ELEC英語教育賞
2020年度受賞校取組
宮城県宮城郡七ヶ浜町立亦楽小学校
英語を通したコミュニケーション力の育成 ―小学校「英語コミュニケーション科」の取組―
2020年度 ELEC英語教育賞 文部科学大臣賞を受賞した宮城県宮城郡七ヶ浜町立亦楽小学校の取組を紹介します。
1.取組前の課題
英語を通したコミュニケーション力とは,「英語を通して自分の頭で考え,自分の言葉で意見や考えを伝え合うことができる力」のことである。七ヶ浜町教育委員会・七ヶ浜町校長会が「英語コミュニケーション推進委員会」を立ち上げ,各学校の知恵と工夫によって「英語コミュニケーション科」の授業づくりと実践に取り組んでいる。
昨年度までの特徴は以下6点である。
- ALTがT1,担任がT2の役割を果たす授業を基本とすること。
- 担任は授業を構成し,ALTと相談や打合せを行い,TT体制の協働性を向上させる中で,授業の質を上げていくこと。
- 「明るく楽しく面白い」「英語嫌いを出さない」授業スタイルを目指しつつ,「何を育てるのか」「どのように育てるのか」を明確にしたアクティビィティを中心に,たっぷり活動させること。
- ALT(ネィティブ)の英語を1年生から6年間シャワーのようにたっぷり聞かせることをベースとした言語活動に取り組ませることにより,児童の「聞く」「話す」活動を量的に積み重ねさせていく中で,児童の身体全体に英語を慣れ親しませ,英語科4技能のうち「話す」「聞く」力を身に付けさせること。
- 児童同士,児童とALT,児童と担任による,発達段階に応じたコミュニケーション活動をスパイラル型の「年間指導計画」(USBデータ資料2参照)により繰り返し取り組ませ,「何ができるようになったか」を自己評価できる児童を育てていくこと。
- ALTが数年ごとに交代することを前提に,ALTの授業力に依存せず,ALTが交代する度に,授業者として育成し続けていくこと。
課題として,ゲームやアクティビィティ中心の授業だけでは満たされない英語そのものへの知的欲求の高まりにより,「コミュニケーションができる楽しさや喜び」だけでなく,「もっと英語を学びたい」,「読む力,書く力を付けたい」等,英語科4技能5領域の力を身に付けたいと願う児童が増えていることを踏まえた指導計画の見直しが必要であることが分かった(「平成29年度~令和元年度調査結果」。
加えて,七ヶ浜町の中学校英語科は,「七ヶ浜5ラウンドシステム」による授業づくりにより4技能5領域の「知識・技能」「思考・判断・表現」の学力向上を推進しており,学びの連続性の具体化を見据えた授業の工夫が必要である。
2.改善目標
以上のことを受けて,本年度からは,1年生から「聞く」「話す」技能に十分慣れ親しみ,コミュニケーション活動を身に付けたアドバンテージを十分に活かし,中学校の英語科につながる「読む」「書く」活動を,コミュニケーション活動の特徴を失わないようにしながら取り入れていくことを目指し,本年度の改善目標を「授業の精度を上げる」こととした。
精度を上げるとは以下4点である。
- 児童の知的欲求に応えるために,学びの目的を明確に示し,見通しを持って活動が連続していく授業を組み立てていく。活動あって学び無しとならないためにも,ねらいに迫るため の必要性を吟味したアクティビィティを行うこと。
- 担任の授業構想力とALTのコーディネート力の向上を図り,ALTと担任が同僚として授業づくりができる時間と関係性を職員室に定着させ,ALTの働きがいを得られるよう,授業づくりの対等性を保障すること。
- 担任とALTの授業づくりを介した関係性の豊かさが英語コミュニケーション科の中核となっていることを全職員で理解し協働性への意識を高めていくこと。
- スパイラル型の指導計画を十全に活かすため,発達段階に応じた「話す」「聞く」の活動に加え,高学年から,「読む」「書く」の活動を工夫すること。
3.目標達成に向けた具体的な活動内容
児童の知的欲求に応え,価値を感じるさせる活動
- コミュニケーション場面にリアリティがあり,憧れや夢を持って取り組む学習活動
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単元でどんな力を付けて,付けた力で何をするのかが明確な指導計画を立て,児童に提示する。授業と授業が単発で終わることのないよう,学習のゴールを示し「この学習でこんなことができるようになりたい」と自分の願いを持ち,学びたい意欲を高める導入を行う。児童がコミュニケーションの必要性を感じる題材選択や,学習課題を設定する。
- ねらいを達成するために必要なアクティビティの工夫
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担任は,授業構想において「英語を使ってゲームをすることで学びの成立にはならない」という意識をもつ。遊び的な活動で終わらせず「話す」ことや「聞く」ことを一層確実に保障できる場面を中心に授業を組み立てる。
- 6年間を通した発話の量的保障の徹底
- 学びの振り返り(自己評価力)の育成
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振り返りで,ALTが“fun.”“so so.”“ difficult.”と問い掛け,児童が当てはまる所に挙手せることによる簡易的な自己評価に加えて,「何ができたか」「さらに何ができるようになりたいか」を発表させる取組を重視する。発表の内容を共有することで学んだことの価値を自覚させ,お互いのコミュニケーション力の上達を認め合わせる。
ALTとの打合せを活かしアクティビティ等の目的を示した指導過程づくり
「書く」活動の日常化(高学年)
ALTのコメント評価を加えた,「書く」活動
- 英習罫8段ノートの常用
- 家庭学習や自主学習,昼の帯活動(15分)での継続的取組
4.得られた成果とその評価
「授業映像 6年生,特別支援学級,2年生の姿から」
- 授業構成において,ねらいに迫るためのステップが明確になってきた。「この時間に何を学ばせたいか」を柱に,取り組ませたいアクティビィティに必要なプラクティスを適切に設定し,単なるアクティビィティの羅列や,プラクティス とアクティビィティの関連性が見えない授業にならないよう1単位時間に「なぜその活動か」について説明できる授業づくりが進んだ。
- 担任とALTの打合せで,「活動の進め方の理解」「基本表現の確認」「デモンストレーションでの楽しさの工夫」を追求してきた中で,「ALTと児童がネィティブで率直にコミュニケーョンできる姿」が見られるようになった。また,打合せが短時間で密度濃くできるようになり,ALTが自信をもって授業ができるようになった。何よりALTと担任が楽しんで授業できている。令和2年4月にALT1名の交代があったが,これまで培ってきた,職員室の同僚性の働きや,研修により,即戦力として授業をすることができるようになった。
- 高学年では,双方向のコミュニケーションに活動意義が感じられ,子供たちの知的欲求に応えられるようになってきた。「必要感がありコミュニケーションしたくなる」活動場面を設定し,これまで低学年からインプットした英語表現への自信が加わり,どの子もアウトプットを楽しめるようになってきた。英語を使って自分の思いを伝える姿と相手の思いを受け取る姿が活動の中に見られるようになってきた。
- 子供の実態から考え,子供の課題を基に,授業の質を上げるポイントを設定し,そのポイントからアクティビティや対話の内容を決める授業づくりの土台が定着してきた。また高学年では,「What do you want to eat?⇒I want to eat ~.」「How about ~?⇒Yes,please./No,Thank you.」「Where is it from?⇒It’s from~.」のように,3往復以上のやり取りができるようになってきた。担任が,ALTと子供,子供と子供の関わりをコーディネートする力を付けている結果と考えられる。
- 自己評価力がついている。例えば低学年から振り返りの場面で,“fun. because A~”と表現(A~の部分は,日本語でも英語でも)できるようになった。
- 学年からネイティブを聞き続けたことにより,ローマ字の学習で聞いた音声と英語の音
- 声の違いを自然に理解でるようになっている。さらに6年生はほぼオールイングリッシュでの授業が可能となっており,中学校への繋がりを身に付けさせることができている。
(2020年度ELEC英語教育賞 宮城県宮城郡七ヶ浜町立亦楽小学校の申請書を編集して掲載しました)