ELEC英語教育賞
2020年度受賞校取組
神奈川県海老名市立有鹿小学校
他教科等の指導法を転用した外国語授業-学級担任が実現可能で持続可能な指導
2020年度 ELEC英語教育賞 ELEC理事長賞を受賞した神奈川県海老名市立有鹿小学校の取組を紹介します。
1.取組前の課題
本校では2019年度から小学校外国語専科教員(以下、専科教員)による指導を行っている。しかし、神奈川県でも小学校外国語教育に係る指導体制については「学級担任が基本」としていること、また、海老名市では、学級担任がT.1(第1授業者)として自立していくことをめざしていることから、学級担任の外国語授業力の向上は喫緊の課題である。
2019年度の状況としては、これまでの海老名市全体の研究成果を基に、教科化を見据えた高学年教科型の授業、中学年以下の外国語活動型の授業を展開することができたが、学級担任の感覚は、未だ「特別な授業で自分の指導する範疇ではない」というものであった。それらの教員にとって外国語教育とは、専科教員や時には外国人指導助手(以下、ALT)が授業したり、指導計画を立てたりすべきものという認識に留まっていた。つまり、子ども側の視点で見れば、文部科学省の求める外国語の授業が実現されたが、教員側の視点から見れば、一部の教員のみが的確に指導可能な授業という認識であった。
2.改善目標
- 指導過程の明確化をめざして一元化していた外国語授業の指導過程を、学級担任が長年行ってきた他教科等の指導過程と比較することで、多元化・再構築する。
- 評価計画を含む指導計画(単元計画)作成のための研修計画を作成し、学級担任の外国語指導力に合わせた研修を行えるようにする。
3.目標達成に向けた具体的な活動内容
- めざす子ども像の共有
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めざす子ども像、つまり最終的な子どもの姿が明確でなければ、授業者は自身の授業の方向性を定めることができない。特に第5学年及び第6学年の子どもたちに対しては、数値評価を含む教科として授業を展開していく必要があり、めざす子ども像の共有というものは学級担任が実現可能で持続可能な授業に必須である。
そこで、専科教員である石川雄一郎教諭の本務校である今泉小学校(市内の外国語教育先行研究校)の公開授業や記録映像を使い、指導案等の文字ではなく目と耳で感じられる機会を設定した。また、「先行研究校の子どもたちだから、あのような姿なんだ」と、めざす子ども像に対して必要以上に懐疑的にならないよう、本校での授業を同じように公開しめざす子ども像の明確化を行った。
- モデルとなる授業像・指導者像の共有
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めざす子ども像の共有と同じく公開授業や記録映像を使い、モデルとなる授業像・指導者像の共有を行った。このモデルとは、海老名市全体の研究成果を基にした指導過程(型)と、発問、質問、指示、説明などの授業者の指導言の実際を合わせたものである。
- 2-1 指導過程における留意事項(有鹿小学校、外国語指導入門期用より抜粋)
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- ・あいさつ
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明瞭な声で子どもたちやALTにあいさつをする。外国語の時間は、英会話能力の育成だけをねらっているのではなく、コミュニケーションの素地や基礎を養うことを目的にしているからこそ、外国出身の方と仲よくしている姿を子どもたちに見せる。
- ・復習
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他教科と同じように、学びが続いていることを子どもたちに感じさせるためにも、復習の時間を大切にする。
- ・めあての提示
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めあてを理解させ、主体的に学習に取り組めるようにする。なお、指導案や教師用指導書にある文をそのまま書くのではなく、目の前の子どもたちにとって理解できる言葉にすること。
- ・主活動につながる練習
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水泳指導で、「〇〇して、〇〇したら泳げます。さあ。」と説明を聞いているだけでは泳げないのと同じで、言わせたい英単語や表現がある場合、それを使えるように練習させることが大切である。その練習も、機械的な反復練習ではなく、様々な活動(ゲームを含む)を通して自然に練習させることで、子どもたちは無理なく英語を使えるようにする。
- ・主活動
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主活動はその名のとおり、本時における最も重要な活動である。子どもたちが適切に主活動を実施できたということは、本時のめあてを達成できたということになる。授業者は、子どもたちのどのような姿がめざすべき姿なのかを事前に想像しておくことが大切であり、明確に想像することで指導に一貫性が出てくる。
音声で十分慣れ親しんだ英単語や英語表現に、自分の思いや気持ちを込めて話す子どもの姿を想像し、それに合った主活動となるよう展開していく。必然性の無い活動にならないよう注意し、目的場面状況を意識させたり、相手意識をもたせたりすること。
- ・ふり返り
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子どもたち自身が本時の学習内容や自身の学習の仕方をふり返る時間であり、5分程度は必要だと思っておくとよい。学びに向かう力の育成や主体的に学習に取り組む態度の評価につながる時間であることを理解し、指導の積み重ねを図ること。
一番簡単な発問は、「今日の授業どうだった?」であり、子どもたちが感想を発表しあうことで、自分と同じ気持ちの子を見つけたり、違う気持ちの子の考え方にふれたりすることができる。指導者自身がふり返りの指導に慣れてきたら、めあてが達成できたかを思考させたり、新しい発見や友だちのよいところを見つけられたかどうかを判断・発表させたりすると、深い発言に近づいていく。
- 他教科での指導法の転用
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学級担任のもつそれぞれの長所に合わせて外国語の授業を構成していけるよう、他教科等の指導法と外国語の授業における指導過程(型)を比較したものを例示することで、学級担任自身が授業を構築できるようにした。
- 3-1 めあての提示に係る指導の転用
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総合的な学習の時間における課題設定に係る指導技術や、算数科等に代表される課題設定能力自体を高める指導技術を転用することで、子どもたちが主体的に外国語の授業に取り組むことができるようになった。下の表は、研修時に学級担任が自身の課題や現状を把握するために用いている。
- 3-2 各活動の接続に係る指導の転用
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小学校教員になったばかりのときは、例えば指導案にそって一つひとつ確実に活動を進めていくことに意識が向くだろう。しかし、これは本来の授業の形ではない。45分間の授業というのは、主活動にむけて論理的・建設的に構成されていて、ただ活動が平坦に並んでいるわけではない。各活動の接続には必然性があり、基本的には川の流れのように滑らかなものでなくてはならない。
学級担任にとっては道徳の授業が参考にしやすい。道徳の授業づくりと同じように、主発問を中心に発問計画を練ったり、子どもたちの思考の流れを想定した授業計画を作成したりすることで、学級担任がこれまで培ってきた教材研究の手法を外国語の授業に転用することができた。
- 3-3 ふり返りに係る指導の転用
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ただ感想を発表することが「ふり返り」ではない。子どもたちが自らの学びを調整していく姿勢や意識を授業者が指導していく時間がふり返りの時間である。感想の発表はその第一歩であることに間違いはないが、その先を見据えて指導していくのが大切である。
本校では、2018年度まで算数科の校内研究を通して、よりよいふり返りの時間について研究してきた。研究を通して、これからの社会を生き抜く力として自分の思いや考えを口に出して発表する力は必要な能力であり、自分以外の他者のふり返りを聞くことで、自らの学びを調整していこうとする姿勢や意識が向上するということを明らかにすることができた。そのための指導の具体としては、ふり返りの視点をもたせたり、ふり返りの時間を中心にした授業設計をしたりするということが挙げられ、これは外国語の授業にも転用することができた。
算数科の研究では、文章に記述させた後に口頭発表させるという過程が効果的であったが、外国語の授業では、第5、6学年で週2コマ、第3、4学年で週1コマの授業回数、そして、少しでも長く外国語の音にふれさせたいという授業者側の思いから、文章に記述させる過程を省略する方法を取っている。ただし、単元の中で1~2回程度であれば、じっくりと時間をかけて内省させることは効果的だと考え、文章によるふり返りも適宜設定した。
- 指導計画作成のための研修計画
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前述した各取組は、全ての学級担任に対して同時に研修できないという欠点がある。それは、学級担任の教員経験や知識量、得意とする分野が違うからである。初任者に対して「ベテランと同じ授業をせよ」と言ってもできないことと同じで、一元化したモデルを全学級担任に向けて「真似よ」というのは不可能である。
新しい研修計画は、共有しためざす子ども像、最終的な子どもの姿に育てられる授業者になることを目標に、そこに至る道のりは複数あってよいという考え方に基づいた計画である。
- 4-1 学級担任の外国語指導力等の段階
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研修過程を入門期、準備期、練習期、勉強期、授業期、自立期の6期に分けた今泉小学校の研究を本校の学級担任に合わせて改変し、基本的には練習期(前期)を終えるまでは一元化した授業モデルを模倣させる形で研修を進めた。以降は、それまでに身につけた授業技術や知識を基に、学級担任自身の得意とする授業方法の確立に向けた支援をした。
- 4-2 研修計画
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学級担任の外国語指導力等の段階を示した表から分かるとおり、小学校で外国語の授業を担当するためには、自立期に至っている必要がある。
上の表は、勉強期の学級担任に対して行う研修(講義)内容と実施時期の記録の1つである。単元の指導計画作成前に5週間、作成に2週間、作成後に3週間必要としているが、講義1回あたりの時間を15分として、学級担任の負担感に配慮する形を取った。講義の基本的な構成は、本校作成の資料を使って10分解説・確認をし、残りの5分は「自分だったら」という学級担任自身に置き換えた対話とした。また、基本的には1対1の個別で行った。
評価計画(評価方法含む)の作成では、学級担任独自の手法や考えが出てきて、想定していた以上の成果があった。子どもの発表順、個票の活用、授業者(評価者)の教室内の立ち位置など、一般的な指導案・評価計画には記載しない内容にまで踏み込んで研修することができた。なかでも、評価規準に加え実際の子どもの姿を記した「評価例」を複数準備しておくことが、学級担任が評価する際の助けになることが明らかになった。
4.得られた成果とその評価
2020年度11月現在、特別支援学級担任と第1、2学年の学級担任を除く学級担任12名中、授業期の学級担任が3名、勉強期の学級担任が3名、練習期の学級担任が6名となり、今年度末までには、更に1名が練習期を終え勉強期に入る予定である。8月に中教審が小学校教科担任制に向けた案を発表したが、学級担任が他教科の指導を転用しながら外国語の授業を再構築し、また、外国語の指導法を学ぶ過程で他教科の指導を見直すことができたところが最も大きな成果であると考える。たとえ今後、教科担任制となり外国語の授業を専科教員が担当することが当たり前になったとしても、この成果には大きな価値がある。
「専科教員以外の教員も外国語の授業を指導できる」という実際の姿を校内で見ることができるようになった点も、多くの学級担任にとって有益であった。外国語の指導が、自分には不可能な「遠い別の世界の話」ではなく身近なものとなり、日常的にそのような姿を見ることで、持続可能な外国語の授業に対する心理的負担を減らすことができた。この結果からも、本取組が本校の問題状況を解決するために適切であったと考える。
そして、本取組をきっかけにして、学級担任が最も心配していた外国語科の数値評価を、学校全体で具体的に考える機会にすることができたことは、学校目標「未来を拓く、心豊かなたくましい有鹿の子」の実現に寄与できたと強く思う。
(2020年度ELEC英語教育賞 神奈川県海老名市立有鹿小学校の申請書を編集して掲載しました)