特集②「英語を不得意な学習者対象のライティング指導の第一歩」

馬場千秋(帝京科学大学教授)

1.はじめに

英語を不得意としている、あるいは英語に苦手意識を持っている学習者にとって、最も難しいと感じており、また、学習に取り組むことを最も敬遠する活動として、ライティングが挙げられる。毎年、一般教養の英語科目を受講している大学1年生に対し、第1回目の授業のときに、大学入学前の段階で英語および日本語でのライティング活動の経験について訊ねると、英語でのライティング活動の経験がほとんどない学生が大半を占める。中には「英語でのライティング活動」と聞いて、「文法学習」や「板書をノートに書き写す」つまりcopyingをしていたことを「ライティング活動をしていた」と考え、「経験したことがある」と回答する学生も複数見受けられる。日本語でのライティング活動についても、入試対策として塾などで行った経験はあるものの、中学校、高等学校でライティング活動を何度も経験しているという学生はほとんど見受けられない。このような状況で大学に入学してきた学生たちに対して、英語のライティング活動を行っていくと、次のような問題が生じる。

 (1)    どのような語句や表現を用いて英文を書いたらよいのかわからない。

 (2)    文章構成をどのようにしたらよいのかわからない。そのため、「パラグラフ」という意識も

    なく、1行ごとに改行をしてしまう例や思いついたままに英文を羅列してしまう例が見受け

    られる。

 (3)    英語特有のパンクチュエーションを学んでいない。そのため、quotation marksの代わりに

    かぎかっこを用いたり、ピリオド、カンマの代わりに日本語の句読点を用いたりする例も多

    く見られる。

 (4)    話し言葉と書き言葉の区別がつかない。

 (5)    日本語での作文を書く経験不足も影響し、何をどのように書いたらよいのかわからず、文章の展開もできない。

このような現状があるのは、中学校、高等学校においても、英語を不得意、あるいは苦手意識を持っている生徒が一定数いるためにライティング指導がしにくい状況にあることや、検定教科書で扱う内容が多いこと、オーラル中心の授業展開をし、リスニング→スピーキング→リーディングという順序で授業を進めていても、最後のライティングを行う時間がなかなか取れないこともあって、ライティング活動が立ち遅れる傾向にあることが要因と考えられる。

しかし、平成30年版の新学習指導要領下においては、中学校では「簡単な語句や文を用いてまとまりのある文章」を書くことが、高等学校では「使用する語句や文,文章例が十分に示されたり,準備のための多くの時間が確保されたりする状況」という前提で、まとまった文章を書くことやピア・フィードバックをすることが求められている。したがって、中学校や高等学校の授業の中で、短い時間でも定期的にライティング活動の時間を取っていくことが必要となる。本稿では、英語ライティング指導を日常の授業の中で取り入れていく第一歩として、どのような心構えで行うのか、また、どのような活動を取り入れ、どのようにフィードバックをしていくべきかについて述べる。

2.ライティング指導をどうとらえるべきか

英語学習者にとって、英語でのライティングが難しいことは、Williams(2005)が “If both learning another language and learning academic writing are challenges, then learning to write in a second language (L2) can seem like an insurmountable task.” と指摘している。第2言語を身に付けようとする場合、母語と第2言語のLanguage Distance(言語間の距離)が大きければ大きいほど、習得をするために時間を要する(白井, 2004)。日本語を母語とする我々日本人にとって、アルファベットを用い、語順が違うSVO言語で、音韻体系も異なる英語とでは、言語間の距離がかなり大きいので、英語でのライティングを行うことは非常にハードルが高いと言える。しかし、英語を学び、習得していく過程の中で、ライティング活動は必要不可欠であり、英語の4技能を高めるためには、授業においても、積極的に取り入れていくことが望まれる。

実際にライティングを指導する場合、さまざまな要素が含まれる。図1はRaimes (1983) によるものであるが、文法、語彙のみならず、目的、内容、パンクチュエーションの他、読み手について意識することなども考慮し、指導を行わなくてはならない。また、近年、SNSの発達により、英語を書くことによるコミュニケーションをする機会も増えているが、その一方で、話し言葉と書き言葉の区別がないままにSNSでの書き込みがなされていることもある。書き言葉でのコミュニケーションができるようになるためには、図2で示したような書き言葉と話し言葉の違いを学習者に認識させ、書き言葉の良さを生かせるように指導をしていくことが大切である。

3.英語ライティング活動を取り入れるためのチェックリスト

英語のライティング活動が英語の4技能(新学習指導要領下では5技能)の指導の中で最も立ち遅れている要因として、授業展開のことについては冒頭で述べたが、それ以外にも、添削指導をどうするのか、また、教師自身が中学校、高等学校でまとまった長さの英文を書く指導を受けた経験に乏しいため、どのように取り入れていくべきか躊躇していることも挙げられる。では、どのような心構えでライティング指導を取り入れていくべきなのかを述べる。

 (1)    授業で扱っている活動が特定の技能に偏っていないか。

先に述べたように、リスニング、スピーキングというオーラル中心で教科書の内容を導入した後、教科書本文のリーディング活動を行い、まとめとしてライティング活動を取り入れるべきであるが、リーディング活動に比重を置いてしまい、時間が足りなくなり、ライティング活動を行うことが少なくなってはいないか。あるいは、文法や教科書本文の解説が主となってしまい、それ以外の活動をあまり行わない状況ではないか。このような場合、授業時間内での言語活動の配分を再検討し、バランスよくライティング活動を取り入れる。

 (2)    まとまった長さの英文を書かせる指導はできない、と思っていないか。

教員自身が特に中学校、高等学校の頃に、まとまった長さの英文を書く活動を行ってきておらず、指導もほとんど受けていない場合、どのように指導すればよいのかわからず、自信もないので、「できない」と思いがちである。しかし、ライティング指導の方法を試行錯誤している教員は多く、目の前にいる学習者に見合った指導を模索し続けているのも事実である。また、教員自身も「永遠の英語学習者」であり、「第二言語の書き手」なので、教員自身の書き手としての姿を学習者に見せながら、指導を行うとよい。

 (3)    ライティング指導を取り入れようとしているが、copyingや単独単文レベルの指導にとどまっていないか。

Williams (2005) が“In foreign language (FL) classes, many learners never move beyond composing single sentences or perhaps paragraphs.”と指摘しているが、学習者自身が自らの意思で単独単文からまとまった長さの英文を書くという段階に一歩を踏み出すことはない。教員自身が教科書や文法の副教材で扱われている単独単文の説明と練習問題を扱うだけで終わるのではなく、まとまった長さの英文を書く指導を行う勇気を持たなければ、授業改善にはならないし、学習者のライティング力向上にはつながらない。

 (4)    目の前にいる学習者の英語力と書かせる内容が乖離していないか。

学習者が読んで理解できる英文と実際に書いて表現できる英文は異なる。また、日本語でも作文を書きなれていないことも想定される中で、日本語で書いていくのも難しい内容(賛否を問う内容や社会情勢にまつわる内容など)を英語で書かせても、学習者の苦手意識をより強めるだけである。はじめは身の周りのことなど、学習者が取り組みやすいテーマから書かせていくとよい。

 (5)    添削指導は大変すぎて無理だと思っていないか。

学習者のエラーをすべて修正する必要はなく、内容か文法のいずれかに限定する、文法も当該授業で扱い、定着を図りたい項目のみに限定してフィードバックをしていくとよい。

 (6)    ライティング=パラグラフ・ライティング、エッセイ・ライティングが目標だと思っていな

 いか。

いきなり長い英文を書かせることは不可能である。2~3文程度から始めていくとよい。また、1パラグラフ程度の課題も、「補助輪」となるモデルなどを提示した上で取り組ませる必要がある。

 (7)    リメディアルレベルの学習者にライティング活動を行わせるのは無理だと思っていないか。

スモールステップでモデル文を提示して、単語の入れ替えをすることから始め、少しずつ足場を外していくことで、徐々に英文を書けるようになる。活動を開始した直後は5語程度でも、そこから15語、20語と増えていくだけでも大きな進歩である。この微々たる進歩を見逃さないようにすることも、ライティング指導をする上で忘れてはならないことである。

 (8)    ALTが来校する日が限られているため、ALTに学習者が書いた作品を見てもらうこともできな

    いので、指導はできないと思っていないか。

書き手となる学習者と同じ日本語母語話者であるからこそ、学習者が何を伝えたいのか、エラーだらけの英文からも読み取れることができる。したがって、学習者が本当に伝えたいことを予測し、修正のためのフィードバックも的確に与えることができる。

4.どのような活動を取り入れるべきか

ライティング活動を取り入れる第一歩として、帯活動やまとめとして、5~10分程度でできる活動から始め、できるだけ継続して行っていくことが望ましい。いきなりまとまった長さの英文をたくさん書かせる活動を取り入れようとしても、他の活動との時間配分のバランスやフィードバックの大変さから、続けることが困難となるためである。

 本稿では、英語が不得意、あるいは英語に苦手意識を持つ学習者を対象に、教員が「補助輪」をつけた形で行うライティング活動をいくつか紹介する。

4.1 Oral Introductionの延長上にあるサマリー・ライティング

中学校・高等学校での検定教科書本文をOral Introductionで導入する場合、教科書を開いた段階で、内容がある程度理解できるようにするだけでなく、口頭でスラスラと言えるようにすることが望まれる。その先にライティング活動を取り入れ、板書で提示した絵やキーワードをそのまま使って、言えるようになった内容を書かせることで、サマリー・ライティングに結びつけることができる。ライティング活動の第一段階では、学習者がまとまった長さの英文を書くことに慣れさせることが大切なので、内容もほぼ同じものにコントロールし、絵やキーワードなども提示しておくことが大切である。なお、書かせる内容に少しオリジナリティを持たせるのであれば、サマリーを書かせた後で、1文を付け加える「プラスワン・パラグラフ」(馬場, 2016)を取り入れるとよい。

4.2 3文で書くライティング活動

 英語の文章展開はIntroduction-Body-Conclusionであるが、これを1文ずつ、3文で完結させる活動もライティング活動の初歩としては、取り入れやすい。次に例を示す。

日曜日に高尾山に行った、というのがintroduction、山頂でしたことがbody、そして、もう一度行きたいというのがconclusionである。まずは3文で文章展開の練習をし、慣れてきたら英文を足していくようにするとよい。

4.3 モデル文を使ったライティング活動

 まとまった長さの英文を書かせようとした場合、テーマだけを与えても、何をどのように書いたらいいのかわからないと感じる学習者は多い。そこで、書かせたい内容のモデルを提示し、英文を書くことに苦手意識を感じている学習者は単語の入れ替えを行う「英借文」から、少しチャレンジしてみたいと考えている学習者は表現を変えたり、英文を付け足したりしながら、パラグラフを完成させていくとよい。次に2つのモデル例を示す。

モデルは教員が目の前にいる学習者に合わせて作成し、提示してもよいが、2つ目の例のように、検定教科書に掲載されている英文を利用すれば、授業で扱ったトピックで書く活動を行うことができるので、1時間の流れの中に上手く組み込むことが可能となる。

4.4 Q-Aを用いたライティング活動

次に紹介するのは、Q-Aを用いたライティング活動である。質問文を複数提示し、その答えとなる英文を組み合わせることにより、1つのパラグラフを作成する活動である。注意すべき点は、質問に対する答えを単語レベルではなく、必ず文レベルで答えさせること、質問に対する答えの場合、人名等も人称代名詞に置き換えて答えるが、1つのパラグラフにまとめるときは、文と文のつながりを意識させ、第1文には元の人名を入れるように指導する。少し慣れてきたら、パラグラフ全体が自然な流れになるように、適宜、人称代名詞と人名、さらにはその人物を表現する別の単語を用いるなど、工夫できるとよい。

Q: 1. What time did Mr. Johnson get up?

   2. Was he early, or was he late?

   3. Did he have time for breakfast or not?

   4. Did he run all the way to the bus stop, or did he walk part of the way?

   5. Did he just catch the bus, or did he miss the bus?

   6. Does Mr. Johnson ever eat anything in the morning?

7. Does he prefer to have breakfast or to lie in bed?

4.5 ジャーナル・ライティング

授業内の帯活動や家庭学習として取り入れやすい活動として、ジャーナル・ライティングが挙げられる。前日にあった出来事などを書き、その英文をクラスメートと交換し、コメントをしあうことで、読み手を意識しながら書くことができる。しかし、英語に対して苦手意識を持ち、英語を不得意とする学習者の場合、家庭学習の習慣がついていないことが多く、ジャーナル・ライティングを宿題として課しても、自宅では行わずに、教室に来て、授業が始まる間際に慌てて書こうとしたり、クラスメートの書いたものを写そうとしたりすることもある。そのため、授業内で行う方が効果的である。(馬場, 2018)。

5.フィードバック

英語を不得意とした学習者が書いた英文にフィードバックを与える場合、教員による修正フィードバックとクラスメートによるピア・フィードバックがある。馬場(2018)がジャーナル・ライティングを学習者に課した際、教員による修正フィードバックとクラスメートによるピア・フィードバックの組み合わせを行ったグループと、教員による修正フィードバックのみを行ったグループを比較すると、クラスメートとのピア・フィードバックを入れたほうが読み手との交流もできるので、好ましいという学習者が大半を占める。しかし、ピア・フィードバックの場合、文法のエラーの指摘などをするのは難しく、内容面のコメントに限定されるので、あくまでも読み手を意識するための指導と位置付けることが望ましい。

修正フィードバックについては、学習者側への影響と教員側の負担を考える必要がある。学習者側への影響としては、エラーを全て修正する作業により、学習者のやる気が失われることがある。筆者も20年以上前、大学院に通いながら高校で非常勤講師として勤務していた、教員として駆け出しの頃に、赤ペンで時間をかけて修正フィードバックを行い、生徒に返却をしたところ、「先生、これはいじめだ!」と言われたことがある。生徒にとっては一生懸命書いた作文を真っ赤に修正され、他の生徒よりも赤で修正された箇所が多かったことが主な要因であった。学習者とのラポールができている状態か、作っている途中段階かによっても、反応は変わるので、学習者の様子をよく観察しながら行うことが大切である。また、修正フィードバックだけでなく、内容面に着目し、励ましのコメントを一言加えるだけでも、「教員が見ていてくれる」と学習者は安心し、動機付けにもつながる。

一方、修正フィードバックは教員側の負担も大きい。全てを修正することにより、時間も労力もかかるが、返却後に学習者が全体を見返すか、というと必ずしもそうではない。Bitchener & Ferris (2012)が指摘しているが、明示的なフィードバックにより、学習者のライティング力は伸びるので、フィードバックは必要であるが、ポイントを決めて、新出文法項目のみとするなど、全体ではなく、目立つところのみを修正していくことも方法の1つである。また、英語を不得意としている学習者の場合、文章校正、文法、内容についてのコメントの全てのフィードバックが不可欠 (Lee, 2008) なので、分量を書かせるのか、正確さを重視するのか、授業でライティング課題を課すときに、その時間の目標を決めて、目標に見合ったフィードバックをしていくと効果的である。

6.おわりに

ライティング活動は、英語を不得意としている、あるいは英語に苦手意識を持っている学習者にとっては、ハードルも高い。そのため、実際に英文を書かせても、内容が無味乾燥なこともあれば、モデル文の単語を入れ替えるだけの英借文からなかなか脱皮できずに足踏みをすることもある。しかし、ライティング活動を行い、教員が根気よくフィードバックをしていくことで、教員と学習者の間にラポールを作ることができる (Hyland & Hyland, 2006)。そうすると、学習者も教員を信頼して、少しずつ自分自身のことを書き、教員に読んでもらいたいという気持ちが芽生えるので、ライティング課題の内容にも変化が生じてくる。特にリメディアル教育を必要とする状況下では、ラポールづくりは不可欠であり、ライティング指導はその一助を担っている。したがって、決して軽視してはならず、むしろ積極的に取り入れていくことが望まれる。

参考文献

馬場千秋. (2010) 「第9章 ライティング指導でもとめられているもの」木村博是、木村友保、氏木道人編,大学英語教育学会監修『英語教育学大系 §10 リーディングとライティングの理論と実践』119-134. 大修館書店.

___________. (2016) 「第12章 ライティングの学習と指導」橋本美保・田中智志監修, 馬場哲生編.『教科教育学シリーズ09 英語科教育』pp.203-219. 一藝社.

____________. (2018) 「スローラーナーへのジャーナル・ライティング指導とその効果-場所とフィードバックの種類の観点から」『帝京科学大学教育・教職研究』第3巻第2号pp. 25-38.

Bitchener, J. & Ferris, D. (2012) Written Corrective Feedback in Second Language Acquisition and Writing. Routledge.

Hyland, K., & Hyland, F. (2006a). Feedback in second language writing: contexts and issues.

Cambridge; New York: Cambridge University Press.

Lee, I. (2008) “Student Reactions to Teacher Feedback in Two Hong Kong Secondary    Classrooms.” Journal of Second Language Writing, 17(3), pp.144-164.

大井恭子編. (2008)『パラグラフ・ライティング指導入門-中高での効果的なライティング指導のために』大修館.

Raimes, A. (1983) Techniques in Teaching Writing. OUP.

白井恭弘. (2004) 『外国語学習に成功する人、しない人 第二言語習得論への招待』岩波書店.

Williams, J. (2005) Teaching Writing in Second and Foreign Language Classrooms. McGraw-Hill.

財団法人語学教育研究所第24研究グループ. (2007)『リーディング・ライティング再検討』財団法人 語学教育研究所.

(ばば ちあき)