Afterコロナの英語授業で活用するICTと新たな学びのあり方

岩瀬俊介( 学校法人石川高等学校・石川義塾中学校教諭)

はじめに

新型コロナウイルスに伴う臨時休校により、改めて学校のあり方、授業のあり方について考えた人は多いと思う。

私の勤務校では3月3日から16日までの2週間と、4月中旬からの1か月余りの、2回の休校を経験した。前者は全国一斉休校に伴い臨時休校となったものであり、後者は県教育委員会の要請が理由で実施されたものだ。3月の臨時休校時は、担任として自分のクラスだけに対して自主的にオンライン授業を行った。4月の再休校時には、全校で実施したオンライン授業の一環として私も実施した。

本稿では、私が2回のオンライン授業を実践する中で気付いたこと、そして21世紀の英語の授業のあり方について考えたことを述べてみたい。

1.オンラインで繋がることを見据えたリスニング指導

4月の学校再開後、一人一人の休校期間の状況把握、そして心のケアをするために、生徒との個人面談を全校で行った。その結果、自分が担任しているクラスの生徒は全員、オンライン授業を好意的に受け止めていたことが分かった。

生徒が挙げたオンライン授業実施のメリットは、朝きちんと起きるなど、学校が休校となっていないときの通常の生活リズムが崩れなかったこと、そしてあたかも学校があるときのように学びが継続したことだったようだ。
一方で、英語のオンライン授業の感想として「英語で話されると、ちょっと通信が途切れたりするだけで一気に何を言っているか分からなくなることがある」という意見が数名の生徒から出たことが、教師としての自分にとって新たな嬉しい発見だった。

人が言語を聞き取る際には、どのような要素が関わっているのだろうか。

考えるに、リスニングを行う際には、ボトムアップ型のリスニングとトップダウン型のリスニングが存在する。ボトムアップ型とは、まさに聞こえてきた音声をそのまま積み上げて内容を理解することである。トップダウン型とは、その生徒自身が事前に知っている事柄や、話の文脈から推測して聞こえてきた内容を理解することである。
今回のオンライン授業で発見されたことは、ボトムアップ型のリスニング音声の一部が、通信環境が原因で聞こえなくなると、トップダウン型のリスニングの比重が大きくなり、聞き取りそのものが難しくなっていることだった。

確かにオンラインで打ち合わせや会議を行うと、日本語であってもところどころ音声が聞き取れず、推測しなければならない場面が非常に多い。これが、外国語になることにより、聞き取りづらさが飛躍的に高まるということが、今回、生徒からのフィードバックで判明したことだ。
今回の経験から、今後のリスニング指導についてのヒントが得られた。それは、トップダウン型のリスニング力の向上にもっと力を注がなければならない、ということだ。

トップダウン型のリスニングで行う推測は、以下の要素から成り立つと考える。

  • 前後の文で話したこととのつながり
  • 音のイントネーションによる内容の推測
  • 聞き取れた部分から行われる語の推測

特に②や③については、通常行う音読活動などで意識を向けさせることや、音声を模倣することを高めることで、能力の身につけ方に差が表れるだろう。音声面を意識した活動を多く取り入れて指導を続けていくことで、ボトムアップ型のリスニングだけではなく、トップダウン型のリスニングの指導を行うことがより重要になるのではないだろうか。

2.一人一台端末を使用した新たなモニタリング方法

「Zoom」には「ブレイクアウトセッション」という機能がある。40人のクラスの場合、20組のペアを作ることで、2人×20組のペアワークが実施可能である。

しかし、実施して判明したことは、一つ一つのペア(組)はそれぞれ別の小部屋に移動する仕組みのため、担当教師が同時にモニタリングできるのは、一度に1組だけだということだった。

「ブレイクアウトセッション」では、1組のペアワークの話す内容がより鮮明に聞き取れる反面、他の19組の様子を全くモニターできないのが弱点である。

しかし、1組のペアワークが鮮明に聞こえてくることから、様々な発見があった。

例えば、細かい発音の間違い、普段なかなか聴き取れない間の使い方、大きな教室では見せてくれない意外な個人個人の性格などである。教室内でも、接近して集中して聞けば聴き取れることだが、そうすると生徒は教師を意識して力が入ってしまうように感じられる。そのような圧力を与えず自然な状態で、一人一人の言葉に耳を傾けられる良さがこの「ブレイクアウトセッション」にはあった。

今後、生徒が全員一台端末を持つようになった時には、授業内でのペア活動をデバイス越しにモニタリングすることが可能となるだろう。CALL教室で行っていたような授業を、ライブで、目の前に生徒がいる状態で行うことで、教師からのモニタリング、録音を通しての生徒本人の振り返り、そして上手に行った生徒の様子をクラス内で共有する等の活用が考えられると思う。

3.即時的に全生徒の考えを集め、共有する

「Zoom」には「chat」という機能もある。「Zoom」の授業中、生徒がいつでも好きな時に、考えていることを書き込むことができ、その内容を教師が即時的に読むことができるという機能である。

私は「Zoom」授業を行った際、この機能を使い、生徒に毎回、考えや意見を授業中に書いてもらった。そうすると、生徒のこれまで知らなかった一面を知る機会となり、こちらが想像する以上にバラエティ―に富んだ答えなどが記入されており、驚かされることが多かった。

ライブの授業内で生徒に発言をしてもらうと、時間的にもせいぜい数名から意見を聞くことができるだけだ。また、全員に何か書いてもらっても、それを集め、教師がそれに目を通すことは授業時間のロスが多いことになる。しかし「chat」であれば、書いた生徒から順次送ってくるため、ほぼ全員の考えや意見を、その瞬間に読むことが可能だ。

今回「chat」機能を使用した結果、普段いかに一人一人の生徒の反応や意見、考えを細かに理解していなかったかを反省させられることとなった。

我々教師の側からすると、一人の生徒は大勢いる中の一人であったとしても、生徒からするとそれが全てである。一人一人が主役であり、尊重されなければならない。

授業時に反応を多くしてくれる生徒、英語が得意な生徒、英語が好きな生徒、逆に授業を少し乱す傾向にある生徒、など教師にとって「目立つ」生徒にいかに普段目が奪われがちであったかを今回のオンライン授業では反省する機会となった。

教育の基本である、一人一人としっかり向き合うことの大切さを改めて認識させられた貴重な機会であった。

一人一台端末を持つようになった時には、授業内でも頻繁に意見を書き込んだり発信してもらい、それを即時的に教師が確認する授業での活用が考えられるだろう。

4.教室で行う英語授業のあり方

突然の休校措置に伴い、全国の各学校において様々な方法でオンラインを使った英語の指導を行われた。その中では、外部の民間企業が作成した授業を視聴させる、という選択をした学校が非常に多かったようだ。

民間企業が作成し、提供している授業動画は、基本的に知識伝達型の講義形式である。プロの予備校講師が、それまでの指導経験を生かし、さらに動画作成のプロが関わり、編集やテロップもつけて作成した動画である。

今回の休校時に、多くの学校が民間作成の教材動画を採用したという事実は、知識伝達型の授業は、担当教員がいなくてもインターネットを通して学習が可能、ということを証明した、ということになるのではないだろうか。

そうすると、学校の教師の役割とは何なのだろうか、という問いが生まれてくる。学校の授業とはどうあるべきなのだろうか。

私は、学校の英語の授業とは、生きたコミュニケーションの場であると考えている。知識の伝達など、教室外で行えることはどんどん教室外に回し、教室の中では、そこでしかできないことを行うべきだろう。

たとえば、クラスメイトがいることで生きたコミュニケーションを実践することができる。協働学習を通して、対話的に深く学ぶ機会となる。他者の意見を通して、様々なものの見方、それぞれの立場からのものの見方を学ぶ機会となる。

もちろん、今後も知識伝達型授業の必要性を感じる先生方は、解説動画などを撮影し配信を行い、授業外での学習の場として提供していくことが考えられるし、その上で、教室の中では教室の中でしか行うことができない生徒の各種の力の育成に取り組むべきだろう。

21世紀を生きる生徒たちに求められる力とはどのようなものか。そのような力を身につけるために、英語の授業とはどのようなものであるべきか。今回の休校時の対応を振り返り、改めて教育のあるべき姿を考え直していきたい。

5.ICTの使用と4技能統合型授業の共通点

私の勤務校では、休校前はICTに対して消極的だった先生の多くが、学校再開後の今も授業内でICTを活用している。プロジェクターを使用して資料を提示したり、デジタル教科書を活用したり、インターネットを使用した教材の配布や回収を行う、等がその具体例である。

多くの先生方がおっしゃっていたことだが、これまでICTを使わなかったのは「必要に迫られないとどうしてもそれまでの教え方から変えようとは思えない」ことが原因とのことだったようだ。しかし、そのような多くの先生方も、必要性に迫られ、いざ使ってみたところ、その便利さや有効さに気がつき、使い方に慣れることを通してその後も継続して使用するようになっているのが実態だ。その結果、先生方の授業力は向上し、生徒はより学習効果の高い教育を受けられるようになったと判断できる。

英語の授業のあり方についても、長い間様々なことが議論されている。

たとえば、4技能をバランス良く伸ばす指導についても、外部民間試験の導入がきっかけで、多くの先生方は必要に迫られ指導方法の改善を検討されている。しかし、外部民間試験の導入は見送られたところでは、多くの先生方が授業改善を止めてしまったように思われる。

今回の休校とその後の対応経験を、改めて授業改善について考える機会としていきたい。

生徒の英語力を高めるための指導とはどのようなものなのか、もう一度振り返る機会としてこれから数年間を英語の授業改善の変革期となっていくことを願っている。

6.生徒一人一人が主役となる授業のあり方

「Zoom」の有料版には「投票」という機能がある。

2020年6月現在では投票の質問は10問まで、全て10択以内の選択式という制限があるが、この「投票」が授業作りにおいては非常に有効であった。投票結果はすぐに集計され、それを参加者とすぐに共有することが可能である。私は、授業内でこの機能を多用することで、生徒の積極的な参加を促すよう心掛けた。

通常のライブ授業でも、全体への発問を行うことは多い。事実発問で授業のリズムを作り、評価発問で自分自身の事として考えさせ、判断力を身につけさせ、そして推論発問を通して思考力を鍛えることなど、バランスを意識した発問作りを心掛けている。

私は、通常の授業では発問を投げかけ、生徒たちに即時的に反応してもらったり、指名をしたり、ペアやグループで話し合わせたりすることが多かったが、今回のオンライン授業では、この投票機能を使うことで生徒一人一人が全員主役とならざるを得ない状況を作り上げることができた。全員が反応するまで待つので、必ず全員がどう考えているかを示すことになる。「chat」機能を併用することで、その考えを記述させることも可能となるというメリットもある。

オンライン授業の初期のころは、「ブレイクアウトセッション」でペアやグループに分けた上で、指名した数名に直接述べさせる授業を行っていた。しかしながら、この「投票」機能は、実施の素早さと必ず全員が反応を示さなければならないという利点があるため、授業のリズムやペースが保った状態で進めていけることが大きなメリットである。

通常の授業では、どうしてもその場面場面で主役の生徒がいて、教師と生徒、生徒と生徒でのやり取りを通して授業が展開していくことになる。しかし、「Zoom」の投票機能を使用した授業では、全生徒が常に主役となり教師とのやり取りを行うことになる。普段の授業で見失っていた、一人一人が主役になるという大切な視点を知る機会となった。

今後の課題は、ライブ授業の中でどのように今回のこの機能と同様のことを行っていけるかであろう。

7.オンラインを活用した指導の無限の可能性

3月の臨時休校時のオンライン授業では、英語の授業に加え、数学や国語の学習会を開催したり、生徒同士のコミュニケーションの場、そして学び合いの教え合いの場とするなど、「Zoom」を積極的に使用した。2週間目からは、生徒に新たな学びを提供しようと外部講師による特別授業も企画した。
エネルギーアナリストの岩瀬昇氏、ライフネット生命株式会社元取締役会長兼CEOの岩瀬大輔氏、俳優として活躍している前川茂輝氏、現在厚生労働省に勤務する学生時代の友人(マスクの発送準備で忙しい中協力してくれた)、自分のかつての教え子の現役東大生、など自分の知人友人親戚を総動員して毎日「人生について語る」特別授業を行ってもらった。
このような取り組みが準備期間数日で実施できたのは、オンラインによる開催だったからである。交通費はかからず、また打ち合わせもすべてオンライン上で実施できた。
オンラインの一番の強みは、世界中とつながることが可能な点である。
実際に生きたコミュニケーションとしての英語を学ぶには、オンラインというツールは無限大の可能性がある。特に日本語を学ぶ外国の学校・学生と、英語と日本語を交えたコミュニケーションの場を提供していくことなどを通して、言葉だけでなく文化的な交流も可能となる。
ホームステイ先の家族との交流がSNS上で続き、語学学習面のみならず様々なプラスの効果が生徒にはあることはこれまで多くの教え子たちが証明してくれていた。これからは、実際に会ったことがなくても、オンラインでつながることをきっかけにして、人間同士のコミュニケーションが作られていくなど、オンラインを使った語学学習には無限大の可能性が広がっているといえるだろう。

8.オンライン授業と生の授業の大きな違いとは

生徒が登校を始め、通常通りの学校生活が再開した。授業もマスク着用や距離感を保つなどの制限はあるが、通常通りに戻りつつある。

その中で最も強く思うのが、生のコミュニケーションの素晴らしさである。

同じ空間を共有しながら、生徒共に作り上げていく授業は、たった一度きりの生ものである。細かな表情の変化、時差のないお互いの間、徐々にもりあがっていく生徒たちの雰囲気、ボディランゲージ、ジェスチャー、目線、等々。どれもオンライン授業では十分に伝え合えなかったことである。

生徒も他者との生のコミュニケーションに飢えていたようである。生のコミュニケーションを学ぶ「英語の授業」を待ち望んでいたようだ。休校前にはなかった程の前のめりの姿勢と学習への意欲の高さ。このタイミングをどのように生かし、生徒の長期的な学習意欲へつなげていくかを、私はいま、真剣に考えて授業作りを行っている。

教師として日々の業務で最も大切にしていること、そして楽しませてもらっていることが授業である。

今回の休校措置は辛いことが多かったが、普通に授業を一緒に楽しめる毎日のありがたさを知る機会にもなった。学習の遅れなど不安な要素が多い先生方も多いと思うが、「今」しかできない授業や「今」しか伝えられない学びの喜びなど、「今」を大切に再開した授業を楽しんでもらいたいと思う。

おわりに

授業作りに「完成」はない。

日々授業のあり方を考え、実践し、振り返り改善を図っている。終わりのない「理想の授業」に向けた探究の途中経過を「ELEC英語教育研修会」で共有をさせていただく機会を楽しみにしている。
「ELEC英語教育研修会」という共に「理想の授業」に向けて様々な考え方を話し合う場で、多くの皆さんと「生」でお会いしたいと切に思っている。

(いわせ しゅんすけ)