ELEC英語教育賞
2017年度受賞校取組
茨城県立竹園高等学校
「検定教科書を活用したディベート活動を通して英語の発信力を育成する取り組み」
2017年度 ELEC英語教育賞 文部科学大臣賞を受賞した茨城県立竹園高等学校の取組を紹介します。
1.取組前の課題
本校独自のACE (Approach to Communicative English) プログラムの3年間にわたる指導計画に基づき,普通科2年生6クラスの生徒全員が12~翌年1月(国際科2年生2クラスは学校行事の関係で5~6月実施)にディベートを行っている。(資料1 ディベート活動の実施形態の変遷)本申請書では、この2年次の活動内容を中心に報告する。
ACEプログラム元年であった2006年から2010年までの5年間は,検定教科書の題材を用いて自分の意見を言う練習を数多く積んできた。しかし,ほとんどの生徒が,ディベートの試合になると何も言えずに持ち時間を無言で過ごしてしまったり,言うことがなくなり持ち時間が余ってしまったりということがあった。自分の意見を述べる機会を数多く設け,練習を積んできていたはずだったのに,残念ながら試合にならないケースが数多く見られた。
この問題を解消するために,6年目(2011年)には,相手側の論点を把握することに力点を置くために,リフレーズの練習を強化した。その結果,生徒の発話量が増え,リフレーズ活動を通して相手の話を理解することが発話量を増やすのに有効であることがわかった。
発話量が増えた段階で,改めて話の内容に注目してみると,論理性に乏しい意見がたくさんあることに気づかされた。そこで,2013年からは,Q&A活動などを取り入れ思考力の育成を目指した活動を導入した。これらの過去の実践を踏まえて,2015年度入学生には以下に説明する新しい授業フォーマットを設計し,実施している。
2.目標としたこと
普通科2年生6クラス全員がディベートにおいて,以下のⅠとⅡができるようになるとともに,Ⅲについては生徒一人一人において質的変化が起こることを目標とする。また,Ⅳ,Ⅴについては言語活動全般を通して,生徒に意識の変化が起こることを目標とする。
- Ⅰ 試合において自分の持ち時間を話し切ることができる。
- Ⅱ 試合において相手側の論を踏まえて,自分たちの論を展開することができる。
- Ⅲ 試合において論理的に自分たちの論を主張することができる。
- Ⅳ 「答えは必ずしも一つではない」という考え方を十分に理解し,他者の意見を尊重する姿勢を培う。
- Ⅴ ペアワークやチームワークを通して協働の精神を培う。
※ 競技ディベートを成立させ,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの目標を達成するために以下の下位目標を設 定する。
- 論題に関連する文献を読む力をつける。
- 必要な情報・データを収集する力をつける。
- コンストラクティブスピーチやアタック・ディフェンスの想定問答原稿を書く力をつける。
- メモを取りながら聴く力をつける。
- 相手側の論を踏まえて(リフレーズして)話す力をつける。
- クイックリスポンスする力(素早く,論理的に思考したり判断をしたりして,それを言葉にする力)をつける。
3.具体的な活動内容
ディベート活動は4技能をバランスよく統合した活動であるとよく言われるが,実際には試合の準備段階と試合の最中では,使う技能に違いがある。つまり,準備段階では,①論題に関連する文献を読む力,②必要な情報・データを収集する力,③コンストラクティブスピーチやアタック・ディフェンスの想定問答原稿を書く力,といった主に「読む」,「書く」の技能が求められている。それに対して試合中では,④メモを取りながら聴く力,⑤相手側の論を踏まえて(リフレーズして)話す力,⑥クイックリスポンス(素早く,論理的に思考したり判断をしたりして,それを言葉にする力),といった主に「聴く」,「話す」の技能が求められている。
この事実を踏まえて,生徒は「事前課題」として,検定教科書(Crown 三省堂)の題材で,①,②,③の要素を取り入れた「読む」と「書く」に特化したワークシートに各自,取り組んだ。
授業では,各自が取り組んできたワークシートをもとに,④,⑤,⑥の技能習得のためにペア活動を多く行った。相手の話と関連づけて自分の意見を述べる訓練を重視しているため,「聴く」「話す」をできるだけ統合させ,話す活動を単独で行わないようにした。また,ペア活動を多く取り入れることで,クイックリスポンスの場面を多く持った(話す相手がいることで,素早く思考し,素早く表現する必要性のある状況を作ることができた)。また,オープンクエッション(Question Making活動,Further Reading活動,Optional Reading活動などにおいて実施)を多く取り入れることで,自由な発想や創造力を育む機会を設けた。その際,教師側からは「答えは必ずしも1つではない」というメッセージを生徒に繰り返し送った。
以下が,検定教科書の題材,難易度を考慮し,1年次のACEプログラムへの導入期から徐々にスキルのレベルアップが図れるように活動を配置した例である。また,活動がマンネリ化して生徒のやる気が損なわれないように,活動にバリエーションを持たせるようにした。
― 各レッスンに入る前の活動 ―
- Warm-up / Mini Presentation活動
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- [宿題]
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- 目的:各レッスンのトピックについてリサーチし,スピーチ原稿を作ることで①,②,③の技能を習得する。
- 内容:1年生の初めのレッスンでは,レッスンで取り上げられた人物について5行で人物の紹介を書く(資料2)。1年生の後半のレッスンでは,トピックを2つにし,人物の紹介のほかに事物について説明を書く(資料3)。2年生の初めのレッスンでは,トピックを3つに増やし,一般的な事物の説明が増えている。分量も,1分間のプレゼンに対応できる語数となっている(資料4)。この頃より,暗記するというよりもメモを見ながら,話すという訓練にシフトをしている。また,2年生の後半ではトピックは2つに減らしているが,丁寧な説明が必要となるような時事的なトピックが選ばれている(資料5)。また,徐々にテーマについて,本格的にリサーチが必要になってきている。3年生では,リサーチありきのテーマとなり,分量も,2分間と長くなっている(資料6)。3年生の後半では,自身のことについて客観的に事実を踏まえて説明するなど,プレゼンテーションのトピックに広がりを持たせている(資料7)。
- [授業]
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- 目的:「スピーチ力」の養成。最終目標は,スピーチの暗記ではなく,メモを見ながらスピーチをすることができること。また,ペアワークの際はパートナーのプレゼンテ―ションの内容をリフレーズすることができるようにする(④,⑤)。
- 内容:作成してきたスピーチ原稿をペアやクラスで発表する(その際,聞き手側は,メモを取りながら聴く)。ペアで行う場合は,リフレーズの練習もする。
― 授業の活動 ―
- Summary Making活動
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- [宿題]
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- 目的:要約文を作成することで,サインポスティングやレフレーズの練習,アタックスピーチ,ディフェンススピーチ,サマリースピーチ作成の練習をする(①,③)。
- 内容:各課の概要を把握し,要約文を100語程度で書く。導入期には,トピックセンテンスを見つけ,それらをリフレーズし単純に合体させ,文の流れとして不自然な部分を修正するという,機械的で簡単な要約の仕方を実践する(資料8)。慣れてきたら,重要な語句に線を引き自由に要約文を作る(資料9)。また,この時期に,重要な段落とそうでない段落の扱い方についても学ぶ。上記のステップを踏んだのち,重要な語句や重要な段落を自分で判断し,要約文を作る(資料10)。
- [授業]
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- 目的:ペアワークを通して他者の要約文に触れることで,自分の要約文を再度客観的に分析する(③,⑤,⑥)。
- 内容:各自が事前に作ってきた要約文を使って,評価する際のポイントの確認やパートナーの要約文に対して講評を述べるなどの言語活動をペアで行う。
- Question Making活動
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- [宿題]
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- 目的:Step1(自身の理解の確認のための質問)とStep2(アタックスピーチ,ディフェンススピーチにつなげるための質問)の2種類の質問を作成できるようにする(試合におけるQ&Aタイムを想定した活動)(①,②,③)。質問文を作ることで論理的思考力や批判力を養成する。
- 内容:導入期では,本文中に答えが見つけられる質問(Step1)(資料11)と,本文中に答えのない質問(説明が十分になされていない部分や,矛盾を含んだ表現がある等の理由で答えがでない箇所を指摘する活動)(Step2)(資料12)の2種類の質問を事前に作る。
- [授業]
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- 目的:ペアで質問し合い,互いに答えあうことで,④,⑤,⑥の技能を養成する。特にStep2では,Ⅳについて意識させる機会とする。
- 内容:ペアで質問をし合う。Step2の「答えのない質問」については,「答えは必ずしも一つでない」というメッセージを常に生徒に送り続けるとともに,「ありうる答え」についても,リフレーズの活動を取り入れながら,話し合わせる。2年生では,Step0を新たに加え(資料13),複雑な構文の英文等を用いてリフレーズの練習を行う。また,「答えのない質問」という言い方を,「ディベートの試合をするにあたって,どの部分をあなたは質問 / アタックしますか?」という聞き方にかえ,試合により近い場面設定をする(資料14)。2年生ではさらに,Question Making Plusという活動を追加する。制限時間を設けてレッスン全部をまとめて読み,その後教科書を閉じて,内容についての教師からの口頭での質問に答える(資料15)。ペアでの協働学習にしてもよい。3年生では,一言では答えられないような,より包括的な質問を用意し,自分の言葉で丁寧に説明する練習をする(資料16)。また,パートナーのこれまでよりも複雑な意見をリフレーズする機会とする。
- Further Reading活動
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- [宿題]
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- 目的:レッスンで取り上げられた事柄に関して様々な角度から理解を深める。どのような取り組み課題についても,根拠を示して,説得力のある自分の意見を書く(①,②,③)ことを通して,論理的思考力や批判力を養成する。
- 内容:“鑑賞”に当たる質問(「答えは必ずしも1つではない質問」)に答えたり(資料17,18),レッスンに関連する事柄について調べたり,スピーチ原稿を作ったり(資料19)など,様々な視点から自分の意見を書く活動をする。
- [授業]
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- 目的:④,⑤,⑥ 及び Ⅳ
- 内容:ペアで意見を交換したり,クラスで発表したりする。リフレーズをする機会を必ず設け,常に他者の論旨を把握することに努め,ペアワークで即座にレスポンスをする訓練もする。
― 各レッスン終了後の活動 ―
- Mini Debate活動
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- [宿題]
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- 目的:肯定側,否定側の双方について,1分間のコンストラクティブブスピーチを作成することにより①,②,③の技能を習得する。
- 内容:各課に関連した論題を設定し,賛否,是非などについて,関連データを収集し,1分間のコンストラクティブスピーチを作成する。
- [授業]
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- 目的:スモールステップで試合形式に慣れる。また,ディベートの練習試合を通して「聴く」,「話す」の技能の実践をする(④,⑤,⑥,Ⅴ)(資料20,21,22,23,24)。
- 内容:ペアで,または4人グループで練習試合をする。
- Optional Reading活動
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- [宿題]
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- 目的:Optional Readingを読んで,Further Readingの活動と同様に,様々な活動を通して,①,②,③の技能を習得する。併せて,自由な発想や豊かな創造力を培う。
- 内容:Optional Readingを読んで,その内容に関して,課題に取り組む(資料25,26,27)。
- [授業]
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- 目的:④,⑤,⑥,Ⅳ,Ⅴ 及び創造力を育む。他者の豊かな発想に触れ,「答えは必ずしも一つではない」ことを再確認するとともに,意見を分かちあう楽しさを味わう。
- 内容:ペアで意見を交換する。その際,リフレーズをし,相手の論旨を正確に把握する訓練をするとともに,感想を述べるなどのクイックレスポンスの習慣を身につける。
4.得られた成果・今後の課題
[教員の観察から]
ⅠとⅡの目標は,ほぼ全員が達成できた。その根拠として,以下のことが挙げられる。
- 生徒は,リフレーズをし,パートナーの話と関連付けて英語で会話のキャッチボールができるようになった(資料28)。
- 生徒は,英文を読みながら,説明の足りない部分を見つけようとする習慣が身についた。
- 生徒は,自分の考えや思いをパートナーになんとか伝えようと努力するようになった。
- ディベートの試合において,ほぼ全員の生徒がリフレーズして,自分たちの側の論を主張することができた。
- 生徒は,競技ルールを理解して,ミニ・ディベートを抵抗なくいつでも行えるようになった。
- 生徒は,70~100語程度の要約文が書けるようなった(資料29)。
- 生徒は,リサーチをして200語程度の英文を書くことに抵抗がなくなった(資料30)。
- 2年次のディベートプロジェクトを土台として,3年次にはACEプログラムの集大成としてディスカッションプロジェクトとエッセイプロジェクトを実施しているが,3年次4月当初からディスカッションプロジェクトへの移行が大変スムーズであった。すなわち,相手の論点を端的に把握しようと努め,リフレーズで他者の意見を確認しながら話し合いに参加している(資料31)。
- ワークシートや定期テストで課すエッセイライティングには,論理的な文章や自由な発想の文章が多くみられるようになった(資料32)。
[GTEC for Studentsにおけるライティングスコア成績分布(人数)の推移から]
グレード5の生徒数が,2015年度入学生2年次の最初と最後で23人(7.2%)から,164人(51.7%)に増えた。
2017年度ELEC英語教育賞 茨城県立竹園高等学校の申請書を編集して掲載しています。