関心にあった教材を用いる。
- 教師と生徒、生徒同士のインタラクションで考える場面を仕組む。協同的な活動を重視する。
- 教科書・文法指導はPCPP(Production→Comprehension→Practice→Production),
ESA(Engage→Study→Action)の手順に則って行い、最後には産出の活動を設定する。
- 実際の研修の様子
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英語科の研究スケジュールとして、2015年7月、9月に校内授業研究会、2年間の研究の総まとめとして、11月に研究報告会が予定されていた。それにあわせて、7月、8月、10月の3回にわたり出前研修を実施した。
[1回目(7月)]
初回は校内授業研究会で2年生の授業DVDを見ながら報告、研究協議を行った。
授業では、チャンクで区切って英文を暗唱する帯活動、メインの活動として、海外旅行の想定で、グループでスキット作りを行い、評価シートでは「発表を見た・聞いた上で自分でも質問をしてみよう」という内容を組み込んだ。
太田先生からは「表現力を高める指導」のポイントとして以下のような助言を受け、それを元に7月以降の授業を組み立てることとなった。<表現力を高める指導のポイント>
- (1)Inputを豊富に与えること
- アウトプットのためにはインプットが重要。単文レベルのものだけでなく、生徒の話している映像・作文等よい事例をアーカイブ化しておき、生徒に提示できると良い。
- (2)表現活動に慣れること
- 発表、やりとり、書く、話す等、3年間でどのような表現活動を行うかを考えて 表にしておくと良い。
- (3)formに意識を向ける時間を作ること
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- 活動の前・中・後、それぞれの場面で、その活動に関連したフォーム(文法・ 語彙・音声)に意識を向ける時間を作ることが重要。
- 実際の発表の前に、きちんと言語のミスや音声の誤りを修正する時間を持つ。
[2回目(8月)]
第二回研修では、4名の教員が取り組んできた研究を報告、意見交換を行った。帯活動として取り組んでいる、Who am I? QuizやTarget sentence relay、one minute chatや、ALTへのインタビュー活動を中心に報告した。太田先生からは以下のようなアドバイスがあった。
- 生徒たちが言いたい、伝えたいと思える活動をする。
- 今まで習ったことから選んで使う活動を考える。
- outputのためのinputを考える。
- ALTのより効果的な活用を考える。
- 生徒たちの表現力が高まるとこうなる、という生徒像を英語科教員で共有すると良い。
[3回目(10月)]
第三回研修では、9月14日の校内授業研究会(3年生の授業)の報告と研究報告会に向けた検討を行った。3年生の授業では、ALTにグループでインタビューし、わかったことをまとめて発表する、という活動を実施。発表方法も、クイズ形式やスキット等、各グループが工夫した。
太田先生からは、各教員の悩みに対して適切な助言をしていただき、研究報告会に向けて、以下を整理して研究の全体像を示すようアドバイスいただいた。<研究発表に向けて>
- 日頃の活動(点)とそれを生かした大きな活動(面)をどう設定しているかを振り返る。
- 表現したいと生徒に思わせるため、どのような活動をしたかを振り返る。
- 菅生中学校の強みは、生徒が言いたいことを英語で言おうとしている点。そこにcorrective feedback(recastやprompt等)を与えて、生徒自身に誤りや正しい表現に気づかせることが重要。
- 研修を終えて
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出前研修を受講された先生方からは、「放課後や研究会ではなかなか話せない悩みや疑問が出され、課題や取り組む内容が明確になった」「校内で共通理解を持つ良い機会となった」「理論的な裏付けのあるアドバイスと共に、とにかくやってみようという気持ちにさせてもらった」という感想をいただいた。
11月に開催された研究報告会では、菅生中学校の先生方が進めてこられた研究全体を俯瞰するチャンスに恵まれた。研修主題である「表現力」について、太田先生は「accuracy(正確さ), fluency(流暢さ), range(表現の選択肢の多さ)」を高める必要性を説きながら、菅生中学校の取り組みを分析された。「生徒の表現力を高める」というのは、生徒の英語使用を充実させることが求められている現在関心が集まっているテーマであり、他校の先生方にも参考になる研究だと感じた。
(文責 ELEC教員研修部)