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オーラル・アプローチの衰退と継承 ①

C.C. フリーズが提唱したオーラル・アプローチは、1950年代から1960年代にかけて日本で広く採用され、特に中学校英語教育において重要な役割を果たしましたが、次第にその影響力が減少していきました。今回はそのオーラル・アプローチが衰退した経緯を追ってみました。

実践的なコミュニケーションに限界:オーラル・アプローチは、文法や語彙を口頭で反復し、正しい文構造を使うことに焦点を当てていました。しかし、反復練習が多く、固定された文型を用いるため、実際のコミュニケーション場面で柔軟に言語を運用する能力の育成が難しかったとされています。つまり、現実的な会話能力を高めるには不十分だという批判がありました。

コミュニカティブ・アプローチの台頭:1970年代から1980年代にかけて、言語を実際に使用する能力、特に話し手と聞き手が意味を共有し、やりとりを行うコミュニカティブ・アプローチが世界的に注目されるようになりました。このアプローチは、オーラル・アプローチに比べてより実践的で、言語の4技能(読む、聞く、話す、書く)を統合的に発展させ、学習者が実際のコミュニケーションを通じて言語を学ぶことを重視しています。この新しいアプローチが広まるにつれ、オーラル・アプローチの反復重視や形式的な文型練習が時代遅れと見なされるようになったと言えます。

生成文法とインプット理論の影響:オーラル・アプローチが重視する行動主義的な学習理論は、刺激と反応の繰り返しによって学習が促進されるというものでした。しかし、ノーム・チョムスキーの生成文法理論や、スティーブン・クラッシェンのインプット仮説(理解可能なインプットが言語習得の鍵であるという理論)の登場により、言語習得に対する考え方が変化しました。これらの理論は、単なる反復練習ではなく、理解できる内容を大量に聞くことが重要であり、学習者が文型やルールを内在化して自然に言語を使えるようになるプロセスを重視しました。オーラル・アプローチのような外部からの明示的な練習が効果的ではないとされ、言語教育界においてこの考え方が支持されるようになったと思われます。