小学校英語をめぐる動向とELEC同友会英語教育学会小学校英語教育研究部会の足跡

ELEC同友会英語教育学会研究活動 ①

(小学校英語教育研究部会より)

長沼君主(東海大学教授)

はじめに

2020年度より小学校英語教科化が始まり、小学校教育における外国語教育が本格化した。ELEC同友会英語教育学会では、2017年3月の学習指導要領改訂を契機に、2017年度より小学校英語教育研究部会を新たに立ち上げ、教科化への歩みとともに、議論を深めてきた。そこで本稿では、小学校英語教育部会の研究の足跡をたどるとともに。小学校英語をめぐる動向を振り返りたい。

以下に各年度の研究大会及び紀要論文のタイトルを示す(所属は当時)。

2017年度「小学校教育と英語教育としての小学校英語の位置づけに関する一考察」

長沼君主(東海大学)、ジョージ・クマザワ(昭和女子大学附属昭和小学校)、成田潤也(厚木市立厚木第二小学校)

2018年度「言語活動での「学び」を支援する児童と教師のための足場作り」

長沼君主(東海大学)、幡井理恵(昭和女子大学附属昭和小学校)、羽田あずさ(横須賀市立田戸小学校)

2019年度「小学校英語と中学校英語をつなぐスモールトークの可能性」

長沼君主(東海大学)、黒木愛(大田区立洗足池小学校)、羽田あずさ(横須賀市立田戸小学校)、幡井理恵(昭和女子大学附属昭和小学校)

2020年度「小学校英語における同期型・非同期型授業でいかにインタラクションを促すか」

長沼君主(東海大学)、黒木愛(大田区立洗足池小学校)、成田潤也(神奈川県教育委員会)、幡井理恵(昭和女子大学附属昭和小学校)、狩野晶子(上智大学短期大学部)

2017年度研究テーマ:小学校教育としての学びと英語教育としての学び

小学校英語が教科化され、高学年においてこれまでの「活動」から「教科」になることで、何が変わるのであろうか。また、小学校教育としての言語以外の学びの目的と英語教育としての言語の学びの目的をどうとらえていったらよいのであろうか。『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』(文部科学省、2017)では、教科化に至った経緯について課題をあげ、「慣れ親しみ」を超えて、より言語としての体系的な学びが求められ、文字と音との結びつきや母語との違いへの言語的な気づきを促すことが重視されていることが基本理念等で示された。

一方で、新しい学習指導要領においては、すべての教科において育成すべき資質・能力として、思考力・判断力や学びに向かう力などの言語以外の能力も含めた資質・能力の育成が求められ、教科の学習と社会とをつなぐものとして、各教科特有の「ものの見方・考え方」(思考の枠組み)を養うことが重要となり、見方・考え方を働かせることで、主体的・対話的で深い学びへとつながっていくことが期待されている。

そこで2017年度の研究では、思考力や多様性など3つの資質・能力の柱で語られる力にも着目しながら、「小学校としての学び」と「英語としての学び」の双方に目を向けた活動のあり方について、「なりたい職業」のレッスンをとりあげ、2つの異なるアプローチからの具体的な提案を行った。1つは職業意識を変えるアプローチである。なりたい職業について英語で伝え合うことができるようになる前に、単元で行うやり取りが学習者にとって、よりオーセンティックで、魅力的で、楽しいものになるように工夫した。Hi, friends! 2では扱われない興味深い職業や英語が必要と思われる職業(Game Developer、Celebrity Chef、Chocolate Taster等)、昭和に栄えた職業や新しく生まれると思われる職業、世界の小学生のなりたい職業ランキングなどをSmall Talkを通して扱い、学習者(児童)の好奇心を掻き立て、批判的な思考を促しつつ、未来の自分の姿を想像させることに焦点を置いた。同時に、言語形式だけでなく、「内容」に焦点を置くことにより、主担当教員である高学年の学級担任が扱い慣れている「キャリア教育」と教科・領域の横断が可能となり、小学校教員としての専門性を活かしつつ、教科化で懸念される教員の教室での英語使用に対する不安を緩和することも提起した。

もう1つは、職業意識を引き出すアプローチである。絵本『Tomorrow’s Alphabet』(George Shannon, Donald Crews, Greenwillow Books)を帯学習で読み聞かせ、「A is for seed-Tomorrow’s APPLE」といった表現に繰り返し触れることで、音や文字に慣れ親しませ、自分自身の未来の姿を絵本の1ページとして付け加える活動を行った(図 1)。自然と慣れ親しんだ表現で、言語的な負荷を下げるとともに、調べ学習を取り入れ、自分の本当になりたい職業を伝えるにあたり、「英語で分からないことがあっても、辞書等を使えば調べられる」といった自発的な学びに対する態度を養った。いずれのアプローチにおいても、小学校教育としての学びを最大限に生かすべく、キャリア教育の視点を取り入れた授業提案を行った。

図1 自分たちの夢を書いた絵本作成の参考例(長沼他、2018)

2018年度研究テーマ:ワークシートによる児童と教師の足場作り

小学校英語教科化に伴い、2018年度より移行期間が始まり、新教材We Can!(5・6年生用)及びLet`s Try!(3・4年生用)に基づいた新しい形の授業が全国の公立小学校で導入され始め、文部科学省の「新学習指導要領に対応した小学校外国語教育新教材について」のサイトでは、新教材児童用冊子に加えて、年間指導計画例や活動例、学習指導案例やワークシートなどが公開された。学びを支援するための道具としてワークシートなどの補助教材が多様に提供される中、そうした教材が教師にとって授業の負担とならず、児童の学びの足場がけとなるためにはどのように活用したらよいか、2018年度の研究では、「夏休みの思い出」に関する2つの実践例を通して、児童と教師の双方への足場としてのワークシートの使い方を具体的に提案した。

We Can! のワークシートでは、活動を補助する絵カードなどもある一方で、Sounds and LettersやLet’s Read and Writeといったリテラシーを高めるためのワークシートがほとんどのユニットに設けられている。とりわけ、Let’s Read and Writeでは、まとまりのある内容を産出するにあたって、音声で十分に慣れ親しんだ語句や文を書き写す活動を通して、段階的に産出を高めていく工夫がされている。

1つ目の実践で用いられたワークシートでは、限られた範囲の語彙から選ばせるのではなく、児童の実際の経験に基づいて自由な発想を促すため、交通手段や食べた物などのグループに分かれて、ピクショナリーを用いながらジグソー的に共有活動を行った。また、発表活動を支援するためのワークシートも工夫され、教師のSmall Talkの理解活動を通して気付きを促した談話の流れを用いつつ、可能な限り感想を交えながらお互いの経験を尋ね合うように、複数のワークシートに段階的なつながりを持たせた使用がなされた。

2つめの公立小学校の実践例においては、語句を入れ替えて作文する際に、なぞり書きだけでなく、語頭の文字をブランクにして埋めるような段階的なワークシートが用いられた(図2)。児童は自分のリテラシーに応じてワークシートから切り貼りすることで、原稿やポスターを完成させることができ、個々の児童のできる感を育むべく、能力段階や学習スタイルに応じた選択的なワークシートの活用を可能にする工夫がなされた。

図2 児童のリテラシーに配慮した段階的なワークシート(長沼他、2019)

こうしたワークシートは児童のための足場づくりとなると同時に、教師が無理なく段階的に授業を進めて行く上での手がかりともなる。しかしながら、ワークシートにより授業の流れが固定化してしまう面もあり、それぞれの授業の目的に合わせ、時には足場をかけるだけでなく、足場をはずしたりもしながら、機械的な書き写し活動にならないように、育てたい能力を意識してワークシートを調整することが必要となる。

2019年度研究テーマ:小学校英語のSmall Talkから中学校英語につなげたいこと

小学校英語教科化に向けて作成された高学年新教材では、2時間に1回程度帯活動としてスモールトーク(Small Talk)を行うことが推奨され、既習表現を繰り返し使用できるようにしてその定着を図ること及び対話の続け方を指導することが、その目的として掲げられた。対話を続けるためのこつとして、『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』では、①対話の開始:対話の始めの挨拶、②繰り返し:相手の話した内容の中心となる語や文を繰り返して確かめること、③一言感想:相手の話した内容に対して自分の感想を簡単に述べ、内容を理解していることを伝えること、④確かめ:相手の話した内容が聞き取れなかった場合に再度の発話を促すこと、⑤さらに質問:相手の話した内容についてより詳しく知るために、内容に関わる質問をすること、⑥対話の終了:対話の終わりの挨拶の6点の表現例を紹介しており、方略的に表現の指導を合わせて行うことが奨励されている。

また、ガイドブックでは、指導者と児童がやり取りの内容を楽しみながら行うこと、1回目の対話を行ったあと、児童が言いたくても言えなかったことを一緒に考え、既習表現を想起させたあとで2回目の対話を行うなど、使用の後に学習を行うこと、児童に対話を振り返させ、気付きを促すことなどの指針が出されている(山田、2018参照)。そこで2019年度の研究では、小学校英語においては系統的な文法指導がなされないことを踏まえ、既習表現を繰り返し用いる機会を設けることで、いかに使用を前提とした学びを促し、中学英語へ向けて学びに向かう力を養っていくかを提案した。

1つ目の事例は大田区立洗足池小学校におけるSmall Talkの取り組みであり、洗小Small Talkとして全学年全学級に毎時間取り入れられている(図3)。小学校における学びとして、どの教科の授業においても、授業冒頭からいきなり教科書に入ったり、問題を解き始めたりする授業展開はなく、「先生は新聞記事でこんなものを見つけてね・・・」「昨日、買い物に行ったらこんなものがあってね・・・」など、日常生活から授業内容に話をつなげている。Small Talkも同じように難しい話、特別な話ではなく、学級担任の身近にある実生活の出来事について既習の語句や表現を使って語り、その話をもとにして子どもたちが即興で考え、話をすることを目指している。

図3 洗小Small Talkにおける段階的な活動設計(長沼他、2020)

低学年は、1問1答に近いやり取りをクイズ形式で、教師と児童のやり取りを通して単語で答えさせたり、リアクションをさせたりするような話になるようにしている。中学年は、教師のまとまりのある話の中で児童と対話しながらのやり取りをする。児童はなるべく文で答えさせるようにする。高学年は、教師のまとまりのある話から、話題によって児童同士でやり取りをさせ、即興で考えたり、質問したりする。学級担任の身近な実際の話をすることで、児童も真剣に関心をもって聞こうとし、学級の実態や学年によって少しずつ話題を変えることにより、内容を推測させるようにしている。

2つ目の実践では、教師中心のまとまった話をしっかりと聞かせることで、その中に既習表現を織り交ぜてスパイラルに聞かせるようにした。5年生では、その単元で使用する話題や目標表現を使った内容を聞かせるのに対して、6年生では、その場で提供される話題に対して、対話を継続させるために既習表現や語彙を使えるように導いた。帯活動としてのSmall Talkの重要性については、『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(中学校外国語)』(国立教育政策研究所、2020)でも強調されており、生きた知識や技能とするために、小学校段階から、もしくは小学校における学びの段階だからこそ、自身のリソースとして言語表現を活用し、相手の話に興味を持ち、反応する態度を養うことが必要であろう。

2020年度研究テーマ:遠隔授業における教師の語りかけと児童の発話の引き出し

2020年度より新しい学習指導要領下における教科化が始まるとともに、「新しい生活様式」を踏まえた小学校における外国語活動・外国語科の授業において、遠隔授業を組み合わせた学びの需要が高まっている。遠隔授業には同期型のオンライン形式と、非同期型のオンデマンド形式による授業があり、対面授業とは異なる学びの質保証が求められる。また、遠隔授業と対面授業のハイブリッド型の学習の可能性も広がり、遠隔での反転学習的な学びにより、対面授業がさらに活性化されることも期待される。

こうした新しい学びの様式を考える際には、ICTの技術的な側面もさることながら、遠隔学習だからこその人とつながりたいとの気持ちがコミュニケーションを動機づけ、相手意識を高め、また、一方的な配信に見える非同期型の授業においても、教師の児童との対話が想起されるような語りかけの工夫が、児童の内面での対話を促すことを意識する必要があるだろう。さらには対面授業で残るものが何かを問うことは、学びの定着や自律的学習と使用を深く問うことにもなる。

そこで2020年度の研究では、新しい学びの姿を示すため、同期型と非同期型、さらには対面での学習も組み合わせたひとつの実践事例を紹介し、小学校教育としての特別活動の立場から、また、言葉の学びとしての語学教育としての立場から考察をした。具体的には、遠隔による外国語科の非同期型の配信授業、特別活動として行ったZoomによる同期型の国際交流活動及び遠隔と対面での学習を組み合わせた児童による自律的な英語集会活動について紹介をした。事例を通して、通常の教室場面とは異なる遠隔を交えた授業で、教師と児童の間のインタラクションや対話的学びをいかに促し、児童の発話や内的な教師や自己との対話を引き出すかの提案を行った。

詳細については、今年度に発行される紀要に譲りたいと思うが、特別活動として集会活動を教科としての学びに接続させるなどの工夫により、児童同士も遠隔でつながり、学年を越えて対話の輪が広まっていく様子が見られた。小学校としての学びを踏まえ、遠隔授業で何が残り、対面でさらにそれをどう高め、深化させて行くことができるのか、今後の新たな学びの姿として考えて行きたい。

今後の課題と展望

これまで本研究部会では、小学校英語の発展と歩みをともにし、研究を進めてきた。今年度からはいよいよ高学年における教科化が始まり、教科書が用いられ始めるとともに、総括的な評価が求められるようになる。『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(小学校外国語・外国語活動)』(国立教育政策研究所, 2020)では、記録に残す評価をいかに用い、総括的評価にまとめるか、We Can! Let’ Try! の具体的な単元での評価例とともに示している。

教科化により評定をつけることが自己目的化しないためにも、これまでも議論してきたように小学校としての学びを考えることが今まで以上に重要となる。小学校における評価においては、形成的学びの側面が重要となり、Can-Do評価を取り入れた自律性や自己効力の育成が求められるだろう(長沼、2011;長沼・高野、2015;泉他、2016参照)。本部会でもこれまでの議論と有機的に結び付けながら、評価と指導の一体化、さらには評価と学びの一体化について考察をしていきたい。

注:著者は小学校英語教育研究部会研究部長を設立以来勤めており、本論はこれまでの研究大会発表や学会紀要論文の内容を中心にまとめたものである。これまでともに議論をしてきた研究部員に謝意を表したい。

参考文献

泉惠美子・長沼君主・島崎貴代・森本レイト敦子(2016)「英語学習者の自己効力と自律性を促進する授業設計と評価-Hi, friends! Can-Doリスト試案に基づいて」『JES Journal』16, 50-65.

国立教育政策研究所(2020)『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(小学校外国語・外国語活動)』国立教育政策研究所

国立教育政策研究所(2020)『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(中学校外国語)』国立教育政策研究所

長沼君主(2011)「小学校英語活動における自律性と動機づけを高めるCan-do 評価の実践」『ARCLE REVIEW』5, 50-77.

長沼君主・高野正恵(2015)「小学校英語活動Can-Do評価尺度の開発と児童・教師内省の分析」『JASTEC Journal』34, 168-186.

長沼君主・ジョージ=クマザワ・成田潤也(2018)「小学校教育と英語教育としての小学校英語の位置づけに関する一考察」『ELEC同友会英語教育学会研究紀要』14, 63-76.

長沼君主・幡井理恵・羽田あずさ(2019)「言語活動での「学び」を支援する児童と教師のための足場作り」『ELEC同友会英語教育学会研究紀要』15, 80-92.

長沼君主・黒木愛・羽田あずさ・幡井理恵(2020)「小学校英語と中学校英語をつなぐスモールトークの可能性」『ELEC同友会英語教育学会研究紀要』16, 124-141.

文部科学省(2017)『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』文部科学省(http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1387503.htm

山田誠志(2018)『自分の本当の気持ちを「考えながら話す」小学校英語授業―使いながら身に付ける英語教育の実現』日本標準

(ながぬま なおゆき)

ELEC同友会英語教育学会 小学校英語研究部会
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