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ELEC春期英語教育研修会を終えて(2025年3月26日~31日開催)

冬期に引き続き、今年も「ELEC春期英語教育研究会」が、3月下旬、6日間にわたって開催されました。新年度の準備で何かと忙しい時期にも関わらず、昨年度を大きく上回る数の先生方にご参加いただき、英語教育への関心と熱意の高まりを感じる研究会となりました。

本記事では、筑波大学附属中学校の高杉達也先生による研修の内容を一部ご紹介します。
高杉先生の貴重な講義から得られた学びを、読者の皆さまの英語教育にも役立てていただければ幸いです。

講師紹介:高杉 達也 先生

都立高校や千代田区立九段中等教育学校、小石川中等教育学校を歴任し、現在筑波大学附属中学校の英語教諭として活躍中。東京都に奉職中の「東京教師道場」をはじめ、その後もさまざまな研究会で発表されるなど、常にご自身の授業を見直す機会を持たれ、改良を重ねられています。
授業では、「聞く力」「読む力「話す力」「書く力」の4技能だけではなく、「思考力」の育成につながる言語活動に重きを置かれ、自然な英語使用につながる授業づくりを大事にされています。

著書:思考力・判断力・表現力を育てる 中学校・高等学校 「タスク×言語活動」英語授業デザイン 明治図書出版 書評はこちら

ー 教科書をフル活用した「生きて働く知識・技能」の育成 ー
(2025 ELEC春期研修会にて)

さまざまなアプローチがある中で、教科書を最大限活用する意義

よく耳にする「教科書通りの授業ってつまらない」といった意見。ですが、高杉先生の研修を拝聴して思ったのは、教科書こそが最も体系的で緻密に作り込まれた教材だということです。文科省が検定を通した教科書は、複数の現場の英語教師や大学の先生が関わり、長い時間をかけて作られています。この背景を知ることで、ただ使うのではなく、しっかりとフル活用する意味が分かります。例えば、文法や語彙の配列、活動の進行における「つながり」がしっかりと意識されていると思いました。

 「知識・技能」はただの暗記ではなく、活用できるもの

高杉先生は、「生きて働く知識・技能」の重要性を強調していました。単に知識を得るだけではなく、実際にコミュニケーションの中で活用できる力にすることを目標としています。文科省が示す「知識」と「技能」の定義を振り返ると、どちらも学びの中で活用され、思考力・判断力・表現力を通して深められることがわかります。このプロセスを実現するために、教科書を使ってどんな「活動」を組み立てるかが、授業の成否を分けるポイントになりそうです。

 知識をどう活用するか?手続き的知識を意識した指導

教科書をフル活用した授業設計には、手続き的知識を意識した指導が欠かせません。例えば、文法を単に説明するのではなく、実際にその文法を使って表現する場面を設定することで、生徒が徐々に運用できるようになります。まさに生徒が「使える」状態にまで知識を高めるために必要なアプローチだということもわかりました。

教材研究の大切さ

教科書をフル活用する。つまり「教科書教える」のではなく、「教科書教える」ためには、綿密な教材研究が欠かせないということを改めて実感しました。語彙や文法、活動がどのように組み合わされているのかを丁寧に分析し、生徒の学びの状況に応じて、どこを重点的に扱い、強調すべきかを見極めることが、授業設計のカギとなるのです。
研修では、高杉先生が実際の教科書を用いて、教材研究をどのような視点で行っているのかをご紹介いただき、実際の授業をデモンストレーションして下さいました。生徒役になって体験してみると、自然な流れで新出単語や表現に出会い、気づけばそれを理解し、使えるようになっている_そんな感覚を味わいました。
ただ教科書の本文を読んで、新出単語や表現をなぞるだけの授業とは、生徒の引き込まれ方が全く違います。「教科書を教える」退屈な授業との違いが、まさにここに凝縮されているのだと思いました。

教科書を通じて生徒と「つながる」

「つなぐ」という言葉が印象的でした。授業内での活動はもちろんですが、生徒が教科書を使った家庭学習にどのように取り組むかが重要です。家庭学習をただ「やらせる」だけではなく、教科書を通じて学びの循環を作り出すことが求められています。この「つなぐ」発想は、授業と家庭学習の一貫性を持たせ、学習効果を高めるのに非常に役立つ考え方だと思います。

最後に・・・

教科書をフル活用して「生きて働く知識・技能」を育てるためには、ただ教科書に沿って進めるだけでなく、その背後にある意図を理解し、教材の「つながり」を意識して授業を進めることの大事さを教えていただきました。

さらに今回の研修では、リーディングの授業の参考として、文字の音声化のみに留まらない音読として高杉先生が実践されている、Reading Show *1や、それをさらに発展させた、なりきりSpeaking Show*2 の様子、ALTの活用例などもご紹介いただきました。
スクリーンに映し出された生徒の表情こそ見えませんでしたが、思い思いの感情を込めて、読んでいるのが伝わり、何よりも楽しみながら一生懸命取り組んでいる姿に、熱くこみ上げるものがありました。思春期真っ只中であろう生徒たちが、授業でこれほど輝いて見えるのは、普段の授業における生徒と先生の「つながり」があってこそなせる業ではないでしょうか。

これまで研鑽を積まれてきた方法を、惜しみなく共有して下さった高杉先生。その熱量に応えるように、受講された先生方も真剣なまなざしで耳を傾け、講義後には質問の列が出来るほどの盛況ぶりでした。学び多い、実りある時間を本当にありがとうございました。


*1 教科書や基礎英語の本文をクラスメイトに向けて「演読」する、附属中学校が長きにわたって取り組み続けている活動。
*2 Reading Showの発展版。登場人物などになりきり発表する。各自で場面や状況に応じて英語を変えることも可能。