ライティングにおけるモデル文の役割とその利用方法

ELEC同友会英語教育学会研究活動 ④
(ライティング研究部会より)

工藤洋路(玉川大学教授)

はじめに

ELEC同友会英語教育学会のライティング研究部会では、ライティングのプロセスに焦点を当てた指導方法やフィードバックの手法、そして、検定教科書のライティング活動の効果的な指導方法などについて、20年以上に渡って研究を行ってきた。本稿では、ライティング研究部会の月例会でのこれまでの議論などを踏まえながら、新課程を迎えた中学校の検定教科書を事例にして、モデル文の扱いについて論じていきたい。

1.ライティングのプロセス

ライティングの指導では、書くべき内容をどのように創造するか、書こうと思った内容をどのように英語で書き表すか、そして、いったん書いたものをどのように修正するかの3つの段階を意識することが大切である。この3つの段階は、Flower and Hayes (1981: 370) が提示するライティングの認知プロセスにおけるPlanning、Translating、Reviewingに該当するが、中学校および高等学校の英語の検定教科書のライティング活動においても、この3つの段階を意識したステップが提示されているものも少なからず見受けられる。このことから、中高では、プロセス・ライティングの指導が一定の割合で行われていることが推測できる。

2.教科書のモデル文

中高の検定教科書のライティング活動をより詳しく見ていくと、多くの活動には「モデル文」が設定されていることがわかる。教科書のステップのとおりに学習を行う場合、この3つの段階を始める前に、まずはお手本となるモデル文を読むことからライティング活動が開始されることになる。モデル文は、ライティングの課題(お題)を読んだだけでは、何をどのように書いてよいかわからない生徒にとっては、大いに助けになる。しかしながら、モデル文の扱いには注意が必要である。モデル文は生徒の英語力や思考プロセスなどを適切に考慮して作られているため、生徒が書くであろう文章の典型例になっていることが多い。その結果、一定数の生徒にとっては、モデル文の一部を置き換えるだけで、書きたい英文が完成することになる。厳密に言えば、その英文は生徒が完成させているわけではなく、単語をいくつか入れ替えただけで、書きたい内容が英文として自動的にできあがってしまったということである。このようにしてできあがった英文は課題に対して適切なものになっているが、上記の3つの段階を生徒自身がたどったわけではないため、その生徒のライティング能力の向上には繋がったとは言い難い。モデル文が存在するライティング活動を行う際は、この点に留意をして指導をしたい。

3.モデル文の扱い方

3.1 モデル文の後出し

モデル文はどのように扱うとよいだろうか。1つの方法は、モデル文を見せずに、まずは書かせてみることである。もちろん、モデル文がないとまったく何も書けない生徒に対しては、Planningの段階で、アイデアを出すための手法(例:ブレーンストーミング)や、出したアイデアを整理しアウトラインを作る方法などを教える必要がある。いずれにせよ、いったん英文を書かせて、そのあとにモデル文を提示し、自分が書いたものと比較させる。この場合、モデル文は、よりよい英文に修正していくためのヒントを得る素材として機能する。このように、モデル文を最初は見ないで書くことを想定している教科書のライティング活動も見受けられる。例えば、New Horizon English Course 3(東京書籍)のLet’s Write 2「記事への意見―投稿文―」(p.45) の活動では、実際に生徒が書く段階であるSTEP 3で、「自分の意見と理由を組み合わせて、投稿文を書きましょう。書き終えたら、下の例を読んで、参考になる表現を取り入れて修正しましょう。」という指示が見られる。教科書紙面にモデル文がすでに書かれているので、その箇所を最初は見せないようにする工夫が必要となるが、モデル文をReviewingの段階で初めて見るように明示している点は、モデル文の扱いへの配慮が見られることから、効果的だと考えられる。

3.2 複数のモデル文の提示

モデル文のもう1つの扱い方として、複数のモデル文を提示することが挙げられる。ELEC同友会英語教育学会ライティング研究部会(2020)では、教科書のモデル文に加えて、教師の自作のモデル文を提示する方法を提案している。この事例では、観光客向けのパンフレットを作成するライティング活動を取り上げているが、単に2つのモデル文を提示して生徒が必要に応じて参考にするのではなく、What do we need to have in a pamphlet? What do they both have in common? といった問いかけを教師が生徒に対して行い、やり取りをしながら2つのモデル文の分析をとおして、生徒が自分のアイデアを書く際に必要な要素に気づくことなどを目的として、2つのモデル文の効果的な活用方法を提案している。検定教科書にもモデル文を複数取り上げているものが見られる。例えば、New Crown English Series 2(三省堂)のProject 1「将来の夢を紹介しよう」(pp.28-31) では、スピーチの原稿のモデル文が2つ提示されており、それぞれの主題文は以下のようになっている。

1つ目のモデル文の主題文: I want to be like my favorite singer, Yuki.

2つ目のモデル文の主題文: My dream is to invent something new.

この2つのモデル文は、内容面としては、具体的な職業を夢として持っている生徒と持っていない生徒を想定していることがわかる。また、表現の面では、将来したいことを表現する際はI want to …やMy dream is to …という2つの方法があることを提示している。

同様の仕掛けは他の教科書にも見られる。New Horizon English Course 3 (東京書籍)のUnit 5のUnit Activity (p.80) では、「あこがれの人物はだれ?」というテーマで英文を書くことが求められているが、以下の2つの例(モデル文)が提示されている。

<例①> The person I respect is Mahatma Gandhi. He fought against discrimination in South Africa and India. He never used violence. I think the idea of non-violence is very important.

<例②> The person I want to be like is my grandmother. She started to go to university when she was sixty. She always enjoys learning new things. She is my role model.

「~にあこがれている」を英語で表現することは、中学校3年生にとって(高校生にともっても)難しいことが想定されるが、この2つの例を見ることで、the person I respect is …またはthe person I want to be like …という2つの方法が少なくても候補となることを学習することができる。

このようにモデル文を複数提示することで、自分の書きたいことを表現する際に、どちらのモデル文を参考にする方がより適切かを生徒が判断する必要があることから、単なるモデル文の置き換えにはならない。「AとBのどちらの理由を書いたほうがよいか」や「XとYのどちらの表現を使ったほうがよいか」といった、書く上での試行錯誤は、モデル文がない状況では必ずたどるプロセスであることから、モデル文がある状況でも同様の経験をすることが、ライティング力の向上に繋がると言える。

4.モデル文から学ぶべきこと

前章で述べたとおり、モデル文は、何を書いたらよいかを考えるきっかけを与えてくれたり、また、書きたいことをどのように英語で表現すべきかの候補を与えてくれたりする。この他にモデル文から学ぶべきこととして、文章をどのように展開するか、そして、文と文のつながりをどのように構築するかといったディスコースに関わる点が挙げられる。展開方法を学習していないと、ブレーンストーミングで出したアイデアを整理せずにそのままの順で書いて不自然な流れになったり、自分の意見とそれをサポートする理由のつながりが読み取りにくい文章になったりする。最終的にはモデル文がない状況で生徒自身が適切なディスコースを作っていく必要があるが、その前段階として、モデル文から展開方法を学ぶことを行わせたい。One World English Course 3(教育出版)のTips ⑥ for Writing (p.67) には、以下のモデル文が示されている。「中学生は地方よりも都会に住んだ方がよい」という主張をする場合のモデル文である。

It is better for junior high school students to live in the city than in the country. I have two reasons for thinking so. First, there are more high schools in the city. Students can choose the school they want to enter. Second, the city has more facilities that are good for students. For example, Minami City has more than ten libraries. Also, it has three museums.

このモデル文から文章の展開に関して学ぶべきこととして、以下の事柄が挙げられる。

 ●  主張を表すtopic sentenceを最初に書くこと

 ●  提示する理由の数を先に予告すること

 ●  firstやsecondを使って2つの理由を順番に述べること

 ●  具体例を挙げる際にfor exampleを使うこと

 ●  同等の情報を続ける際はalsoを使うこと

これらは、アイデアを書く順番やそれを明示するための接続表現に関する事柄であり、書く上での技術として中学生でも理解して使用可能なものであると言える。しかし、学びやすく使いやすい反面、多用すると機械的な文章、あるいは羅列的な印象を与える文章になってしまう可能性がある。これを避けるためには、こうした技術に加えてこのモデル文から新たな視点を学ぶ必要がある。それは、there are more high schools in the city. Students can choose the school they want to enter.という2文のつながりがどのように構築されているかである。この2文の間には接続表現が置かれていないが、「たくさん高校がある →(だから)→ 入りたい学校を選べる」といったように、中学生なら自然に「だから」というつながりを見いだせる。このように、接続表現を(無理に)入れなくても、自然に内容が展開していくように文章を構成することができることを学習させたい。特に、first、second、third …のように理由を列挙させる構成を教えると、理由が多ければ多いほどよいと生徒が勘違いをして、それぞれの理由を1文のみで書き表して、全体として箇条書きのような文章になってしまうことがある。1つの理由を、1文ではなく2文、さらに3文、4文以上で書き表すことが、流れの良い英文を書く上で必要な技術となる。

5.ライティングのモデル文としての教科書本文

適切なディスコースを作るための技術を高めるには、書くときだけそれを意識するのではなく、リーディングの際に、書かれた内容がどのように展開していくかに注目して読むことが必要である。流れがよくつながりのある英文を書くためのベースとなる力は、日々のリーディングの学習なども行いながら、徐々に習得していくものである。ここでは、中学校の検定教科書の本文をいくつか取り上げ、書く際に応用可能な展開方法を紹介したい。

最初は、Blue Sky English Course 3(啓林館)のUnit 6 – Part 3 (p.80) の本文(以下)を取り上げる。文ごとにその機能および使用文法事項を提示する関係で、以下のように1文ごとに改行している。

① Have you ever eaten soup curry? 問いかけ(テーマの提示)【疑問文】

② It was created as a local food of Sapporo.  対象(経緯)の説明【過去形】

③ Later, it became famous across Japan and overseas. (同上)

④ Many visitors go to Sapporo and enjoy soup curry. 対象(現状)の説明【現在形】

⑤ I also like soup curry very much. 対象に対する自分の考え(現状)【現在形】

⑥ I wish I could eat it every day.  対象に対する自分の考え(未来)【仮定法】

この本文は、①の文から始まっているが、読み手を意識して「問いかけ」となっており、同時に、スープカレーというテーマも提示している。②から④の文では、このテーマについての説明文が続くが、その流れは「過去→現在」という時系列の流れになっている。そして、⑤と⑥は書き手の考えを表しているが、「現在→未来」のように同じく時系列の流れになっている。まとめると、「過去→現在→未来」という時系列で展開されている中で、同時に、「対象物の説明→書き手の考え」という流れを示している。この展開方法は、自分に関わりのある身近な物事や事物を説明するライティング課題を行う際に応用可能であることから、汎用性が高いものであると言える。さらに、時系列の展開の中で使用可能な文法事項の候補もこの本文は提示してくれている。このように、本文の中のディスコースを抽出し、各文の機能をラベル付けすることで、ライティングの際に利用できる技術を学習することが可能になる。

次の例は、Here We Go! English Course 3(光村図書)のUnit 4 – Part 1 (p.52) の本文(以下)である。

AI technology has made great progress lately. It has become a part of daily lives. For example, the Internet search engines use AI technology. Smartphones which respond to voice commands are common these days. Robots which automatically clean your house become popular. These all use AI technology.

Translation software also uses AI technology. It can come up with the best translation by using AI technology. It is becoming common. In the near future, AI will help us communicate with people all over the world quite easily.

この本文からはどのような展開の手法が抽出できるだろうか。まず、最初のパラグラフでは、For exampleがあることから、例示の手法に注目してみる。おそらく多くの中学生は、For exampleの後に、the Internet search engines, smartphones and robotsというように、名詞句を並べてしまうのではないか。各事例の中身を読み手と共有している場合は、このようにシンプルに書くことは問題ないが、それぞれの事例をより詳しく説明するために、1つずつ文として表すほうがよいことを生徒に理解させたい。そうすることで、smartphonesとrobotsのあとに関係代名詞節が続いていることの意義を感じることが可能になる。次に、2つ目のパラグラフでは、alsoが示しているとおり、4つ目の事例が出ていることがわかる。4つ目の事例を、3つの事例を出した後に、新しいパラグラフの中で提示していることから、事例の中でもっとも強調したいのはこの4つ目であることが読み取れる。加えて、最後の文もこの事例に関わるcommunicationという視点で構成されている。つまり、この本文は、いくつかある事例をどのような順番で提示するかの1つの手法を示していると言える。また、この最後の文は結論文になっているが、主題文(この本文の1文目)と同義の文を書くという方法ではなく、そこから導き出せる未来志向の内容となっている点にも注目したい。主題文と結論文が必ずしも同じ内容のものではなく、結論文は、主題文から派生した内容を書くことも可能であることも、この本文を使って指導することができる。

最後の例として、Sunshine English Course 3(開隆堂)のProgram 3のThinkの2 (p.33) を取り上げる。

Basketball was invented by a P.E. teacher in Massachusetts in 1891. During the cold winters, the students couldn’t enjoy sports outside. He created a new indoor sport for them. They used peach baskets as goals, so they named the sport basketball.

In fact, a Japanese student played in the first basketball game. The student also drew a picture of this game. The P.E. teacher used it in the report to introduce basketball. This report made the sport famous in the U.S.

この本文は2つのパラグラフから構成されているが、注目したいのは、第1パラグラフが、バスケットボールがアメリカで生まれた経緯を述べている一方で、第2パラグラフでは、ある日本人学生のことを取り上げている点である。バスケットボールの歴史を説明する際、必ずしもこの日本人学生を取り上げる必要はないと思われる。ただ、ここは、この教科書の登場人物のダニエル(アメリカ出身)が、同じ登場人物の日本人の生徒たちにバスケットボールのことを伝えている内容であるため、日本人である読み手(聞き手)を考慮して、この日本人学生のことに触れたと考えられる。この本文は、まずは説明する事物や事柄の一般論を述べた上で、次は読み手を意識して、その読み手にとって有益だと思われる内容を述べるという文章の展開方法となっている。読み手に応じてその内容を考えることは、新課程の学習指導要領が強調している「コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じる」ことと合致する。この本文を参考にすれば、例えば、寿司を説明する英文を書く際に、最初は読み手に関わらず一般的な説明をして、続けて、相手に応じた内容を書いていく手法を用いることができる。魚自体をあまり食べない人、魚は食べるが生では食べない人、生で魚を食べる人、といった3パターンの読み手を考えた場合、それぞれ書く内容は少しずつ変わっていく可能性がある。このように、「一般的な説明→読み手に応じた内容」といったディスコースを学習することで、何らかの事物や事柄を説明する際に、より適切な英文を書くことが可能になる。

本章では、検定教科書から3つの本文を取り上げ、内容の展開方法のいくつかのパターンを示してきた。特に中学校では、本文は主として文法指導のためのもの、そして、本文は音読をして単語も文法もすべて暗記するためのものとして扱われることが多かった。本文は、こうした目的に加えて、生徒がライティングに取り組む際に参考になる内容の展開を学ぶ目的としても活用するとよい。教師が、本文指導のための準備の際に、本文に隠れているディスコースに気づくことが、ライティング指導の第一歩であると言える。

【参考文献】

Flower, S., & Hayes, R. (1981). A cognitive process theory of writing. College Composition    and Communication.   32 (4), 365-387.

ELEC同友会英語教育学会ライティング研究部会(2020)「自律的な書き手を育てるための教師の支援とは―Pre-writingの段階に焦点を当てて」『ELEC同友会英語教育学会研究紀要』16, 51-68.

(くどう ようじ)

ELEC同友会英語教育学会 ライティング研究部会
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