これまでの10年、そしてこれからへ  ~「5ラウンドシステム」の実践を通じて見えたこと~

西村秀之(玉川大学大学院准教授)

「5ラウンドシステム」が平成24年に考案され、授業を始めてから早くも10年が経ちます。たった1校の取り組みが英語の授業の方法として10年間続き、更に広がりを見せているということは驚きであると同時に、嬉しくもあります。今回は、一区切りとしていくつかの視点からこの10年を振り返りながら、今後に向けて記していきます。

1  5ラウンドシステムとは

「5ラウンドシステム」(以下、5ラウンド)とは、生徒の表現力を育むことを目指して考案された英語の授業のカリキュラムです。

通常、英語の授業のカリキュラムは、教科書のレッスンやユニットに沿って1から順番に行われていくことが多いかと思います。この5ラウンドの特徴を端的に表すと、「年間に教科書を5巡(4巡)する授業」となります。10年前このカリキュラムを始めた当初は、そのように説明すると、「年間に教科書を5回しか使わない」とよく勘違いされたものですが、実際には教科書一冊を通して1〜2ヶ月周期で終わらせ、それを5回繰り返す形となります(図1)。

「単に5巡するのか」というとそうではなく、それぞれ取り組む活動は異なってきます。具体的には、

○ラウンド1…音声による教科書本文の内容理解
○ラウンド2…大まかに理解した教科書本文の音声情報と文字情報の一致
○ラウンド3…教科書本文の音読
○ラウンド4…教科書本文に設けられた空所に必要な語彙や表現を補充しながら音読する穴あき音読
○ラウンド5…教科書本文をリテリング

と、このように教科書を異なるアプローチで5巡使用して1年間の授業を終える形となります。また、授業では、教科書を繰り返し扱うと同時に帯活動等の英語を活用する場を設けており、両輪で発話力を高めていきました(図2)。 

2  5回繰り返すことに意義があるのか?

1の冒頭で「5ラウンド」と言いながら、「年間に教科書を5巡(4巡)する授業」との説明に、「4巡?」と思われたかもしれません。実際に1年生では5巡で行っていましたが、2年生以降は4巡で行っていました。

この5ラウンドシステムは「5巡する」というところが注目され、「5回繰り返せば良いんでしょ」といった声もよく聞かれます。しかし、この「5」という数字はたまたまであって始めから「5回繰り返そう」と考えたわけではありません。たまたま5回繰り返すという形になっただけであり、繰り返しは大事だと考えますが、「5回」繰り返すことに意味があるわけではありません。5ラウンドは、5回繰り返すやり方ではなく、授業改善がそもそもの出発点なのです。

実際にこのカリキュラムで授業を行っていた生徒は、2年生になる頃には初見の英語も音声化がある程度出来るようになっていました。そこで、2年生からは、1年次にラウンド2として行っていた音声情報と文字情報の一致をなくし、ラウンド1の音声による教科書本文の内容理解の後に、音読へと進んでいったわけです。5ラウンドが授業改善であるからこそ、目の前の生徒の状況に応じてその進め方が変わっていったのです。

実際に授業を行っていると、その授業内であったり、次の授業に向けてであったり私たち教員は様々授業改善に取り組んでいることと思います。この5ラウンドは、私たち教員が日ごろ行っている授業改善の一環なのです。

3  どのように授業改善を考えていったのか?

この「5ラウンド」のスタートは「自分の言葉(英語)で自分のことを語れる生徒」の育成を目指し、授業をどのように作っていくかを考えた始めたところにあります。その目標に向かい授業づくりを教員として初任時から取り組んでいましたが、改めて新しい学校へ移りどのように目標に向かっていくか、ということを考えました。その際に主に考えたことは、

①  生徒の実態

その時出会った生徒は、小学校での外国語活動を1ないし2年間受けてきた生徒であり、こちらの言っている英語を何となく理解し、楽しんでいる様子でした。聞くことに慣れている、何となく理解しようとしている、という印象であり、そこは大事に授業を作っていきたいと感じました。

①  第二言語習得の考え方

 言葉の学ばれ方がわかってきているのなら、その考え方を授業に反映できないものか、ということを考えました。具体的には、大量のインプットを授業において生徒に触れさせる中、段々とアウトプットへと無理なく展開するということでした。それまでの自分の授業を振り返ってみると、発話力を伸ばしたいと思いながらも、インプットの面では十分ではなかったな、と思います。少ないインプットの中で、「話せ、話せ」としてきてしまった、アウトプットを急がせ過ぎてしまった、という反省がありました。

②  スパイラルな学習

言葉の学びを考えた時に、私も含めてですが一度聞いたり触れたりしただけでは、使えるだけの力にするのは難しいと実感していないでしょうか。でも、授業では、教科書の順番に進めていると1度出会ったら2度と出会わない語や表現が出てきてしまいます。それでは中々生徒が使えるだけの力にするのは難しいのではないかと思います。何とか学校の授業で繰り返しを反映できないか、と考えました。

など、主に3つの視点(その他にも、中高接続を考えて量に負けない生徒を育むには、など考えた視点はあります)を考えながら、教科書を眺めていた後に5ラウンドシステムとして形になったのでした。

 一見変わったように聞こえる授業のカリキュラムのようですが、授業改善の一環として、いくつかの視点に基づいて考えられたものであり、また、その内容は通常の授業とはさほど変わらないものとなります。それは、教科書のレッスンやユニットに沿って進める授業でも、本文を扱う時、内容の理解をし、音読、プロダクションというような流れで進められていくことが多いと思います。この5ラウンドシステムは行っていることは何ら大きく変わることはなく、その進め方が異なっているだけなのです(図3)。  

4  5ラウンドシステムの現状

平成24年度に1校での英語の授業としてスタートした5ラウンドですが、毎年行っていた公開授業や、教員向けの研修等を通じて徐々に認知されていきました。実際に公開授業には200名近い参加者があり、生徒が英語で発信する様子などを見ていただきました。

そうした中、自治体全体で5ラウンドの導入がされたのをきっかけに、学校単位等での実施も増え、今現在、把握している限りではありますが、3つの自治体が全体として5ラウンドを実施、いくつかの自治体が推進校方式で実施校を募り実施、また、公立中学校のみならず、私立での導入であったり、小学校、高等学校での導入もあったり、全国で100校を有に超える実施校があるようです。

 広まれば広まるだけ、その実施方法も様々なようで、年間を通じて教科書1冊を複数回繰り返す、始めに考えられた形から、学期ごとに複数ユニットやレッスンを繰り返す形など、状況に応じてアレンジし実施がされているようです。また、ラウンド式に何度も繰り返す形ではないですが、5ラウンドで行われている活動の一部を取り入れ、何度も本文に触れるような実践も増えてきているようです。その一方で、5ラウンドはパッケージであると捉えられてしまい、残念ながら子どもの実態にそぐわない形で展開されてしまっている話を耳にすることもあります。

大切なことは、たっぷり繰り返すこと、たっぷり生徒が使うことだと思います。繰り返すと「飽きる」と思われるかもしれませんが、そここそが教員が考えなければならないことで、いかに生徒が「気付いたら何回も繰り返していた」と思えるように展開していくことがポイントです。

このように広がりを見せる中で、実施を始めてから複数年経つ学校もあり、生徒の姿にも変容が見え始めているようです。

ある私立の学校では実施2年目で行ったGTECの結果が、これまでのその学校の平均より50ポイント以上上回ったということや、ある公立中学校では、1年次から5ラウンドによる授業を展開した3年次の実用英語技能検定の3級以上を取得した生徒が81.3%となったなど、ということです。一方、もしかしたら思うように力が付いていない、ということもありうるかもしれません。今後様々な中学校で3年間5ラウンドでの授業を受けたという生徒が増えていく中で、元々生徒の力を育むために考えた授業スタイルであるわけですから、生徒にどのような力がついたかを幅広く検証していく必要があると考えています。

5  学習者の視点から見た5ラウンドシステム

これまで5ラウンドは大人から見て「良いのではないか」と導入が進んできましたが(もちろん子どもにとって良いという判断からであると思いますが)、実際に授業を受けている児童生徒はどのように感じているのでしょうか。いくつかの実施校や自治体から行ったアンケート結果等を提供してもらいました。

 生徒の授業アンケート等を中心にみてみたところ、まだまだ少ない数のデータではありますが、生徒自身は肯定的に捉えているのではないか、ということがいえるのではないかと思います。

ある公立中学校での、3年間5ラウンドによる授業を受けてきた生徒の卒業時のアンケート結果になります。担当の先生が作成した5件法によるアンケートの結果から、多くの生徒が自分の英語の力に自信をもち卒業を迎えていることがわかります。また、授業に対する好意的な様子が読み取れます(表1)。

 また、5ラウンドを推進校方式で実施している広島県の令和2年度の生徒のアンケート結果は、87.2%の生徒が「英語の授業はよく分かる」と回答しているとのことでした。それらの学校の授業自体についての分析もされ、78.7%が生徒の言語活動ということでありました(西村,2022)。授業がよく分かると回答している生徒が約9割に上り、その一方授業自体は生徒の言語活動が約8割とは興味深い数字であり、授業の在り方を考えさせられます。

授業は生徒のためであり、実際にどのように受け止めているのかなど、生徒にどのような英語の力が付いたかを見ると共に、今後更に多くの生徒の声を集めていきたいと考えています。

6  自治体での取り組み

 3つの自治体において全校で5ラウンドに取り組んでいます。実際にそれらの自治体と関わっている中で、他の自治体では中々見られない光景を見ることができます。それは英語科の教員研修です。

自治体として実施している福山市では、教員の指導力向上を目指し、ほぼ毎月英語科の教員研修を実施しています。その持ち方は悉皆の時もあれば、任意の時もあり様々ですが、毎回多くの教員が参加しています(表2)。

市内の全校で取り組んでいるので当然英語科の教員は5ラウンドの授業を実践していることになり、全員が同じ土俵にあがっているということになります。自治体で行われる教科の研修は、これまでの経験などから、どのような実践をしているか、辺りのことを紹介し合って終わることが多かったように思います。しかし、5ラウンドという共通のテーマがあり、「ラウンド4の空欄はどこに設定している?」「生徒がうまくリテリングできないんだけど、どうしてます?」など、授業の進め方やその悩みが、より具体の話となり、誰もが同じように考え話すことができる様子が見受けられます。概ね共通な形で授業を行っているので、研修の内容がすぐに授業改善等に反映でき、より意味のあるものになっているのではないか、と先生方の様子を見ていて強く感じるところです。実際、毎月数校の授業参観を指導主事と行っていますが、先生方の指導力や5ラウンドの授業に関する理解度は高まっていると感じます。

 また、実施している自治体の一つである熊谷市は、中学校のみならず小学校でもラウンド方式による英語の授業を展開しています。小中で繰り返しをベースにした授業スタイルであることから、小中合同の研修の場であっても、共通の話題で話を進められていて大変活気に満ちたものでした。熊谷市以外にも小中合同の研修に参加させてもらうことはありますが、お互いに行っている授業の様子であったり、小中連携となるとどうしても専門性の強い中学校の授業の話が中心となったりなど、授業の具体ということには中々なることがないように感じます。しかし、熊谷市ではどちらの校種がどうこうということではなく、「どうやって繰り返しているか」、「どのような連携ができるか」などといった具体かつ共通の話題で話が進められ、今後どのように小中連携をしながら進めていくのか大変興味深いものでした。

自治体全体での導入は賛否両論あるところかもしれませんが、教員の指導力向上に関連する教員研修の内容やその効果といった側面から見れば、同じような授業を行うことのメリットはあるのではないか、ということを強く感じています。それは、子どもの学びに視点を向けた時、とても大きなことではないかと思います。このことについても、今後教育委員会と連携し先生方へのインタビューなど行っていきたいと考えています。

7 今後に向けて

5ラウンドは授業改善が具現化されたものですので、今後更により良い形で発展していくと良いなと願っています。現に、5ラウンドを進めていく上で、そのラウンドで身に付けた力を発揮できるようなミニプロジェクトをそれぞれのラウンドごとに設定し実践している学校もあります。

より良い形での実践へ、としていくためにも、

○生徒の英語の力
○生徒の視点からみた5ラウンド
○教員の視点からみた5ラウンド

 などを中心として検証をしていく必要があると考えます。

また、実施から10年経つ中で教員の5ラウンドの経験年数も異なってきており、支援のニーズも様々となってきています。現在、オープンにはしていませんが、オンラインで5ラウンドを実践している先生方と月に1回程度情報交換会を行っています。毎回10名前後の参加があり、それぞれが実践を進める上での悩みや質問を参加メンバーで共に考えたり、アドバイスし合ったりしています。そうした実践している教員同士の交流の機会であったり、5ラウンドに関するワークショップや研修であったり、先生方の支援の充実ができたらと思います。

教育を取り巻く環境は目まぐるしく日々変わってきていますが、授業という軸を大切に、ブレることなくしっかりと子どもに英語の力を育めるよう、一つひとつのことに向きあいより良い授業を皆で創りあげていかれたら、と切に願っています。

引用文献

西村 秀之.(2022).『生徒の視点から考える「5 ラウンドシステム」の効果と課題 』.『英語授業研究学会紀要』,31,41-53.

 (にしむら ひでゆき)