[ELEC英語教育賞 2015年度受賞校取組]
岩手県立一関第一高等学校

骨太の英語力を目指して -4技能+Thinkingで読解力と思考力を鍛える言語活動中心の授業実践

2015年度 ELEC英語教育賞 ELEC理事長賞を受賞した岩手県立一関第一高等学校の取組を紹介します。

1.取組前の課題

本校の英語の授業はこれまで訳読と文法解説中心のリーディングの授業と、文法の明示的指導と問題演習中心のライティングの授業が主流であった。予習前提のリーディングの授業では教師が一方的に解説を行い、予習ができている生徒は解説を聞いているだけであった。予習ができていない生徒にとっては授業の速さについていけず、英語嫌いを助長させていた。また、ライティングの授業では、教科書や文法問題集の解説や演習、あるいは短文の和文英訳が中心で、毎回同じ活動が中心であった。しかし、大学受験の英語を乗り切るにはこれしかないのではないかという固定観念もあり、模擬試験の偏差値が下がるとすぐその対策を講じるような取組を授業者は長年続けてきた。2年生の秋までは右上がりに成績は伸びていくが、そこから3年生に向けて下降に転じる。なかなか生徒の英語力が伸びないと嘆きながら、3年生になって早めにセンター試験に向けた対策を始めるが、センター試験を乗り越えても結局個別試験で苦戦する、という生徒をたくさん作ってきたように思う。センター試験を目前に長文問題で点数が取れないと嘆く生徒やセンター試験が終わって個別試験み向けた授業の中で、条件英作文はおろか平易な和文英訳にも苦戦し、自由英作文に至ってはお手上げ状態の生徒を目の前に、「本当にこれまでの英語の指導で良いのか」と疑問に思っていた英語科教員も少なくなかった。

平成21年度に併設型中高一貫校として附属中学校が新設され、3年後の平成24年度には附属中学校1期生が入学してきた。過去に比べると高い学力の生徒が増えた一方で、基本事項が理解できないまま入学してきている生徒も見受けられ、学力層の幅が例年以上に広がった。1年生第1回スタディサポート(ベネッセ)の分野別分析では、正解率が「読解」38.8%、「文構成」47.8%、「文章の展開予測」30.6%、「未知語の類推」20.0%、「主旨理解」24.2%で全国平均に届いておらず、まさに「長文の読解」を苦手とする生徒が多く存在することが浮き彫りとなった。これは国語の読解と数学の文章題にも同じ傾向が見られ、「思考力」に課題が見つかった。

中高一貫1期生には岩手県初の併設型中高一貫校として地域の大きな期待があり、これまで以上に医師や法曹界の人材育成が求められていた。大学入試で終わらず、その先も見越した人材の育成のために、英語科をはじめ、すべての教科で授業改善が求められていた。特に英語科では次年度の2期生から新学習指導要領が施行され「英語による授業」が基本となること、また英語力を強化する指導改善の取組における本県の拠点校に指定されたことがきっかけとなり、英語科教員の授業改善が急務となった。

2.目標としたこと

  • 教員中心ではなく生徒中心の言語活動
  • 思考力を鍛える(4技能+考える)授業
  • 英語嫌いを作らない(学力の差に関わらず、すべての生徒が参加する授業)
  • 自律した学習者の育成

3.目標達成に向けた具体的な活動内容

学力層を縮める工夫

・英語の授業用の座席を作り生徒による教え合いの授業を展開する(隣同士のペアは共感し高め合うために学力差小とし、前後のペアは教え合いと刺激のために学力差大にする。)

教師間の共通認識

・Can-Do Listの作成(別添資料1:Can-Do リスト

3年間で生徒に身につけさせたい力をCan-Doリストにしてそれを生徒に配布。生徒と教員で目指す英語力を確認しながら授業を進めた。

・Can-Do Listを反映させたシラバスの作成と実施 (別添資料2:シラバス

・ゴールを設定し、タスク達成型の授業。黒板には必ず本時のゴールを書き生徒と共有する。

・学年同一のワークシートを用い、全クラス同様に授業を英語で行うことを可能にする。ワークシートがあることで、授業でやるべきことが明確になり、英語で行う授業をスムーズに進めることが可能になった。 

教材の精選

・教科書中心の授業展開。

・むやみに問題集に走らない。教科書と精選された教材を繰り返し使用し、定着を図る。

興味を持たせる導入

教科書の話題について生徒全員でブレインストーミングをすることで、全員が参加する授業になった。ピクチャーカード、ビデオ、プロジェクター等を用いてのティーチャーズトークは生徒が最も興味をもった部分であった。

予習を課さない授業

予習を要求しない授業にすることで、初見の英文を読む意味が生まれた。

1単元を初見で区切らず読む指導

最初は1単元をセクションで区切らずに一気に読ませた。(別添資料3:ワークシート

セクションで区切らなければ500~1000語の英文を教科書でも読めることになる。時間を計って読ませることで、未知語が出てきても止まらないで読む癖がついた。

新出語彙は授業で練習

新出単語の意味調べは予習として課すのではなく、教員が意味を与えて、ペアで問題を出し合う形式で定着を図った。また、発音記号は1年生から導入して読めるようにした。(別添資料4:ワークシート

単元に出てきた文法を文脈と絡めて指導別添資料5:生徒作品

従来のように文法を切り離して明示的・体系的に教えるのではなく、教科書に出てきた文法を使って生徒自身が考えたオリジナルの英文を書く指導を続けた。教科書の英文の文脈と絡めて文法を教える方法は中学校で行われている指導と同じであるため、生徒は戸惑いなく高校英語にスムーズに移行できた。

各単元のテーマに関連したアウトプット活動

各単元のテーマに関連したアウトプット活動( 関連英文の速読や多読、インフォメーションギャップを利用したジグソーリーディング、ミニディベートなど)を数多く授業に組み込み、生徒が単元で学んだことを実際に使って表現する場を設けた。

使用教科書 Revised POLESTAR English Course Ⅰ 数研出版

単 元 Lesson 8 Rice and Ducks: A Winning Combination

テーマ If you were a farmer, would you use the aigamo method?

  1. テーマについてアイガモ農法の長所、短所を挙げさせる。(ブレインストーミング)
  2. 3人一組になって、じゃんけんで順番を決める。 A=アイガモ農法推奨派、B=非推奨派、C=ジャッジとなるように役割分担する。
  3. 推奨派、非推奨派の意見をそれぞれマインド・マップ上に書く。
  4. 賛成派と反対派は作成したマインド・マップを見ながらでそれぞれ1分間自分の意見を発表する。ジャッジはメモを取る。
  5. 賛成派と反対派の発表後、ジャッジはそれぞれの話した内容を英語で要約する。その後どちらが良かったか、勝敗を決める。
  6. 役割を交代し、全員が推奨派、非推奨派、ジャッジを経験するようにする。
  7. 全員の発表が終わった後で、自分の立場を選ばせ10分間で60語以上を目標に英語で意見を書く。
  8. 書き終えたエッセイをチーム内で交換し、語数を数えエラーチェックをする。
  9. 戻ってきたエッセイを手直しし(辞書使用可)、最終版を提出させる。(別添資料6:生徒作品

このあと3人一組から徐々に人数を増やしていった。これはチームを作って教え合いを促すためである。回を追うごとに自分の意見の根拠となるデータを付け加えたり、ジャッジ、タイムキーパー兼司会を生徒自身にさせたりして、競技ディベート形式に近づけていった。(別添資料7:添付資料はRevised POLESTAR English Course ⅡのLesson 8、Will This Be The Bio Century? の後のディベート活動のスクリプト、ワークシート、フローシート、生徒作品

パフォーマンステストの実施

音読・暗唱・本文の内容に関する質問と、自己表現を組み合わせたテストを単元修了後に毎回実施。(別添資料8:音読テスト

文法指導1

【一人一文レースの様子】

・ターゲットセンテンス(文法項目を含む文)を使って即興で英文を作る。

ターゲットセンテンスを使って即興でオリジナルの文を作り、一人一文を黒板に書いていく。チームでのゲーム形式にすることによって、生徒同士の教え合いを促す。また生徒の間違いから文法事項の理解の度合いを確認することができる。教師の説明は短くて済む。  

文法指導2
  • ・2年生の夏休み明けから、文法を体系的に学びたいという生徒の要望があり、「プロジェクトG」と称して、文法のグループ学習を始めた。
  • ・3人一組のグループになり、文法参考書を用いて調べ学習をさせる(例:仮定法であればグループAは仮定法過去、グループBは仮定法過去完了、グループCは慣用表現で分担)
  • ・調べたことをクラス全体に発表し、全員で共有する。
  • ・文法項目を用いた自由英作文を書く(別添資料9:生徒作品
エッセイライティング指導
・テーマについてマインド・マップの作成

最初はGTEC for Students用の「自由英作文の書き方」を参考にマインド・マップの指導を行った。その後は毎時間5~7分の時間を割いて、マインド・マップを作成させる。英単語数語で枝分かれのたくさんあるマインド・マップを作るように指示をする。マインド・マップの善し悪しが次の活動を左右する。

・話す順序にナンバリングさせる。

スピーキング活動の前にマインド・マップに話す順序を数字で記入させておく。

・パラグラフライティングの構造の指導

Opinion →Supporting Sentences →Concluding Sentencesの構造を確認する。話すときにFirst, Second, In addition, In conclusion等のつなぎ言葉を使って話すように指示をする。これによって生徒は自分の意見のアウトラインを固めることができ、話しやすく、書きやすくなる。

・マインド・マップとつなぎ言葉を用いて60~90秒のスピーキング活動

ペア活動。マインド・マップのみを用いてパートナーに自分の意見を話していく。聞き手は必ず一つ質問をしなければならない。このように聞く側にも役割を与えることによりペア活動がよりコミュニカティブになる。

・マインド・マップ修正と語彙の確認(辞書を使っても可)

スピーキング活動を通して、生徒は自分が表現できなかった語、文が明確になり、調べたいと思っている。このタイミングで辞書や教科書を使って最後の確認作業を促してマインド・マップの修正を行う。

・マインド・マップのみを使わせ、10分間で100語のライティング活動

その場限りの、自分にしかわからない大げさな語彙を使うことをさけるため、マインド・マップのみを用いて100語を目標に10分間のライティング活動。

・ピア・チェックと推敲

ペアでエッセイを交換し、語数を数える。つぎに赤ペンでスペリングミスや文法の間違いにアンダーラインのみを引いて原稿を戻す。戻ってきたエッセイを各自で直して最終版を提出させる。

・回収→添削→返却

生徒が英文を書く抵抗感を減らすために最小限のコメントを書いて返却。次の時間に良かった作品を全員分コピーして配布、良かった点を話し合う。またよくある文法の間違いを生徒と共有する。

  • ・テストには初見の関連英文を出題。暗記による記憶力を図るのではなく、授業で学んだことを生かせるテストを作成した。
  • ・必ず自由英作文を入れて、生徒の思考力を刺激するような表現活動が生きるようにした。
  • ・筆記テストの分量は徐々に増やしていき、3年生のリーディングのテストの総語数は4000~4500語。早期対策をせずともセンターテストに対応できるようになった。(別添資料10:英語Ⅱ 学年末考査問題
  • ・パフォーマンステストを組み込むことで、4技能を評価することとなり、特に筆記テストを苦手とする下位の生徒が救われた。
・競技ディベートへの参加

拠点校事業の次年度、ディベート拠点校に指定された。立教大学の松本茂先生を招いてのディベート講習会等を通して競技ディベートを学んだ生徒たちは、岩手初の県大会“Kenji Cup”に出場し優勝。初めての全国大会では1勝1敗3引分けで予選通過はならなかったものの、64チーム中28位になった。

その後、競技ディベート参加した生徒が、授業のディベートを牽引するようになった。

4.得られた成果  

2年生スタディーサポートの結果、「読解」、「文章の展開予測」、「未知語の類推」「主旨理解」が全国平均を上回った。3学年ではこれに加え、「文構成」も全国平均を上回り、これまで課題とされてきた長文読解に関わる項目に改善が見られた。

スタディーサポートの結果 別添資料12:スタディーサポートデータ
GTEC結果 別添資料13:GTEC for Studentsのデータ

本校では1,2年生でGTEC for Students (以下GTEC)を実施し、英語力の推移を見てきた。たとえ模擬試験が悪くても「GTECでは結果が出ている」ということを確認しながら「リスニングがのびた」とか「読解力はまだまだだ」等分析しながら、授業展開を微調整して進めてきた。3学年では模擬試験が増えるため、生徒の時間的・金銭的負担の軽減からGTECを実施できなかった。最後どこまでのびたか結果を見るためには実施すべきだったと反省している。まずトータルスコアは順調に伸びていった。最初に結果が出てきたのはリスニングで、1年生7月から12月にかけて+21.3、2年生7月から12月に+16.8と順調に伸びた。リーディングは伸びが実感できるまで時間がかかったが、1年生12月から2年生の7月にかけて+17.8と大きく伸びた。レベル別の生徒数の推移においては、高校1年生の最初はレベル1と2が53名もいたが、順調に減り2年次最後には1名まで減った。逆にレベル5(高校上級レベル)以上が約4割の90人と高いレベルの生徒が増えた。

英検取得者数(3年次の最終取得状況)

1級1名、準1級1名、2級50名、準2級 58名(232名中)

3年間の授業を通しての実感

改善目標に挙げた、「教員中心ではなく生徒中心の言語活動」に移行することで、生徒は受動的ではなく能動的に授業に参加するようになった。「思考力を鍛える(4技能+考える)授業」は他教科にも影響を及ぼし、グループワークやペアワークなどの言語活動は学年の国語・数学・化学の授業にも取り入れられた。3年連続で3年生を担当してきたK教諭は「例年になく長文を読むのが早く、成績が下位の生徒でさえ英語に自信をもって受験に臨んだ」と今まで持った中でも英語に自信を持った生徒が多かったと感じている。リスニングが非常に強く、センター試験直前の対策をせずとも最後まで落ちることがなかった。

卒業生のうち29名(18の大学・専門学校・予備校)に依頼したアンケート結果(現在も継続中)では実に24名(約83%)が高校で行った言語活動が大学の授業に大いに役立っていると答え、「現在英語では苦労していない。もっと使えるようになりたい。」との回答が多かった。

この3年間を通し、生徒が一生英語を学び続ける「自律した学習者」となり、将来岩手を牽引する人材を育成することの一助となる実践となったことを確信している。

(※2015年度ELEC英語教育賞 岩手県立一関第一高等学校の申請書を編集して掲載しています)