特集:CLILを展望する:②「CLILの授業設計」

山崎勝(埼玉県立和光国際高等学校教諭)

1. はじめに

 筆者はこれまで、語学教育研究所でオーラルメソッドを学び、勤務校と上智大学との連携によりCLILの実践を行い、さらに、埼玉県と東京大学の連携事業により協調学習の授業を行ってきた。筆者にとっては、オーラルメソッドはCLILの実践を支える指導技術であり、協調学習はCLILのタスクの1つの形と捉えることができた。これらは相互に親和性が高く、上手く融合することで授業の質の向上が期待できる。本稿では、この考えに基づいて、CLILの授業設計について論ずる。

2. CLILの4つのC

 CLIL(Content and Language Integrated Learning)は、「内容言語統合型学習」と呼ばれ、その枠組みとして、次の4つのCというものがある。これらの4つのCの「統合」がCLILの授業の質を担保すると筆者は考える。

(1) Content(内容)

 CLILでは「言語」の指導と同等に「内容」を重視する。「内容」とは、授業で扱う題材内容のことである。

(2) Communication(言語)

 CommunicationとはLanguageのことであり、4技能(Listening, Speaking, Reading, Writing)の指導を指す。「内容」と「言語」の統合がなければ、内容を学習する際の言語が日本語になってしまい、「英語の授業を英語で行う」ことができない。

(3) Cognition(思考)

 「内容」と「言語」が統合すれば、既習の内容を学習言語で説明することはできるようになる。つまり、Story RetellingやSummary Writingは可能になるが、CLILのゴールはその先にあり、CLILは「内容」について「思考」することを求める。

(4) Culture(協学)

 Communityとも呼ばれ、日本語では「協学」という言葉が充てられているが、具体的にはペアワークやグループワークを指し、生徒相互の協同学習のことである。他者との関係性の中での学習ということから、異文化理解や国際意識という要素を含む。「内容」と「思考」を伴わない「協学」は、単なるドリルやゲームになってしまうかもしれない。

3. 「英語を学ぶ」から「英語で学ぶ」へ

 従来の英語の授業に対する、CLILが与える示唆は、「内容」の重視であると筆者は思う。これまで、私たち英語教師は、教科書を使って「言語」を教えることに努力してきたが、題材内容をどの程度教えてきたであろうか。教科書にも様々な題材が豊富に取り上げられている。例えば、「地球温暖化」が取り上げられているからという理由でその教科書を採択しているであろうか。もちろん、そういうことも考えられるが、多くの場合、教師の関心事は、「地球温暖化」よりも、使われている英語の難易度ではないだろうか。その場合、教師が教えたいのは、語彙や文法や読解であり、題材内容はそれらの指導のための材料に過ぎない。つまり、global warmingとかthe greenhouse effectという英語は覚えるのだが、それらについて考えたり話し合ったりすることまでは行わないということである。

 筆者は埼玉県の協調学習の事業で、フィリピンのセブ市での協調学習の授業を参観する機会を得た。そこでは、数学や理科の授業が学習言語である英語で行われていた。数学や理科の教師ではない筆者がそれらの授業をどのように参観したらよいか、最初はとまどったが、参観しているうちに、英語の授業として観ればよいのだということに気がついた。数学や理科の内容については理解できない部分もあったが、確かにそれらは英語の授業であり、言語教師の視点で参観することで得るものが少なくなかった。私たちが日頃、日本で行っている英語の授業も同じ視点で捉えることができるのではないかと思ったのだ。

 全ての英語の授業には、扱っている題材内容があり、それらは他教科の内容と関わりがある。CLILの視点で授業を捉えると、「他教科に関わる題材内容を英語で学ぶ」ということになる。実際にCLILの授業を受けた生徒のアンケートによると、授業の後で、生徒の記憶に残るのは題材内容であり、それを学ぶのに英語を使用したという感想を持つ生徒が多い。これに対して、題材を言語学習の材料としてしか扱わなかった場合は、生徒の頭の中に残るのは、語彙や文法の知識と読解練習をしたという記憶であり、題材内容についての印象はほとんど残らないようである。

4. CLILの授業手順

 CLILとは「内容」と「言語」を統合することにより質の高い学習や教育を実現するという理念であり、それを支える枠組みが前述した4つのCであると筆者は考えている。しかし、現実には、理念に賛同しても具体的な方法論を持たないとどうやって実践したらよいかわからない。ここでは、池田、他(2016)が提案する授業手順を紹介し、筆者が学んだオーラルメソッドとの親和性について見ていく。

 池田、他(2016)ではCLILの授業構成を、(1)Activating (2)Input (3)Thinking (4)Outputとしている。

(1)Activating/Pre-task (Task 1)

 授業の導入部分であり、興味の喚起、語句の導入、思考の活性化、学習内容の焦点化が目的である。オーラルメソッドではOral Introductionがこれにあたり、同様の目的で行われる。CLILでは、視覚補助として絵や写真の他に映像を視聴することもある。

(2)Input/Presentation task (Task 2)

 本時の教材を生徒が読んで設問に答え、内容理解をする。オーラルメソッドの授業では、Oral Introductionの後、教科書を開いて教材の本文を読解する段階である。

(3)Thinking/Processing task (Task 3)

 内容に関して分析、評価、創造といった思考を伴う活動を行う。オーラルメソッドの授業では、オーラルワークにより意見のやりとりを行う。最初に教師対生徒のオーラルワークを行い、クラス全体でブレインストーミングを行い、必要な英語表現についても援助し、生徒同士のオーラルワークが可能となるための足場掛けを行う。

(4)Output/Production task (Task 4)

 「話すこと」や「書くこと」により授業の成果を発表させる。オーラルメソッドの授業でも授業のまとめ(Consolidation)として、「話すこと」や「書くこと」が行われるが、「言えるようになったことを書かせる」という考え方により、Speaking, Writingの順に生徒に取り組ませると無理がない。

以上の考察からわかることは、従来から行われている指導技術の全てがCLILの授業手順の中で活かせるということである。新たな技術が必要なわけではないが、従来の技術を新たなパッケージの中でどう使ったらよいかは工夫が必要であろう。

5. 授業の出発点とゴール

 池田、他(2016)は、前述の授業手順とともに、以下のようなCLILの授業設計図を提案している。(表は池田、他(2016)により筆者が作成、トピックは回転寿司店の食品廃棄)

これによると、CLILの授業の出発点は「内容」である「教科知識」であり、ゴールはそれをどう実生活に活かしていくかという「活用知識」である。前者は宣言的知識(declarative knowledge)、後者は手続的知識(procedural knowledge)と呼ばれる。例えば、授業のトピックが「回転寿司店の食品廃棄」であれば、「教科知識」はfood wasteやfood lossについての知識であり、「活用知識」は、「未来の回転寿司はどうなるか」を消費者の視点で考えることである。

6. CLILとアクティブラーニング

 アクティブラーニングでは、生徒が様々な課題について学習し、それらを各自が自分の生活の文脈の中で考察し、他人事ではない視点で自分なりの解を出していく。これはCLILの授業設計と合致するものである。ここでは、アクティブラーニングの一例として、東京大学CoREFが提唱する協調学習(知識構成型ジグソー法)を紹介し、CLILとの親和性について考察する。

(1)知識構成型ジグソー法

ジグソー法とは、ジグソーパズルのように、生徒たちが異なるピースを組み合わせてタスクの解を出す活動である。生徒は最初にエキスパートグループと呼ばれる3名の生徒から成るグループで与えられた資料に取り組み、その資料についてのエキスパートになる。その後、エキスパートグループの生徒が1名ずつ分散してジグソーグループと呼ばれる新たなグループに移動し、各自が持つ異なる資料の情報を組み合わせてタスクの解を出す。CLILと同様に「教科知識」が出発点で「活用知識」がゴールであると考えることができる。(図は三宅、他(2016)により筆者が作成)

(2)ジグソー法の授業手順

①課題の提示とライティング

教師は本時の課題を提示し、生徒は既有知識によりブレインストーミングを行い、自分の考えを書いてみる。

 例:「未来の回転寿司はどうなるか?」

授業の導入部分として、興味の喚起、思考の活性化、学習内容の焦点化をねらうもので、CLILのActivating/Pre-task (Task 1)に相当する。

②エキスパート活動

生徒はエキスパートグループ(最初のグループ)で、3つの異なる資料を読み、読んだ内容についてのエキスパートになる。

 例:資料A「タブレットによる寿司の注文」

   資料B「寿司はレーンで回転」

   資料C「客は何を望んでいるか」

生徒は本時の教材を読んで設問に答え、内容理解をする。CLILのInput/Presentation task (Task 2)がこれに相当する。

③ジグソー活動

生徒は各自のエキスパート資料の情報を持ってジグソーグループ(次のグループ)に移動し、情報を伝え合い共有する。この活動は、オーラルメソッドの授業でよく行われるStory Retellingである。エキスパートの生徒しかその情報を知らないため、自然な言語活動の場面となる。その後、3つの情報のピースを活用して課題の解を出す。

 例:「未来の回転寿司はどうなるか?」

3つの情報のピースを活用する段階で、分析、評価、創造といった思考を伴う活動を行うことになる。CLILのThinking/Processing task (Task 3)がこれに相当する。

④クロストークとライティング

協調学習では、ジグソー活動の成果として、課題の解を各グループが発表し合う活動をクロストークと呼んでいる。その後、個人の活動にもどり、授業のまとめとして、グループでの話し合いを踏まえて課題の解を再度書いてみる。

例:「未来の回転寿司はどうなるか?」

これはCLILのOutput/Production task (Task 4)に相当し、授業の成果物をアウトプットする活動である。クロストーク、ライティングの順に活動が進むので、オーラルメソッドの授業でよく行われる、「言えるようになったことを書かせる」という手順とも一致する。

7. CLILと言語活動

前述のジグソー法の授業をCLILの授業の一例と考え、授業の各段階でどのような言語活動が行われているかを次に見ていく。

(1) エキスパート活動

生徒は限られた時間で一定の分量の文章を読み、概要を読み取り、それを説明できるように準備する。具体的には、概要に関わるキーワードを抽出し、それらを使って概要を説明する。

(2) ジグソー活動

 生徒は各エキスパートの説明の要点についてメモをとる。3つの資料の内容についてのメモを共有した後、メモに書かれた語句の関連について考え、それらの語句を活用してグループの意見を英語で構築する。

(3) クロストーク

一方通行の発表ではなく、発表に対して他のグループは要点をメモにとり、そのメモを使ってコメントを述べたり、質問をする。それに対して、発表者が発言を返すことで、何往復かのやりとりを行う。最初の発表はprepared speechであったとしても、その後の言語活動は事前に準備されたものではないので、即興のやりとりまで経験させることができる。

8. 言語活動を成立させるために必要なこと

前項で述べたような「言語活動」が成立しなければ、英語の授業でアクティブラーニングを行うことはできない。アクティブラーニングは、生徒が単に元気に活動していればよいというものではない。言語活動の成否を生徒に委ねるのではなく、指導の方策がなければならない。活動はさせているが指導は存在しないという「やらせっ放し」にならないように留意したい。

CLILにおいては、4つのCという枠組みが、アクティブラーニングの質を担保する指標として活用できる。また、タスクを段階的に配置することで、内容について考察するヒントを与えたり、トピックに関連した語彙の導入やライティングの枠組みを例として示すことで、言語的な足場掛けを用意する。一方、オーラルメソッドで使用される効果的な足場掛けは、オーラルワークである。教師対生徒の口頭でのやりとりにより、内容面での生徒の思考を促し、言語面では生徒が必要とする英語表現を援助することができる。「内容」と「言語」の双方を大切にするCLILにおいては、その双方について足場掛けとフィードバックを心がけ、無理のない「言語活動」を計画することが大切である。

9. 複数の教師の連携によるCLIL

次に、複数の教師が連携することで、CLILの授業がより良いものになるかどうかを論ずる。

(1)ALTとのティームティーチング

ネイティブスピーカーがいることで何か良いことがあるかを、前掲のCLILの授業設計図に即して考察する。

①Content(内容)

題材内容に関してALTが知識を持っている場合、教材研究に際して良質なオーセンティックな素材にアクセスすることが容易になり、それをもとに生徒に適した教材を書き下ろしてもらうこともできる。

②Communication(言語)

ALT自身が言語面での強力なリソースとなるので、適切な足場掛けとフィードバックがしやすくなる。

③Cognition(思考)

ALTがJTEとは異なる視点を提供してくれれば、タスクのバリエーションが広がる。ALTの出身国との比較という観点からタスクを作ることも興味深い。

④Culture(協学)

ALT自身が生徒とは異なるバックグランドを持った存在なので、異文化理解や国際意識という視点を提供してもらえる。

(2) 教科教師との連携

CLILは「内容」を重視するが、英語教師は「言語」教師であり、「内容」の専門家ではない。そこで、「内容」に関して、教科教師の協力が得られると、教材の質は格段と良いものになる。以下に、筆者が教科教師と連携して行った授業の例を挙げる。

①地理の授業(ジグソー法)

・トピック:「気候」

・資料A「標高と緯度は気候にどう影響するか」

 資料B「暖流と寒流は気候にどう影響するか」

 資料C「気流と緯度は気候にどう影響するか」

・授業のゴール:「気候を決定する要因とは何か?」

②生物の授業

・トピック:「免疫のしくみ」

・学習内容

インフルエンザと風邪の違い、怪我をしたときに傷口が赤く腫れるのはなぜか、ワクチンの開発と被験者の安全、能動免疫と受動免疫、ワクチンと予防注射、バクテリアとウイルス、抗生物質と抗ウイルス薬

・連携により可能となったこと

理科教師の協力により「理科」の実験を行った。インフルエンザ感染の模擬実験として、フェノールフタレイン溶液と炭酸ナトリウムを使用して溶液の色の変化を感染に見立てた。また、寒天培地を使用して指先に付着したバクテリアの変化を観察した。

(3) 教科横断的な学習

 次に、複数の教科の内容に関連して、シンガポールへの修学旅行の事後学習として行った授業例を挙げる。(ジグソー法)

・トピック:「デング熱」

・資料A「シンガポールの気候」(地理)

 資料B「シンガポールで流行する病気」(保健)

 資料C「蚊の生態」(生物)

・授業のゴール:「シンガポールでは、水たまりを放置するとなぜ罰金を科せられるのか?」

10. おわりに

CLILで扱う「内容」には、社会科的な内容もあれば理科的な内容もある。これらはどちらも世の中で起きている現実であり、私たちの生活と無縁ではない。理科が分かれば理科的な内容も英語で扱えるようになる。「言語」は独立して存在しているのではなく、必ず「内容」を伴う。だから、語学力を支えるのは幅広い分野に関する知識である。その意味で、教科横断的な学習が今後のCLILの一つの潮流になり得ると筆者は考えている。

(参考文献)

池田真、渡部良典、和泉伸一(2016)『CLIL内容言語統合型学習 上智大学外国語教育の新たなる挑戦 第3巻 授業と教材』上智大学出版

小菅和也、千田享、田島久士(編)(2011)『語研ブックレット4 オーラル・ワーク再入門』   一般財団法人語学教育研究所

三宅なほみ、東京大学CoREF、河合塾(編著)(2016)『協調学習とは 対話を通して理解を深めるアクティブラーニング型授業』北大路書房

(やまざき まさる)