ELEC英語教育賞
2017年度受賞校取組
岩手県紫波町立日詰小学校
コミュニケーション能力を身に付けた次代を担う人材の育成
~小中高等学校をとおしての英語教育の抜本的充実に向けた、
小学校英語教育の先進的な取組の試行及びその成果・課題の検証
2017年度 ELEC英語教育賞 理事長賞を受賞した岩手県紫波町立日詰小学校の取組を紹介します。
1.取組前の課題
小学校5・6年児童の高い学習意欲、外国語(英語)を用いたコミュニケーションへの慣れ親しみに一定の成果を得た一方で、進級・進学に伴う学習意欲の陰りという課題が認められた。
小学校においては、小・中・高等学校の8年間を見すえつつ、言語や文化について、体験的に理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度と、身近で簡単なことについてコミュニケートする能力の基礎育成を図りながら、次世代を担う人材を育成していきたいと考えた。
2.目標としたこと
この研究においては、「次世代を担う人材を育成」するために、
- 小学校外国語活動と小学校英語の接続を意識した教育課程の編成・実施、
- 小中高一貫した学習到達目標を活用した指導・評価の改善と児童の英語力向上に係る課題、
具体的には以下の6つの課題について明らかにしていく必要があると考えた。
- 小学校高学年における教科「外国語」の教育課程の編成・実施について
- 小学校中学年「外国語活動」の教材等の再検討について
- 小学校高学年「外国語」のカリキュラム開発及び指導の工夫について
- 小学校高学年の教科「外国語」における評価方法について
- 小学校教員の指導体制及び指導力向上に向けた教員研修について (県・町教委担当)
- 小学校の指導を活かした中学校・高等学校における指導の充実について (中・高部会担当)
3.具体的な活動内容
❶ カリキュラム・マネジメント
☆ 3・4年生[活動型]… | 週1コマ(45分)「話す」「聞く」の音声指導中心の授業 |
☆ 5・6年生[教科型]… | 週2コマ(45分+15分*×3)*「モジュール活動」1校時前に実施が原則「話す」「聞く」+初歩的な「読む」「書く」の授業 |
☆ 小中高一貫した学習到達目標の設定… | 英語を用いて、何ができるようになるかの視点で |
改善目標との関連
小学校高学年における教科「外国語」の教育課程の編成・実施について(上記①) |
小学校高学年「外国語」のカリキュラム開発及び指導の工夫について (上記③) |
小学校の指導を活かした中学校・高等学校における指導の充実について(上記⑥) |
(1) 効果的なモジュール学習の組み方、位置づけ、実施内容、他の教育課程との関わり
新学習指導要領で示される5・6年生外国語の時数は、年間70時間で週2コマの計算。中央教育審議会は、時数は週28コマが限界と明言しているため、提示された年間70時間を実施する案の中から、モジュール活動を導入し本格実施へ向けた研究を行うこととした。
- 指導の実際
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- ア
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活動時間:(1回15分×週3回=45分 を35週)
モジュール活動は週3 回、水・木・金の朝活動、8時15分~8時30分に行った。
- イ
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活動形態:5・6年生とも、学年でHRT(学級担任。以下同じ)が実施した。
- ウ
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活動に使用した教材: 昨年度、市販DVD教材“SWITCH ON! 1・2(松香フォニックス)”、“Hi,friends! 1・2(文部科学省)”のチャンツを基本に、だれでもモジュール学習を実践できることを目標とし取組をスタートさせた。その後2学期後半からは、授業に連動したモジュール活動の展開を目指し、教材開発とモジュール学習の充実を目指した。
- エ
-
モジュール学習の形態: モジュール学習を展開する際の目的としては、「予習」「復習」
「予習と復習」の3種類が考えられるが、授業との連動を研究の中心に据え、「予習と復
習」を1単位時間に組み込んだ形でモジュール学習を展開した。
- 実践例
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6年生のHi, friends! 2 Lesson 6 “What time do you get up?”と連動させたモジュール学習では、15分と限られた時間の中に多くの活動を取り入れているため、指導過程をパターン化したりテンポ良く進めたりすることを意識して実施した。
- ア
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Warming up: SWITCH ON! を中心にフォニクスを1学期から続けて実施してきた。
アルファベットの読みと音の違いを感じさせたことで、発音も良くなってきている。また、ALTの発問も理解することが多くなってきた。 - イ
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review
- 45分授業で学習した単語の復習と、間違えやすい数の数え方の復習を行った。
- HRTが、数の表を指し「13と30」、「15と50」等を中心に復唱させた。意図的な指導により、児童の数に対する意識を高めることで、数を表す音に対する理解が深まった。更に、45分授業の中で意識的に指導し定着が確実になるようにした。
- 数の確認では、時刻の表現で使う1~60の中で、5刻みの数に限定し練習させた。(1、5、10、15・・・55)
- ウ
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Main Activities
- 45分の授業で使う表現“go home, take a bath”等を予習。
- 児童たちが違和感なくセンテンスを確認するために、既習事項であるチャンツ “chant Hi, friends! 2 p.24 ♪What time do you get up?” を使い、音を確かめさせた。既習事項を取り入れることで、児童の抵抗感を軽減し安心感をもたせることができた。
- ジェスチャーゲームを取り入れて、音だけではなくジェスチャーで伝える活動を取り入れ、英語に抵抗感をもっている児童も活動しやすくした。
チャンツの様子
「Clear voice, Smile, Gestureで!」
- エ
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writing
- 完全実施では評価項目として「書くこと」が加わることと、小中の接続を考え、書く活動を取り入れた。声に出して書いたり体を使って書き順を確かめさせたりした。また、フォニクスで学習した単語と連動させることで文字と音の繋がりを意識させた。
- 選択したアルファベットは、Hi, friends! 2 Lesson 6 で学習する単語のアルファベットを洗い出し、全12回のモジュールで全て扱うようにした。
(2) モジュール活動計画:
45分授業の効果をより高めるため、これまでの年間計画にモジ
ュール3回分を連動させたものを、昨年度2学期後半から徐々に作成しながら進めている。
(3) 小・中・高等学校の8年間を見通した学習到達目標(抜粋)
❷ 小学校中学年「外国語活動」の教材等の再検討
☆ 3年生用 | “In the Autumn Forest(教室用大型絵本・児童用小型絵本)” |
☆ 4年生用 | “Good Morning(教室用大型絵本・児童用小型絵本)” |
☆ 3・4年生用 | “Hi, friends! Story Books(デジタル教材)” |
改善目標との関連
小学校中学年「外国語活動」の教材などの再検討について(改善目標②)
(1) 実践例(4年生用 ”Good Morning”)
単元:Hi, friends! 2 Lesson6 What time do you get up?
単元計画:
時間 | 目標 | 主な活動例 | 評価規準 | |
1 | ・動作や時刻の言い方を知る(知識) | ・ストーリーブックスタイム (読み聞かせ) ・チャンツ ・ナンバーリレー | ・動作を表す言い方を発話している。 | |
2 | ・動作や時刻の言い方に慣れ親しむ(思考) ・生活を表す表現やその時刻を尋ねる表現を知る。 | ・ストーリーブックスタイム(Q&A) ・チャンツ ・キーワードゲーム ・ナンバーリレー | ・尋ねられた時刻を答えている。 ・生活を表す表現や時刻を尋ねる表現を発話している。 | |
3 | ・生活を表す表現やその時刻を尋ねる表現に慣れ親しむ。(思考) | ・チャンツ ・ナンバーリレー ・ジェスチャーゲーム ・ペアインタビュー | ・1日の生活を表す表現を発話している。 ・時刻を尋ねている。 | |
4 | ・生活を表す表現やその時刻を尋ねる表現に慣れ親しむ。(思考) | ・チャンツ ・ナンバーリレー ・クラスインタビュー | ・1日の生活の時刻を尋ねたり答えたりしている。 | |
5 | ・世界には時差があることに気づく。(知識) ・相手に伝わるように工夫して自分の生活を紹介しようとする。(態度) | ・チャンツ ・自分の1日を伝えよう。 ・日本の時刻と世界の時刻を比べよう。 ・ストーリーブック(ペアトーク) | ・時差があることに気づいている。 ・進んで自分の生活を紹介しようとしている。 | |
(2) 中学年用絵本教材について
中学年では、外国語学習への動機付けを高めるため、体験的に『聞く』『話す』を中心とした外国語活動を通じて、言語や文化についての体験的理解や、音声等への慣れ親しみ等を発達段階に適した形で養うとともに、指導内容・方法や活動の設定、教材の工夫により、指導の効果を高めることを目指した。文部科学省が開発した、小学校の新たな外国語教育のための中学年用補助教材を用いた実践をし、その効果を検証することとした。
TTによる読み聞かせの様子
- ア
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絵本教材の活用の意義: コミュニケーションは、「話す」ことより「聞く」ことから始まる。聞いて相手の話していることがわかる体験をたくさんさせたかった。
絵本の読み聞かせは、絵から情報を読み取り、状況を理解しながら聞くため、「聞いてわかる」体験が容易と考えた。
- イ
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読み聞かせの仕方 : “Hi, friends!2 指導編 ”で示す 以下 の留意点に従った。
- (ア) ジェスチャーをつけ表情豊かに読む。
- (イ) 児童に絵や筋ついて時折質問をしながら絵本の世界に引き込むようする。
- (ウ) めくる際に ,次に起こるとを予想させ等 、その後展開に興味をもたせる。
❸ パフォーマンス評価等,様々な評価方法の実践及び評価の観点の再吟味
☆ パフォーマンス評価、ポートフォリオ評価、通知表評価、年度末評価(指導要録) |
改善目標との関連
小学校高学年の教科「外国語」における評価方法について (改善目標④)
(1)小学校教科英語の評価について:
小学校教科英語の評価については、全ての児童が「成就感・達成感」を感じ、気持ちが前向きになるような評価を行うことが大切だと考える。また、評価の際には、身に付けた知識や技能を活用できるようなコミュニケーション場面の設定が必要である。場面から切り離し、機械的に問うて、答えられた・答えられなかったを振り分けるのでなく、ALTと温かなコミュニケーションを行って、児童の達成感につながる評価にすることを重視した。
- パフォーマンス評価
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パフォーマンス評価とは、ある特定の文脈のもと、実際に何かをやらせ、それにより直接的に学力を評価する評価法。「パフォーマンス課題」と「ルーブリック(評価指標)」で構成。
【パフォーマンス課題】 場面や状況を設定し、それまで身に付けた知識・技能を活用し、必然性をもって使いこなすことを求める課題。 【ルーブリック】 どのような力を、どの場面で評価するのかをあらかじめ定めておき、どの程度できれば目標に達したとみなすのか、その到達レベルを設定した評価指標。 - ア
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パフォーマンス評価の方法及び場の設定例
- (ア) HRT、ALT等と児童とで、既習事項を用いた英語による対話を行う。
- (イ) その学期に学習した単語や表現をHRT等が引き出す質問を学期末に行い、児童のそれまでの成果をリラックスした雰囲気の中で評価する。
- (ウ) 児童はカードを持ち、HRTやALT等と、学習した単語や表現を使った会話を楽しむ。(スタンプラリー形式)評価する側は、児童の英語に多少の誤りがあっても、既習の単語や表現を用いてコミュニケーションを図ることができたかどうかで判断する。
- (エ) 再チャレンジの場を保障し、ほとんどの児童をA評価とする。
- イ
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パフォーマンス評価前の注意点
- (ア) コミュニケーション場面及び対話する相手を伝える。
- (イ) どんな内容を表現できればよいのかを事前にモデルで示す。
- (ウ) 評価の観点及び規準(A・B段階)をしっかりと伝える。
パフォーマンス評価の様子
- ポートフォリオ評価
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学習シートや授業の最後に書かせる「振り返りシート」、“Hi, friends! Plus(文部科学省)”の「CAN-DO リスト~ふり返り~」などを、それぞれの児童に1冊のファイルに綴じさせ、3つの観点に関わる内容について、「振り返りシート」を活用して、授業毎に自己評価させた。
学期末には、それぞれのシートを最初から振り返る時間を作り、3つの観点において、自分の学びの変容を考える時間を設定するが、教師や児童の負担になりすぎない方法が必要。
- “XG”カード、毎時間黒板に掲げて振り帰り評価: X(= E C S) + G
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向き合う人・事柄・社会・未来に「次代を担う人材」が示すべき姿と考え、毎時間Eye contact, Clear voice, Smile, Gesture の様子をALTが評価、各自シートに記録。
- 通知表評価 …今年度は、以下のように設定して実施した。
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- ア
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評価の観点(3観点)
- (ア) 簡単な英語を用いて積極的にコミュニケーションを図ろうとしている。<学びに向かう力>
- (イ) 身近で簡単なことについて話される英語を聞いて、話し手の意図などを理解することができる。<思考・判断・表現>
- (ウ) 身近で簡単なことについて、英語を用いて自分の気持ちや考えなどを話すことができる。<思考・判断・表現>
- (エ) 基本的な音声、文字・符号を使うことができる。<知識・技能>
- イ
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評価の方法: パフォーマンス評価、ポートフォリオ評価(自己評価や相互評価)、児童の活動の観察
- ウ
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評価: 3段階評価による観点別評価(実際はAとBの2段階で評価できる指導に励む)
- 年度末評価(指導要録)
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評価の観点 評価の方法 聞くこと・話すことに関する知識・技能 主に英検Jr.ブロンズテストの結果から 定型表現を用いたコミュニケーション能力 パフォーマンス評価・・・通知表の(イ)、(ウ)等・・・から 学びに向かう力(主体的に学習に取り組む態度) 児童の活動の観察、自己評価等から
4.得られた成果・今後の課題
(※囲み内は調査データより)
- 導入で絵本の読み聞かせをしたことによって、児童は集中して絵本の世界に入り込み、内容に興味をもって本単元に入ることができた。
- 本の活用によって、話を「聞く」ことや内容、展開を予測することによる「聞いて分かる」体験、ペアトークによる双方向でコミュニケーションを図る楽しさを味わわせることができた。
- 授業との連動を考えたモジュールを展開することで、児童が安心して45分の授業に入り、繰り返して音やセンテンスにふれることで、学習内容の定着を図ることができた。
- 英語でコミュニケーションできた達成感から意欲の継続、以降の学習の動機付けとなった。
- パフォーマンス評価の際に再チャレンジの機会を設定したことにより、ほとんどの児童をA評価まで引き上げることが可能となった。
- 単元毎に振り返りシートを活用することで、指導目標を踏まえた自己評価が可能となった。
- 毎年4回の公開研究授業を広く呼びかけ、研究を発信し、ご批正を頂く機会に恵まれた。
2017年度ELEC英語教育賞 岩手県紫波町立日詰小学校の申請書を編集して掲載しています。