ELEC英語教育賞
2015年度受賞校取組
北海道函館中部高等学校
「考えるプロセスを重視した授業づくり」~コミュニケーション力育成のための授業研究~
2015年度 ELEC英語教育賞 文部科学大臣賞を受賞した北海道函館中部高等学校の取組を紹介します。
1.取組前の課題
- ・暗記型学習でコミュニケーションの要素が極端に少ない授業
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授業形態は、プリントの空欄穴埋め形式や、教科書本文を暗記する活動が多く、自分の考えを即興で表現したりする場面がなかった。そのため、生徒相互間や生徒-教師間のインタラクションに割く時間がほとんどなく、生徒にとっては「知識・理解」に割く時間が多く、「思考・判断・表現」つまり「考える要素」が少ない受け身的な授業であった
- ・GTEC for studentsのスコアの伸びに対する疑問
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本校では外部試験での評価としてGTEC for students(ベネッセコーポレーション)を各学年、年2回実施している。その中の特に1年次のライティング分野のスコアの伸びが少ないことを問題視していた。
- ・授業実践の英語科、ならびに学校内外への発信
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SELHi指定校当時より、ALTとのティームティーチングの実践や海外大学との連携など、いくつかの研究は行ってきていたものの、他教科と連携することや学校外へ発信することは少なく、情報交換、相互研讃が課題であった。
2.目標としたこと
- 校内での指導体制の共通理解・コミュニケーションの要素を活かし、「考えるプロセス」を重視した英語指導方法の確立
- 客観的な評価(外部試験)での英語力の向上
- 研究実践(授業内容や使用教材、等)の発信
3.具体的な活動内容
(1)カリキュラムの見直し
- 「コミュニケーション英語基礎」の積極的な導入
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学習指導要領の改訂に伴うカリキュラムの見直しで、「コミュニケーション英語Ⅰ」の履修前に、あえて「コミュニケーション英語基礎」を履修させるようにした。結果として生徒、教員ともに好評で、英語で行う授業への導入として非常に効果があった。
平易な英語を用いることで、教材内容はもちろん、教室英語に生徒だけでなく授業を運営する教員も無理なく慣れていくことができたためと考える。
- 定期的な英語イベントの企画
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自分の考えや意見を実際に英語で発表する使用する場面と、それを評価する機会の確保を目的に、シラバス中に定期的な英語イベントを組み入れている。
1年生: 10月 英語スピーチコンテスト 2月 英語プレゼンテーションコンテスト 2年生: 11月 英語スキットコンテスト
(2)目標(Can-Do到達目標)の設定
今回の取組みの鍵となる「教員間の共通理解と相互協力」を図り、Can-Do到達目標をスタッフ全員が一丸となって作り上げた。教員間で意見を交えて目線を合わせていくことで、各々の教員の個性を活かしながら同じ目標へ向かう協力体制ができた。
(3)教材の精選
文部科学省検定教科書を使用するとともに、副教材の精選に力を入れた。新学習指導要領が目指す授業を視野に入れ、生徒が身近な問題として置き換えて考えやすい題材や、活動内容が実際の授業への取り入れやすいかなどを重視して教材を選択し、平成25年より使用している。
【使用している副教材】
1年生: | コミュニケーション英語Ⅰ | :Essential Reading 1 (マクミラン) |
英語表現Ⅰ | :Take it easy(センゲージ・ラーニング) | |
2年生: | コミュニケーション英語Ⅱ | :Select Readings Pre-intermediate(オックスフォード出版) |
3年生: | 英語表現Ⅱ | :Key words for Japan(センゲージ・ラーニング) |
(4)授業内活動の見直し:「知りたい意欲」と「知識の活性化」のための発問
授業で使用する授業指導案(Teaching Procedure)、補助プリント(Supplementary Handout)は、道内の北海道旭川北高等学校の松井徹朗教諭と連携を取った。
いかに「教科書を教える授業」から「教科書で教える授業」へ授業形態を移行できるのかを検討し、テキストの英文レベルに左右されずに「知りたい意欲」を掻き立てる授業プランづくりを研究した。結果、ペアワークやディスカッションだけでなく、簡易ディベートやフリートーク、グループプレゼンテーション等も日常的に行うことで、授業内で「考えるプロセス」が確保でき、理解した内容を会話の中で活性化させることができた。
特に、発問の仕方の研究に力を注いだ。いかに生徒-生徒、生徒-教師のインタラクションの機会を設けるかが「考えるプロセス」の鍵であると考え、教員間で発問の鍵について検討し共通理解を得た。
- テーマを咀嚼し、的を絞りこんだ発問
- 生徒の知的好奇心と英語レベルの両方に釣り合う発問
- 多角的に考えることができ、回答(×解答)が多岐にわたる発問
(5)評価の見直し:「授業と評価を乖離させない」
授業内容と評価内容を乖離させないために、定期考査の他に、定期的にパフォーマンステストを実施して評価内容に加えた。
- (1)平常点:
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・インタビューテスト(年2~3回)、スピーチ、プレゼンテーション、提出課題、等
- (2)定期考査:
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・授業で扱った言語材料を用いて即興で考え書かせるエッセイ
・テキストで扱ったテーマに関係する別の英文の内容理解
・扱った言語材料やテーマが使われている初見の英文
・和訳だけでなくテキストの本文そのものを出題しない。(単なる暗記力を測るテストにしない)、など
(6)英語科の枠を超えた活動
- 教科横断的な授業研究
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英語科の取組みを校内で広げるために、平成26年度より他教科と共同で行う授業を実践している。具体的には「政治経済」との共同授業で、リサーチ学習に基づくプレゼンテーションを行った。テーマとしては、「日本における中小企業」、「TPPと日本の農業」、「日本のエネルギー」、など。生徒たちは内容や用語に難しさを感じながらも、課題に真正面から向き合い、発表後は積極的に議論し合う生徒の声が飛び交った。内容理解や定着は通常の授業よりはるかに良い結果が得られ、生徒の学習意欲の高揚にもつながった。
英語を言語ツールと捉えた授業形態は、あらゆる教科との共同授業が可能であり、アクティブ・ラーニングの一端を担えるものと考える。
- 英語プレゼンテーションコンテスト
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[写真:商店街の改善案をプレゼンする生徒たち]
インタビュー等のフィールドワークも可能にするため、テーマを「函館大門地区(駅前商店街)の活性化案」と設定し、リサーチ学習とパワーポイントを用いた発表を行った。身近で現実味のあるテーマに、生徒達はオリジナリティ溢れる視点からリサーチを行い、英語でプレゼンテーションを行った。発表後は英語での質疑の時間も設け、 商店街の改善案をプレゼンする生徒たち内容に対する質問に即興の英会話での意見交換で議論を深めた。
今後のコンテストでは、ジャッジに外部有識者や市の関係者等の招聘も考慮に入れ、より現実的な発表会の実現を検討している。
- 遠隔授業システム
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[写真:スクリーンから授業する弦木教諭]
平成25年度より道内の北海道阿寒高等学校の遠隔授業システム(文部科学省研究開発学校指定)の協力校として、本校・弦木教諭が担当し授業を行っている。コンピューター・ネットワークを利用した通信型授業の先駆として、授業プランの作成、授業評価の研究、等を行っている。本校で実践しているコミュニケーションを重視した授業を遠く離れた学校にも提供でき、好評を得ている。
- 市内中学校との連携
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平成27年度より北海道教育大学附属函館中学校と連携し、本校生徒を当中学校の英語の授業へインターンシップとして数回派遣することを企画中。授業時はグループワークやディスカッション時のサポート・リーダーとして英語の授業へ参加、校種を跨いだ取り組みで、地域内の中学校-高等学校の英語教育の連携を密にすることと、参加生徒の英語実践の機会確保、本校の実践内容の発信を目的としている。
- 外部発信としての研究会の実施・自校HPの活用
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SELHi指定校当時より十数年に渡り、年間1~2回の研究協議会を実施、研究実践結果を地域、全国への発信に努めてきた。また、使用している授業指導案(Teaching Procedure)・補助プリント(Supplementary Handout)をホームページにPDFファイルで掲載。誰でもがダウンロードできるようにしている。
4.得られた成果・今後の課題
(1)生徒の変容
- 外部試験による英語力の伸長
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定期的に外部試験評価として行っているGTEC for students(ベネッセコーポレーション)では過年度生とのスコア比較で下表のとおりの伸長が見られ、取組みの成果が認められた。
※2012年度卒業生がコミュニケーション重視型授業移行初年度にあたる(本取組初年度)
【Total】
卒業年度 1年次 2年次 3年次 受験時期 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 2015年度生 422.4 483.0 489.8 515.1 2014年度生 405.8 465.6 481.4 498.1 518.4 547.9 2013年度生 407.2 471.0 476.5 498.1 501.4 516.8 2012年度生 408.9 433.9 447.7 489.0 497.2 524.5 【Reading】
卒業年度 1年次 2年次 3年次 受験時期 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 2015年度生 152.9 182.6 186.9 184.9 2014年度生 149.6 175.7 184.7 180.8 194.3 207.2 2013年度生 148.6 174.8 183.9 181.3 185.6 194.5 2012年度生 153.3 163.3 168.5 178.9 178.8 196.4 【Listening】
卒業年度 1年次 2年次 3年次 受験時期 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 2015年度生 159.9 181.7 189.6 208.0 2014年度生 149.4 172.9 179.1 195.3 205.4 215.5 2013年度生 150.6 174.0 177.6 192.6 202.1 204.8 2012年度生 148.4 159.5 166.0 187.6 195.7 203.4 【Writing】
卒業年度 1年次 2年次 3年次 受験時期 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 4~8月 9~12月 2015年度生 109.6 118.7 113.4 122.1 2014年度生 106.7 117.0 117.6 122.0 118.7 125.2 2013年度生 107.9 122.2 115.0 124.1 113.7 117.5 2012年度生 107.2 110.5 113.2 122.5 122.7 123.3 - 英語学習に対する積極的な意欲と姿勢
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本取組みの完成学年である現3年生(2015年申請時)に、「入学時の能力・意識と比較して」英語の各分野についてのアンケートを実施した。「とても向上した」、「向上した」と答えた生徒は、「読む力」87.5%、「聴く力」82.5%、「書く力」85%、「話す力」92.5%、「今後も英語の学習を続けていきたい」と答えた生徒は全体の82.5%という結果で、学習者自身が英語力の向上を自覚でき、卒業後の学習に関しての積極的な姿勢だと認められる。
(2)教員の変容
- 教員間の共通理解と協力体制
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以前は暗記重視型の授業が大勢を占めていたが、現在は英語科スタッフ9人全員が、当該学年では同じ教材を使用して同じ目線で授業を行っている。込み入った文法説明以外、英語で授業は行われ、本取組みは大きな効果があったと言える。
暗記型の授業ではないため、学年を跨って同じ教材を共有・改定しながら使用することも可能で、教材研究や過年度比較もし易く、指導内容の課題も発見しやすい。
- 他校との連携
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本校の実践内容に関する各種研究会での発表依頼や、他県からの本校の視察依頼など、本校の情報発信に対する校外からの反応が増加した。本年度も他県の高等学校や大学との交流が複数予定され、情報交換・共有の場面は今後も増えていくと思われる。
(3)今後の課題
2015年度で改定したカリキュラムで行う英語指導が全学年完成したことになる。校内での指導体制は一定の結果と共通理解を得たと考える。同時に、コミュニケーション活動や評価等の細部に渡っては、各学年の生徒の実態に左右される部分もあり、今後も更なる研究が必要である。
実践内容の情報発信については、今後も継続的に発信していく必要があると考える。
(※2015年度ELEC英語教育賞 北海道函館中部高等学校の申請書を編集して掲載しています)